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#1.なぜコンセプトが必要なのか(三年計画を定点観測/総括)

◆前書き

2019年12月に浦和レッズはそれまでの強化体制を改めて「フットボール本部」を設置し、戸苅本部長、土田SD、西野TDを要職に据えました。そして、この体制を発表する記者会見の中で「チームの柱となるべき一貫したコンセプトがないため、監督選び、選手選びの基準、サッカーのスタイルがその都度変わり、短期的な結果を求め、求められ、今まで来た」という反省から、「クラブ主導のチームづくりのコンセプトを元に、それをピッチ上で体現してもらう」という方向へ変革することを宣言しました。

そして、変革には時間がかかるとしつつも、浦和レッズは結果も求められるクラブであるということから、「三年計画」を作り、2023年以降は常に安定して優勝争いをするチームとなり、リーグ連覇を成し遂げることを目指しました。

その「三年」が経過する今、変革のスタートからここまでを振り返り、ここから先のクラブに何を求めるのか、何を期待するのかを考えて行こうと思います。


これはあくまでも僕なりの意見であり、とても断片的な視点であるので、ぜひこれを読んでくれているあなたにも「この3年間をどう評価しているのか」「ここから先はどうなって欲しいのか」といった「おもい」をnoteやブログでの記事でも、Twitterでも、あるいはyoutubeなどの動画形式でも、それぞれのやりやすい場所で書くなり話すなりしてもらいたいです。

ヘッダー画像にもある通り、僕は今回の記事に #俺たちが見た三年計画 というタグを付けました。このタグで色々な意見をアーカイブ化出来たら面白いなと思っています。

数字は漢字、全角、半角など表記揺れしやすいので避けたかったのですが、それでも「三年計画」という言葉があるからこそ、このタイミングでのまとまった振り返りをしようと思ったし、ここから先どうなるのかを気にかける人もいると思うので、「三年計画」という言葉を使うことにしました。



さて、ここから本旨に入っていこうと思うのですが、記事のタイトルに#1とつけている通り、何本かに分けて書いていこうと思っています。

今回の記事は「三年計画」を振り返るものなのですが、この「三年計画」という中期的な「戦略」や「コンセプト」といった言葉に対する認識や目線(話の前提)を揃えた上でこの3年間を振り返りたいし、そもそも「三年計画」とか「フットボール本部」とかってどういう経緯で出てきたんだっけ?ということを思い出すためにも、以下の順番で文章を書いていく予定です。

#1.なぜコンセプトが必要なのか
#2.コンセプトを浸透させるために必要なものは何か
#3.コンセプトは貫くべきか
#4.コンセプトを設定した浦和レッズはなぜ勝てなかったのか


まず今回は、先ほど軽く触れましたが、コンセプトとか戦略とかそうした言葉ってどういうことなのか、「三年計画」や「フットボール本部」というものが出てくることになった文脈、といったことを整理していきたいと思います。


◆理念の策定

浦和レッズが「フットボール本部」という強化体制でクラブ主導の強化をしていくと発表したのは2019年12月でしたが、これの前振りというか、「クラブとして」の一貫した理念を持つべきだという考え方は2014年2月に淵田さんが代表取締役社長に就任した際に「意識して取り組みたいこと」として話されています。

最後に、私自身が特に意識して取り組みたいことを三つお話しします。まず第一に「浦和レッズの活動理念」についてです。私が長い海外生活で学んだことは、異文化で、しかも価値観が相違する人たちと一緒に働くためには共通の理念が必要だということでした。理念を共有し、ベクトルを合わせて、チームで動いたときの力は素晴らしものになります。スタッフとは、しっかり議論を交わしていき、理念を共有していきたいと考えています。

二番目はコミュニケーションです。いくら立派な方針をつくっても、十分な説明がなければ理解されません。コミュニケーションは事業を進める上で極めて重要な要素です。クラブ内だけではなく、ファン・サポーター、パートナー、そして地域のみなさんも含めて、双方向のコミュニケーションを重視していきたいと考えています。

