【不定期連載】落書きの下書き #14
#14. 「論理的志向」の文化的基盤 4つの思考表現スタイル
今回は読書感想文です。
読んだ本はこちら。
「論理的」とか「合理的」と言われる価値観(この本では「思考表現スタイル」と呼んでいます)は人類共通、単一のものでは無く、2つの軸がある4パターンに分けられており、それは混ざり合うことのない関係性であるということを国ごとの作文の記述方法から「論理的」とはどのようなものを指すのか、歴史教育の手法から「合理的」な判断とはどのようなものを指すのか、ということをこの本は導き出しています。ここでの比較に使用されたのはアメリカ、フランス、日本、イランの4か国で、アメリカを経済原理、フランスを政治原理、イランを法技術原理、日本を社会原理と称した4パターンに分類されおり、これがものすごく面白い。
本の要約的な話はこちらの動画、ツイートで話されているのでちょっと長いですが観てみてください。というか、僕はこの動画を見て興味を持ってこの本を買いました。
この本が検討している話題にはずっと興味がありました。というよりはずっともやもやした思いがありました。というのは、何か目的を設定した時にそこに向かって行ける要素だけを並べて最短距離でそこへ向かっていこうとする考え方、効率主義とも言えると思いますが、これに対して凄く窮屈と言うか、視野が狭く短絡的なのではないかと思うことがありました。SNSで特にみられる脊髄反射的な批判もそうですし、自分の主張に対して肯定的な根拠や有利な情報ばかりを並べて正当化しているように見えるものがそれにあたります。
僕としては、誰しも自分が思う通りのことばかりに進むことはなくて、常に自分以外の誰かの思惑もあるのだからそういうことも想像できた方が豊かな世界になるのではないか、自分の主張は自分では正しいと思うから主張するわけだし肯定的な根拠があるからこそ主張する半面、物事にはメリット/デメリットがある訳で、否定的な話だって少なからずあるはずなのだからそこを疎かにした主張は利己的で不誠実なのではないか、そんなことをよく考えます。
ただ、そう思う一方で、結局は「これだ!」と信じたものに真っすぐ突き進むことで得られるスピード感や人を巻き込む力の大きさ、そして結局肯定、否定の両方を考えているうちに本来主眼を置くべきところがどこだったのかを見失うことがない明快さという要素を考えた時に、そうした価値観を「間違っている」とは言うことが出来ず、「間違っていると言えないということは自分の価値観が間違っているのか?」とすら思うこともあります。
勿論、この本で論証されているから僕の価値観が間違っていなかったということが示される訳ではないのですが、少なくとも自分の価値観が日本の教育方針に沿って形付けられたこと、そしてグローバルな時代だからこそ日本以外の価値観も自分の中に流入しているし、それは他に人にも自分とは違う価値観が流入しているのだろうとも感じました。
この本は4つの価値観をそれぞれ丁寧に説明した後に、そのまとめとして例えばアメリカ的な経済原理の価値観からみた時に他の3つの価値観がどのように映るのかを整理しており、それは主に自分たちの価値観からみた時に「意味がないことをしている」とか「子どもっぽい」とか否定的な印象を持つことを示しています。
これはとても腹落ちする部分で、自分の正しいと思う価値観で行動しない人に対して「なにやってんの?そんなの無駄じゃん」とか「そんなの思慮が浅いよ」とかそういうことを感じることが多かれ少なかれあると思います。僕が前段で書いたところは正にそうだった訳ですが、それをその価値観からみ観た時には論理的であり合理的であると言えること、自分の持つ価値観も論理的かつ合理的であると言えるものの、別の視点から見ればそうでないとも言えてしまうこと、要は絶対の論理的、合理的なものは無いということ、そして場面(相対)によっては自分が非論理的、非合理的と思うことでも有用であると思えることがあることをこの本を通して理解していくことが出来ます。こうした感覚を持てることはとても有意義であり、他者への理解が捗るものだと思います。
そして、僕のこの文章の体裁こそが日本教育が提唱してきた作文のスタイルであることも今これを書きながらニヤニヤしてしまっているポイントでもあります。これはあくまでも「読書感想文」なのでそれでも良いのですが、今後も自分なりの意見を考えてつらつら書き連ねる時には、アメリカの5パラグラフライティング、フランスのディセルタシオンという作文スタイルを意識することによって、より納得感の高い文書をかけるようになれるかもしれないという期待感があります。
読んだ後に「これ試してみよう」と思えることがあることって楽しいですよね。この本を読んだ後にはここに書いたこと以外にも、この原理の切り口で自分の気になることを捉えてみようとか、そういったことがいくつも出てきました。もうすぐJリーグの終幕ですが、その振り返りを昨年より少しでも質の良い考察が出来ると良いなと思います。
4950円、単行本では320ページ、という骨太な本ですが、お時間のある方は是非。
ちなみに、つい先日同じ著者からこの本の内容を濃縮した新書本も出たとか。100ページくらい減っているし、値段も3900円くらいお安いようで。