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【雑感】W杯2022 QF フランスvsイングランド

基本的には浦和関連の試合しか試合を観た後に文章を書くことはないのですが、今回は縁あってW杯の試合についての雑感を書くきっかけをいただきました。

まあ、雑感としてまとめるほどではなくても試合を観ながらツイートはだらだらすることもあったのでその延長くらいの感覚で読んで頂ければと思います。イングランド目線でと言うことで割り当ててもらっているので、そのつもりで書いていきます。


さて、フランスvsイングランドという日本時間は28時KOながらも中継の視聴数が多かったであろうカードについて書いていくわけですが、この試合の大まかな構図としてはイングランド保持vsフランス非保持で、フランス側がエンバペの非保持でのタスクをかなり削減していることがイングランドの保持にも大きく影響していたと思います。

前の試合では実はデシャン監督はエンバペに「もっと守備しろ!」(きちんと中盤ラインに入ってスペースを埋めろ!)と怒っていたとのリポートが中継内にありました。ただ、それでも前残りしたおかげで最後まで脚力が残っていて相手の脅威になるのであれば、そこで腹を括るのもまた一興。この試合でも引き続き、エンバペが非保持で中盤ラインに加わることは稀でした。

フランス側が「俺たちはエンバペをここに残すけどお前たちはどうする?」という投げかけをしてきたわけですが、前半のイングランドがウォーカーをビルドアップ時に最後尾に残す、尚且つあまり外に開かせない、という配置にしていたのは、ネガトラでエンバペの前にスペースを空けたくないという意図があったのかなと想像します。


イングランドの保持の基本陣形はDFを左上がりにして、アンカーのライスがへその位置にいる3-1の形をベースにしていました。左サイドはSBのショーが前に出て、WGのフォーデン、IHのベリンガムの3人がローテーションしていくことが多い動的な状態、右サイドはウォーカーが後ろに残り、WGのサカも前に残ることでポジション入替をあまり行わない静的な状態になっていたと思います。

フランスは列の人数で言えば4-4-2にすべきなのか、ほぼその形にならないけど4-5-1と表現すべきなのか難しいところですが、ジルーがライスへのコースに蓋をしておいて、その左脇にエンバペがいるという時間が多かったと思います。そのため、ウォーカーとサカの距離と、エンバペとエルナンデスの距離がほぼイコールの状態で、その間のスペースは広めに空いているのでそこへヘンダーソンが入っていくというイメージだったと思います。

ベリンガムにしろ、ヘンダーソンにしろ、イングランドのIHはジルーの両脇に下りてきてボールをピックアップしようとする場面が何度もありましたが、グリーズマンやラビオがここについていくことで簡単には1stラインを内側から越えることはできませんでした。

ヘンダーソンに対してはエンバペとエルナンデスの間で外側に開いてボールを受けようとすることもありましたが、ラビオがそこまでしっかりついてきていて、右サイドは初期配置ではスペースがあるけどそこを走力でカバーされるのでなかなか突破口になれないという展開だったと思います。


そうなると、少しずつ各選手の配置をずらして相手の目線を外しにかかっていこうと試行錯誤するわけで、15'20にはヘンダーソンがエンバペとジルーのゲートより手前まで下がってボールをピックアップした流れでライスがフリーになりました。さらに、ヘンダーソンが後ろに下りたことに乗じてウォーカーは外に開いてエンバペを越えた位置まで出やすくなり、ライスが中盤でターンして前を向くと一気に右外からフランス陣内へ侵入していきました。

ここで一気に攻め入ったところでサカがウパメカノにボールを奪われると、ネガトラでエンバペと対抗するはずのウォーカーは最前線に取り残されているのでエンバペがオープンな状態になってしまいました。ストーンズ、ライスと爆速で戻ってきたウォーカーの3人でここを塞ぎにかかりますが、塞ぎきれずに逆サイドまで展開され、再び中央にボールを戻されたところをチュアメニに見事なシュートを決められてしまいました。

この試合での大枠としてエンバペの扱い方が両チームのテーマだったのかなと思いますが、そこでイングランド側がリスクを負ってウォーカーを前に出したところから点に繋がったのは勝負の難しさを感じました。

「やべ!エンバペにフリーでボール入っちゃったじゃん!」ということで一気に3人がかりで塞ぎに行ったのかもしれませんが、サイドに3人がかりでいったところを外されると中央は当然手薄になるわけで、そうなるとまずはゴール前、ペナルティエリアの中央の埋めることを優先することになり、そうなるとバイタルエリアは手薄になるわけで。


後半からはビルドアップの配置を少しニュートラルにしたというか、前半よりはDF4枚がそのまま最後尾に並ぶことが増えたと思います。CBが中央に2枚、SBはある程度外へ開くというイメージです。また、サカが少し内側によってラビオの背中を取るようなポジションを取ることで、外へ動いていくヘンダーソンが空きやすくなって、5'20以降は連続して右外でヘンダーソンがフリーになるようになりました。

こうしてフランス陣内へ侵入出来たところから一時的にカウンター合戦になり、その流れでサカが右に流れてきたベリンガムとのワンツーを仕掛けたところでPKを獲得し、ケインが見事に決めて同点に追いつきました。サカが前半よりも内側に入ってくる動きが早速奏功したのかなと思いますが、フランス側もこの失点直後に内に入るサカにはエルナンデスがついていくことを共有したのか、再びラビオが外へ出ていくヘンダーソンへの対応を強めていました。