三番目は『自律・自立・考動』という言葉です。自らを強く律し、自立した個人として、よく考えて行動する、ということを浦和レッズの共通価値観にしたいと考えています。


「サッカークラブって何を大切にするべきなの?」という問いに対して、出てくる答えも、それらの優先順位も人それぞれだと思います。(勝利を目指すこと、エンタメ性があること、サッカーの普及、地域活性化、etc…)

また、「サッカー選手は何を目指すべきなの?」という問いに対しても同様のことが言えるだろうと思います。(勝利を目指すこと、自身の成長を目指すこと、観ている人の心を動かすこと、所属するクラブや街の価値を高めること、etc…)

選手や監督・コーチ、スタッフ、フロントなどクラブの中にいる人たちはどんどん入れ替わっていきますし、昔からいた人、新しく加わった人、といったクラブの中にいる年数だけでなく、そもそもその人がどこから来たのかといったルーツによって個人レベルではお互いに異なる価値観を持っていることが自然です。


浦和レッズに所属する人が共通して持つべき価値観を設定することで、いつの時代でも変わらずに目線を揃えることが出来、属人的ではなく、組織としてより大きな目標に向かうことが出来る、そのための「浦和レッズ理念」と「浦和レッズ選手理念」の作成を2015年12月にプロジェクトとして開始し、2018年5月に策定、発表されました。

これらはたまにクラブハウスの中を撮影した映像や写真を見ると壁に掲載されていることが確認できるので、クラブとしてこの理念を浸透させようとする試みも窺うことが出来ます。


そして、これに伴うメディアブリーフィングでは淵田さんから理念の根底にあるものについても説明されています。

今回の理念の前に作られた活動理念というのは、1992年に発表されていますけれど、青少年の健全な育成とか、健全なレクリエーションの場の提供、浦和から開かれた世界の窓になる、というような言葉があったのですが、本当にそういう理念に自分たちの仕事をつなげられているのか、という部分では疑念を持つことがありました。
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浦和レッズにももう一度、今まである活動理念、それから文言にはなっていないようなものの考え方、精神、ビジョンなどがあったりするわけですけれども、それらをみんなが同じような腹落ちできるようなものにしていく。そうしないと、なかなか次のステップに向いていけないんじゃないか、と考えました。
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決して、この25年が無駄になっている、ということではありません。そういったものが根付いてはいるけれども、本当に大きな、体系的なものとして見たときにできあがっているのかというと、そうではないので、一度、この25周年というタイミングでしっかりと整理して、クラブの中に浸透させていきたいと思っています。
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一方、選手の理念ですが、これも何年か前、犬飼社長(犬飼基昭/浦和レッズ元社長)のときに、『早く(速く)、激しく、外連味(けれんみ)なく』という言葉がありました。そのほかにもそれまでの浦和レッズやその前身の時代に大切にしてきた言葉もあります。そうした今まであるものをまとめ直した、浦和レッズの選手としてあるべき姿になります。

部分的に抜粋


ここまで、「理念」とか「コンセプト」とか抽象的な言葉が出てきていて、この後も「戦略」や「戦術」という言葉も出てくると思います。これらの言葉は異なる階層である(同じ土俵で話すものではない)ということを一旦整理してから先に進もうと思います。

ざっくり図にすると以下のようなイメージだと理解しています。

理念はより普遍的であり抽象的なもので、そこからその時代、タイミングに合わせつつ、より考え方を具体的にしていくという流れがこの図です。

浦和レッズ理念を見てもらうと、その中身が普遍的であり抽象的であることが分かると思います。例えば「ビジョン(あらゆる分野でアジアナンバー1を目指す)を実現するための3つの目指す姿」としてあげられているのは、強くて魅力あるチーム、安全・快適で熱気ある満員のスタジアム、自立し責任あるクラブ、となっています。

