愛知県議会選挙区定数の変遷
この記事は、筆者がこれまで調査してきた戦後の各都道府県議会の選挙区定数について、皆さまに広く知っていただこうとするものです。五十音順に記事を投稿しようと思ってますので、最初の投稿が愛知県議会ということになります。
さて愛知県議会の選挙区定数の特徴を端的に言えば、日本の都道府県議会の選挙区定数の問題点が凝縮していると言えます。
すなわち、名古屋市という日本有数の大都市を抱えている一方で、三河地区の山村に代表される過疎地域を抱え、一票の格差が拡大し、各選挙区の定数がいびつな状態になってしまったのです。
では具体的に選挙区の定数をみてゆきましょう。
赤色が定数が過剰に選出されている定数過多選挙区、青色が定数が過少に選出されている定数過少選挙区、茶色が配当基数0.5未満であっても選挙区を設置している特例選挙区です。なお選挙区の定数は、5年ごとに行われる国勢調査の人口を基本としています。その国勢調査の各都道府県の全人口を議会の総定数で割った数値が議員一人当たりの人口です。次に選挙区の人口を議員一人当たりの人口で割ります。それが配当基数で、これを基に各選挙区の定数が割り振られます。
やはり目立つのは、長年特例選挙区であった南北設楽郡です。この両選挙区は県議会内部でも自民以外の党が隣接する選挙区への合区を主張してきました。しかしこの両郡は、県面積の20パーセントを占め、東三河地域の水資源の確保にとり重要な地域ということで、選挙区が存置され続けました。次の自民党議員の発言が選挙区を存置してきた理由を端的に表しています。「人口減少が続いている過疎地域こそ、むしろ県行政によって補完されるべき課題が多い」(1990年10月9日 本会議における大谷忠雄議員の発言)
しかし両郡の人口は減少し続け、2003年両郡は合区し、北設楽郡および南設楽郡選挙区となりました。その後、南北設楽郡の自治体は平成の大合併によって、隣接する新城市などに合併し、南設楽郡は消滅、北設楽郡は新城市と合区することになり、現在にいたります。
次に名古屋市内の選挙区定数についてみてゆきます。名古屋市内は中村区や中区などの市中心部の選挙区が定数過多選挙区です。周辺部の選挙区はそれほど偏ってはいません。
市中心部の定数過多選挙区はもともと人口が多かったところ、郊外のほうに人口が流出していく、スプロール現象によって、定住人口が減っていきました。ただ気を付けたいのは、減ったのは定住人口、言葉を換えれば夜間人口が減ったのです。昼間人口は減っていません。市中心部の区は、たいてい官庁街やオフィス街、繁華街です。そこで勤務している人や来訪客は区外に住んでいます。またそうした人が集まる場所には、基本的なインフラ整備が必要です。そのような理由から定数が減らされなかったのです。
ただ定数が維持されてきた中心部の区も、1995年に中区が2から1に、1999年に中村区が3から2に減らされました。
次に地区ごとの増減をみてゆこう。愛知県は、尾張と三河の2つの地域に分けられるが、それよりも少し細かく分けたい。そこで活用するのが、衆院の中選挙区の区割りである。愛知県は6区に分けられていた。すなわち1区(名古屋市北部)、6区(名古屋市南部)、2区(春日井市、愛知郡、知多半島など)、3区(一宮市、犬山市、津島市など)、4区(岡崎市、豊田市など)、5区(豊橋市など)である。
まず人口は、どの地域も増加しています。1951年と2019年を比較すると、伸び率が一番高いのが2区の地域で2.60倍、続いて6区地域の2.57倍、4区地域の2.47倍、3区地域の2.10倍となる。1区地域は1.95倍、5区地域は1.46倍である。
人口の増加した時期は、地域によって違いがみられる。すなわち名古屋市は高度成長期に人口が増加している。特に6区の地域は、1951年の462,199人から1975年には1,008,363人と2.18倍に急激に増加した。他方、2区地域と4区地域では1980年代、90年代に増加している。2区地域は1975年の985,130人から2003年には1,581,338人に増加し、4区地域は1975年の931,919人から2003年には1,438,396人に増加しています。
では定数ではどうでしょうか。名古屋市内である1区は、1951年の14から1975年には19に増加し、同じく6区地域は1951年の10から19に増加しています(ただし1951年の定数には名古屋市外だった現在の守山区と緑区は入っていません)。人口が増加し、定数も増加しています。
しかし、人口が増加したからといって、必ずしも定数が増加したわけではありません。4区の地域が典型的ですが、1975年の19から2003年は20とわずか1しか増加していません。これには定数が過少に分配されている岡崎市と豊田市の影響かもしれません。
こうした現象は4区の地域だけではありません。5区の地域では人口が1975年には609,268人で2003年には759,215人と増加していますが、定数は14から12に減っています。5区の地域には前述した北設楽、南設楽郡の地域が含まれていますので、両郡の定数が減少した影響かもしれません。
ただこのような地域特有の事情があるにしても、人口の伸び程に定数が増えないのは、定数配分そのものの性質が関係しているのです。各選挙区の人口は、県全体の人口からは、その割合でも示すことができます。人口が増加しても、他の選挙区、地域がそれ以上に増加していれば、定数が人口の伸び程には増えません。
ところで愛知県議会の定数は、定数1の選挙区、すなわち一人区が多いのも特徴です。現在55ある選挙区のうち25が一人区です。2003年の選挙のときには59の選挙区のうち30の選挙区が一人区ということもありました。一人区、とりわけ配当基数が1.0未満の選挙区が多くなると、人口の多い選挙区の配分にも影響を及ぼします。
最後に次の点を指摘します。北設楽・南設楽両郡の特例選挙区存置の理由となった東三河地区の水資源問題、名古屋市中心部の区の定数過多選挙区の理由である都市インフラ整備や再開発は、基礎的自治体と呼ばれる市区町村だけではできない、県が関わる行政課題であると認識されています。逆に政令指定都市や中核市など都道府県の権限の多くが委譲されている選挙区などは、県行政の関与が少ないという理由で定数過少になりやすい。愛知県の事例で言えば、豊田市や岡崎市の事例です。言い換えれば、都道府県議会の選挙区定数は都道府県の役割は何かということに関係しているということが言えます。