この試合は両チームとも積極的なプレッシングというよりはミドルゾーンで4-5-1のような配置でセットすることが多く、逆サイドからボールが戻されてきたときにIHがCFの隣、あるいはCFを追い越して相手CBまで出ていくことでリサイクルを防ぎに行くアクションがあった程度だったと思います。

今大会は全体的な傾向として中盤ラインを越えられたらDF+MFの8~9人が一旦ゴール前に集結し、そこから再びボールへアタックしに出ていくということを愚直に繰り返すチームが多いような気がします。ただ、そのためにはチーム全体のハードワークが欠かせませんし、試合終盤になればそこはどうしても綻びやすくなります。

31'10~のフランスの前進に対してベリンガム、フォーデンの戻り遅れがあり、右からのクロスに対して4バックを左右に振られた隙間でジルーに決定機を与えました。このシュートはピックフォードがセーブしたものの、直後のCKからの流れで再びジルーが放ったシュートが決勝点となりました。

このゴール自体はジルーのヘディングしたボールがマグワイアに当たってコースが変わったので不運な面もありますが、イングランド側として悔やむべきはそこに至るCKを与えた方だったのかなと思います。



僕は普段浦和レッズの試合を観ていて、それ以外で言うとスペインのレアルソシエダが好みです。この時点でお察しの方もいるかもしれませんが、いわゆる「ポジショナルプレー」と言われる、ピッチ全体に各選手がバランス良く配置され、それぞれが有機的にアクションを起こすようなスタイルが好みです。

ただ、サッカーという競技のルールや人の体の構造などによって考えられるプレーにおける正論であったり、全体に有機性をもたらす論理さえあれば相手を攻略できるのか、試合に勝つことが出来るのかというとそうでは無いことを2022年の浦和を見て感じていました。ちょうどこの試合の前日に浦和の公式LineNewsで公開された林舞輝コーチのインタビューでもそれに近いことが言及されています。

「リカルドさんの理想とするサッカーとタイプが異なる選手がいたかもしれませんが、それが逆に武器になるということは、めちゃくちゃ学びになりました。リカルドさんが考えているような、論理的に優位性を得ることだけではなく、論理を外れた理不尽な力を持った選手たちが、最大限の能力を発揮することでチームがうまく回る。だから、配置も大事だけど、組み合わせも大事。英語で言うとケミストリー。2人、3人の関係性の大切さはとても勉強になりましたね」


論理性、あるいは再現性と言っても良いかもしれませんが、きちんと整備されたやり方を持っているチームに対しては対策を考えられやすくなりますし、プラン変更するためにはチーム全体で目線を揃える必要があるのでまとまった時間がとれるところ(基本的にはハーフタイム)まで時間稼ぎをするか、事前にプランBの内容と発動条件を共有しておく必要があるだろうと思います。

一方で、論理性がない、予測のしようがないプレーが出来る選手はチームとして計算は立ちにくいのでギャンブル性はありますが、相手にとっても計算が立たないので厄介な存在になり得ます。ただ、チームとして設定している論理やサッカーという競技における正論を意図的に逸脱できる(その場の状況に合わせて非論理的な選択ができる)ような選手がどれだけいるかというと、なかなかいないのではないかと思います。

そもそも、僕らも日常生活の中でここはこうすべきというものが頭の中にある中で、目の前で起こった出来事に対して毎回その「すべき」を疑って判断し続けることが出来るでしょうか。これって、かなり精神的に負荷がかかることだと思います。そもそも、高度な判断を毎回、瞬時に行い続けることが大変だから、判断の方法を事前に設定して、それが無意識に出来るようにするためにトレーニングしている訳ですし。


W杯の決勝トーナメントのレベルで正論を繰り返して勝てるのは、相手が正論で返し続けることが出来なくなった時です。元々は個人、ユニット、グループと、ミクロの部分で優位に立てないチームがそれを補うためにチームとしての有機性というマクロの部分を高めてきたのがフットボール全体の進化と言えるでしょう。

ただ、今はその有機性の高め方が一般常識化していてチームとしての有機性というマクロの部分で優劣がつきにくくなって、試合の焦点は再びグループ、ユニット、個人というミクロの部分に移っているように思います。

個人やユニットという少人数でバグを生み出せる選手たちを組み込んでもチームとしての有機性を落とさないというとても難しいタスクが今のトップレベルの指導者には課せられているのかもしれませんし、この試合では結果的にチームとしての論理では優劣がつかず、エンバペという個人のバグの部分でフランスが少しだけ優位に立ったのかなと。


だからと言ってイングランドが構築してきた論理が不要になるのかというとそうではないはずです。チームとしての論理が確立されているからこそ、それに劣る相手には安定して勝ってW杯のQFという高いレベルの舞台へ出続けることが出来ます。論理を放棄するということは、この舞台に来る手前でこける可能性を孕んでいるとも言えます。

なので、ここからさらに上の舞台へ進むためには、このレベルの論理を実行しながらもバグを生み出せるタレントが出てくるようにするか、意図的に綻びを作って相手と駆け引きをするのか、そうした「正しいことをし続ける」という視点から少しだけずらすことも求められるのかなと思います。すべてを真面目にやるだけではなく、ちょっとだけでも良いので遊びが欲しいのです。難しいですけどね。



さて、このベスト8のところからイングランド担当になったものの、そのイングランドがここで敗退してしまったのでこの後の試合で何かを書くのかは未定ですが、個人的には先述の通りチーム全体の論理、設定(指導者が決める部分)と個人、ユニットによる意図的な逸脱(個人に委ねる部分)のバランスについて引き続き検討していきたいので、W杯と関係あるのかないのか分かりませんが、そうした文章を書いたときにはまたお付き合い頂ければと思います。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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