ただ「魅力あるチーム」というだけではなく「強くて」とあるのが大切なポイントだと思いますし、それは選手理念として掲げられた「サッカーを極め、勝利を追求する」という姿勢を求めることにもつながります。育成型クラブとして中位に食い込めれば良いよということではなく、あくまでも「勝つこと」「強くあること」を大事にします、と理念で謳っているわけです。


◆理念に続く、コンセプト、戦略、戦術

「じゃあこの理念をどうやって目指すの?」というのがその1つ下の階層にある「コンセプト」です。これが2019年12月の会見で土田SDから述べられていたことになります。

これからチームコンセプトをつくっていく上で最も大切なのが、『浦和の責任』というキーコンセプトです。浦和の街を理解し、伝えていかなければならない、サッカー文化が根付き、歴史があり、熱いファン・サポーターのみなさんが住んでいる街、そこをホームタウンとする浦和レッズには責任があります。選手はあの埼玉スタジアムで、あの環境の中でプレーをする責任を感じてプレーしなければならない、この浦和の責任を再認識し、ピッチで表現していかなければならないと考えています。

チームコンセプトを説明します。今お話ししました『浦和の責任』というキーコンセプトをベースに、チームコンセプトを3つにまとめました。

一つ目は、『個の能力を最大限に発揮する』。二つ目は姿勢として『前向き、積極的、情熱的なプレーをすること』、3つ目は『攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること』。浦和らしいサッカーとは何かと考えると、攻撃的でなければならない、2点取られても3点取る、勝つために、またゴールを奪うために一番効果的なプレーを選択すること。ファン・サポーターと選手が共に熱狂できる空間を共有し、一緒につくりあげていく、それを表現できるのは、埼玉スタジアムであり、浦和レッズにしかできないことだと思っています。

まず、攻守一体となり、途切れなく常にゴールを目指すプレーを選択することです。具体的に簡潔に説明しますと、守備は最終ラインを高く設定し、前線から最終ラインまでをコンパクトに保ち、ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う、攻撃、ボールをできるだけスピーディーに展開する、そのためには積極的で細やかなラインコントロールが必要になると思います。

攻撃はとにかくスピードです。運ぶ、味方のスピードを生かす、数的有利をつくる、ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持っていくことです。相手が引いて守るときには時間をかけることも選択肢としてありますが、フィニッシュを仕掛けるときにはスピードを上げていくことが重要です。攻守において、認知、判断、実行のプロセス、全てのスピードを上げることが重要になります。このプロセスをチームとして共有して、パフォーマンスとして見せることを目指します。


理念よりもずっと具体的になりました。ただ、このコンセプトをしっかり読んでみると、別にそんな特別なスタイルを構築しようとしてるようには見えません。そもそも、サッカーは攻守がどんどん入れ替わる競技で攻撃が終わった後に守備の陣形を整えるために時間がもらえるわけではないので、常に攻めながらも守ること、守りながらも攻めることを考えないといけません。

また、「攻撃はとにかくスピード」と言いつつも、「相手が引いて守るとにきは時間をかけることも選択肢としてある」というのも当然です。相手の陣形が崩れていたり、ボール保持者がオープンならゴールに近いところから選ぶべきだし、ゴール前を固められているなら、相手をそこからどかすために時間をかける必要があります。

大事なのは「攻守において、認知、判断、実行のプロセス、全てのスピードを上げることが重要」で、「このプロセスをチームとして共有して、パフォーマンスとして見せることを目指す」という部分です。

これはクラブがどの指導者にも、どの選手にも求める方向性です。逆に言えば、クラブはこの方向性に合致する指導者や選手を選定する必要があります。もちろん、現状はそこには少し足りていないけど、浦和で過ごす中で成長していってこの要件を満たせるようになるということを期待する「見込み採用」もあると思いますが。


ここまでで、共有すべき価値観や目指すべき姿(理念)の次に、それを実現するための方向性(コンセプト)が設定されました。ただ、理念、コンセプトを定めたその瞬間にそれが出来るようになれば素晴らしいことですが、今の状態がそうした理想的な姿ではないからこうしたものを掲げたわけです。なので、理念、コンセプトを実現するためには多かれ少なかれ時間が必要です。

そこで、「いつまでに、どのくらいの成熟度を目指すのか」という「戦略」の策定という次の階層へ移っていきます。そして、ここで出てくるのが「三年計画」になります。「いつまでに」という中長期的な目線です。

土田SDのコメントをそのまま引用します。

来季から、3年の計画をつくりました。基礎づくり、変革にはある程度の時間が必要となります。一方で、常に結果を求められるクラブであることも理解しております。しかしここで目先の勝利だけを追い求めると、今までと同じことの繰り返しとなります。ですので2020年は3年改革の1年目として、変革元年としました。キーコンセプト、チームコンセプトを浸透させながら、ACLの出場、シーズン終了後、得失点差プラス2桁以上が目標となります。

2021年は飛躍の年とし、選手全員がコンセプトを理解できること、表現できることを目指し、2022年にはリーグ優勝を成し遂げたいと思っています。2023年以降は、常に安定して優勝争いをするチームとなり、リーグ連覇を成し遂げたいと思っています。

理念やコンセプトが「いつか出来るようになれば良いと思ってます」という温度で良いかというとそうでは無いですよね。そのうち勝てるようになりたいという程度のチームにどれだけ情熱を注げるのかというとそれは難しくて、「俺たちはこの期間でこれくらいやれるようになりたいんだ!」という具体性があった方が共感しやすくなると思います。

それだけでなく、出来るようにならなければいけない要素がいくつかあるとした場合にそれらを習得していく順序や時機を考える必要があったり、サッカーは相手のいる競技なので期間とコンセプトの兼ね合いを見つつ、相手を上回れるものを作るために優先すべきものを選んだりすることになります。

この具体性に共感してくれて、直近でチームに必要な要素を持っている指導者や選手にチームへ加わってもらうことで、チームとして目線も温度も揃った状態が作れます。


さあ、理念、コンセプト、そして戦略が決まりました。「いつまでにこれを出来るようにする」となっても、「じゃあそのために今何をするの?」ということの設定が必要になります。サッカーであれば、目の前の試合、目の前の相手に対してどうやって勝つのか、つまり「戦術」を設定していきます。

ここでは、コンセプトや戦略という「目指しているもの」と、とは言え「今できるもの」はこれだという、理想と現実のバランスを取ることが必要になります。戦略的に編成した選手たちの中で、各選手のコンディション、相手との兼ね合い、チームとしての方向性、これらを勘案してメンバーと試合でのスタンスを設定していくことになると思います。

理想を追っているから目の前に試合に負けても良いなんて都合の良いことは言えません。目の前の試合に本気で臨むことで、そのために努力した積み重ねがより大きな成果を生み出せます。

それに、目指すものは高尚であっても負け続けたり結果が出なかったりすれば「今やっていることは正しいのか?」という疑念がチームの内外に漂うでしょうし、たとえ目指すものに対して適切な努力をしていても、それに対する説得力は結果がもたらしてくれるものです。


「やっていることの正しさは分かる人に分かれば良い」というのはちょっと都合が良すぎるかなと思います。やりたいことをやり通すためには周りを納得させるだけの最低限の結果は出さないと「それなら別の人で良くない?」とか「他のやり方で良くない?」と言われかねません。極端な話、理想を求めているから下のカテゴリーへ降格しても仕方ないのかと言われれば、そんな訳ないでしょとなると思います。

目の前の試合を本気で勝ちに行くという情熱がないと、実際にプレーする選手もなあなあになるし、観ている方も気持ちが乗らないですよね。そもそも、浦和レッズ選手理念には「浦和レッズの選手は、その1試合の勝利を追求することに全力を尽くす姿勢や執念を示さなければなりません」とも定義されているので、そこを疎かにすることなどあってはいけないのですし。

要するに、戦略上3年後に優勝を目指すと言っているからといって、目の前の試合に負けても良いという気持ちで臨むことはあってはいけないし、そのつもりではないはずだ、ということです。だからそのためにはきちんと「戦術」を設定して目の前の試合をどうやって勝ちに行くかの目線を共有して、認知、判断、実行のスピードを高めていくことになります。


◆過去にもトライした「コンセプト」重視

ということで、ここまで、理念、コンセプト、戦略、戦術という4つの階層の位置づけを確認してきました。浦和レッズは2018年に策定された理念をベースに、2019年にコンセプトと中期的な戦略としての3年計画を掲げ、2020年からはそのコンセプトや3年計画の実現を目指して、大槻監督、リカルド監督のもとで各試合で戦術を設定して闘ってきました。こうしてクラブとしての理念を起点にした論理的な強化の在り方をサポーターに対しても具体的に示してきたのがこの4~5年の大まかな流れです。

ただ、浦和レッズがこうしたクラブが策定したコンセプトをベースにしたチーム強化をしようとしたのは今回が初めてではありません。少し長めに浦和レッズを見てきた人は過去にも似たようなことをやろうとした時期があったことを覚えていると思います。


2008年末に当時の藤口社長のもと、信藤健仁さんがトップチームに特化した強化担当としてチームダイレクターに就任したタイミングがそれにあたります。2006年にJ1優勝、2007年にACL優勝を果たしながらも、2008年は開幕早々にオジェック監督を解任し、5年ぶりの無冠でシーズンを終えたというのが当時のざっくりとした状況です。

就任会見では、タイトルをいくつか取れるところまで成長してきた中で、クラブとしてさらにステップアップするためには、チーム強化の中心人物は三菱から出向で来た人ではなくその道のプロを据えるべきだということで信藤さんが就任したことが述べられています。そして、信藤さんもまたクラブとしてコンセプト、哲学を明確にするべきだという考え方を持っていて、そのために思い描くスタイルに近いフィンケ監督を招聘したこともコメントされています。

少し長いですが、その会見の一部を引用しておきます。

■哲学・コンセプトは?
信藤チームダイレクター(TD)「コンセプトがなくては物事が絶対にうまくいきません。それは曖昧なものですが、クラブが目指す方向性やとらえているサッカーの観念は、ある程度、言葉にしていかないと、共有していかないとクラブもチームもうまく成長できません。
そのコンセプトはもう明確にしました。チームは今日でシーズンが終わったので時期を見てということになりますが、数日中にクラブのメンバーがすべて把握できるように明確にしてあります。例えば、タイトルを取ることを目指すのは当たり前のことですが、そのコンセプトの中にはタイトルを取るだけでは駄目だとあります。はっきりした魅力あるスタイルで、他のチームのモデルになる可能性を持った戦い方をしてタイトルを狙っていかないと、ぶれていきます」

■何を変えなければいけないと考えているか?
信藤TD「特にビッグクラブはクラブワークなくしていいものは生まれません。クラブワークがこれまで曖昧だったかは検証していきますが、実際にはクラブの方向性はコンセプトにのって進まないといけないし、それがあるから初めてチームのスタイルが魅力あるものになると思います。ピッチ上でのサッカーも戦術的な規律があってこそ個人が輝きますし、その辺はないがしろにしてはいけないという強い気持ちを持っています。そこを変えなければいけないと思います」

■監督も大事になってくると思うが?
信藤TD「方向性の70%くらいには影響があると僕は思っています。次期監督はフィンケ氏で合意に至りました。彼でいけることをすごく喜んでいます。ドイツで以前、試合も見ていますし、彼のチーム作り、グループ作りや構築の手法、目指すサッカーは、僕の描いていることの中でベストの選択だと思っています。フィンケ氏ともクラブの今の問題、選手の問題、最終戦に至るまでの終盤戦の課題や次に変えていく点という局面のことも含めて、実際に協力関係でやるとしたらということで、オファーに対して話をしました。極めて細かいところまで、準備にはこだわる人です」

■コンセプトが浸透するには時間がかかりそうか?
信藤TD「分かりません。というのは、それを打ち出して監督はこういう人じゃないとということをレッズのスカウトから情報をもらって、やっとここまでこぎ着けました。チームに発信して動き始めて、スポンジのように受け入れてくれればうまくいくでしょう。その間に長年の悪い習慣や、そうはできないような悪いヒエラルキーがあったら拒絶反応を起こされて時間がかかるかもしれません。でもベストを尽くしていこうと思いますし、大きく変革のスピードが上がるために僕はトライをしたいです」


当時の僕は高校生(坊主頭の野球部員)から、浪人生になっていった時期で試合をフルで観ることはほとんどありませんでしたが、それでもフィンケ監督のもと、山田直輝や原口元気を筆頭に若手選手へメンバーが切り替わっただけでなく、それまでの個々の能力でやりきるようなスタイルからチームとしてボール保持を増やしていくスタイルへと大きく変わったことは覚えています。

当時のフィンケさんの言葉は今でもクラブ公式を掘り返せばいろいろ出てきて、今回この文章を書くにあたって2009年3月や2010年3月のTalk on Togetherの全文を読みましたが結構面白いです。


ただ、このクラブ主導の強化体制はあっという間に終わってしまいました。2009年11月に信藤さんが体調不良で休養からの退任となり、2010年1月にクラブOBの柱谷幸一さんがGMという形で強化担当に就任しました。そして、この時に柱谷さんは「戦術的な話はすべてフィンケ監督に任せている」と発言しており、クラブの変革からわずか1年で戦略、戦術の方向性はクラブではなく監督に委ねられているような状況へすげ変わってしまっているように見えます。

(監督との話し合いの中で、継続する部分は当然あると思うのですが、さらにこういった部分を強化していかないといけないというようなお話は?)
柱谷GM「戦術的な話というのはまったくしてないです。もうすべてフィンケ監督に任せて。ただ、これから練習が始まりますし、キャンプもありますし、リーグ戦も始まっていきます。基本的にはチームに帯同してトレーニングもゲームも見ていきますので、その中で感じたことというのは自分なりにフィンケ監督に伝えていきますし、質問があれば質問します。『一番大事なのは信頼関係だよね』ということで、お互いそれは確認しています。」

さらに、2009年4月の段階で信藤さんとともにフィンケ監督を招聘した藤口社長は既に退任しており、いよいよクラブ変革を掲げた時の先頭に立っていた人がいなくなってしまいました。

この時は結局藤口さんと信藤さんの2人が属人的に変革を進めていて、それが後任には上手く引き継がれなかった、あるいは引き継がなくてもまかり通る体制だったと言えるのかもしれません。

信藤さんのチームダイレクター就任会見では「コンセプトは明確にした」と言いつつも、それがどのような内容だったのかパッと調べただけでは見つかりませんでした。MDPなど紙媒体のどこかに掲載されたのかもしれませんし、サポーターからは見えないところだけで共有されたのかもしれません。

コンセプトがどのようなものだったのかが分からないだけでなく、そのコンセプトの根拠となる理念や、コンセプトを実現するための戦略的な目標設定も不明確でした。2010年のシーズン終了時に出ていた橋本社長と柱谷GMのインタビューでは、変革をするにあたって目標も役割も色々曖昧だったというコメントもありました。

Q: クラブとしても「チームマネジメント改革」に対する問題点や課題はなかったのか?
代表: レッズは2008シーズン終了後に「クラブが主体的にクラブの哲学、方針、目標を定め、それに基づいた役割や目標に合意した指揮官を選任し、長期的にレッズらしいサッカーを作り上げる」という「レッズスタイル構築」に着手しました。強化責任者を定め、その権限のもと指揮官の役割を明確化する。そして、チームが最大の成果を発揮できるよう、クラブが全面的にサポートし、クラブとチームの一体感を生み出していく循環をつくることは大切なことだと考えています。
チームマネジメントについては、2年間にわたって修正をし続けたものの、課題が残っていると考えています。昨年(2009年)のスタート時に、強化責任者と監督の役割が不明確で、目標も明確でなかったという点で、決めるべきところ、共有するべきところがあいまいになっていた面があります。この反省を踏まえ、2010シーズンに入る際、監督はGMが差配する等の役割を明確化し、ACL出場権獲得という目標を共有するという修正を行いました。GMと監督のコミュニケーションの量も含め、改善はしたものの、2年前に不明瞭なままスタートさせた影響もあり、完璧な認識の共有というところまでには至らず、多少のずれが残ってしまった中で、その部分が外部に発信されたり、無用な誤解を生むということもあったと考えています。特にメディア対応の部分では、初期にクラブから監督に対して適切なアドバイスが不足していたため、最後まで修復することができなかった感があり、この点は大きな反省点です。


そして、2011年にはゼリコ・ペトロヴィッチ監督のもとチームは低迷して残留争いに巻き込まれ、シーズン途中で柱谷GMが解任され山道守彦強化部長が就任、翌年からミハイロ・ペトロヴィッチ監督(ミシャ)へ変わると、浦和のスタイル=ミシャ式という構図がどんどん色濃くなり、浦和レッズはクラブ主導ではなくミシャ主導の強化を続けていくことになります。


冒頭にあげた淵田さんの就任会見でのコメントはこうした過去の失敗が文脈としてあったのだろうと思います。そして、それを反省し、クラブとしての理念という最上位概念を定義した上でフットボール本部によるクラブ主導の強化体制が2019年に作られました。2008年末からのそれと異なるのは、クラブとしての理念、コンセプト、戦略を具体的に定義し、サポーターにも共有していることと、戸苅本部長、土田SD、西野TDを筆頭にして明確に経営部門とは切り離した上でトップチームに限らない体制化もされていること。

だからこそ、今回の体制にはクラブとして継続的な強化をしている姿勢を示し続けることが求められるべきだと思っています。クラブの理念、コンセプトを具現化する指導者は唯一ではなく、指導者が変わってもクラブとして目指している理念やコンセプトからブレないことが大切です。

そして、これは2020年~2022年での3年計画の後も継続していかなければいけません。コンセプトを実現するための戦略が3年計画であり、これの出来不出来を精査した上で、その次の戦略を決めていかない限り、いつまでも浦和レッズはリセットボタンを押し続け、過去と同じ失敗を繰り返し続ける危険性があります。

「それとなくやって上手くいけば良いや」といった曖昧なやり方では上手くいかなかった時の原因は見つけにくいですが、きちんと論理立てて進めて行けば不具合が起きた時の原因はいくらか推測しやすくなります。「これだ」という原因のあたりがつけば、そこを手当てして同じミスが起こらないための対策が出来ます。これは体制の中で経験を積み重ねていくことでしかミスや不具合の数を減らしていくことは出来ません。

だから、中期計画としての3年計画の成否ですべてをひっくり返すのではなく、クラブとしてもっと広い視野で強化していくべきであり、それを出来るための体制を用意していると思っています。



まずは#1として、クラブ主導がどういうことなのかを理念、コンセプト、戦略、戦術という言葉の整理と、これまでの浦和レッズの取り組みのおさらいで確認しました。次回の#2では策定したコンセプトを実際にプレーする選手たちにどうやったら浸透させることが出来るのかについて考えていきたいと思います。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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