見出し画像

【不定期連載】落書きの下書き #12、#13


#12. 本を読む時に思うこと

僕は小説を全くと言って良いほど読まないのでここで言う「本」は人文書や実用書の類を指しているのだけど、そうした本を読んでいる時に参考文献が出てくる。自分の意見の根拠として、あるいは問題提起のきっかけとして、書かれている。つまり、著者は文中で述べている論旨を持つ前提としてそういった参考文献を読んでいる。

その本を読んだとしても著者の論旨を100%で吸収できた訳ではない。そもそも、本には著者の考えていることの全てが書かれている訳では無い。本に書かれていることはその人が読んだこと、感じたことの上澄みでしかない。そう考えた時に、本を読んだ後にはその著者と同じ次元で物事が見えるなんて感覚はあり得ない。おこがましすぎる。

それなのに、何かの本の要約を有難がって受け取って、その本を理解したつもりになるなんてもっとおこがましい。要約から漏れた部分も著者にとっては必要だから書いている訳だし、要約する時に切り捨てるかどうかの判断は要約する人の主観に委ねられているのだから、もしかすると自分にとっては有益なことが切り捨てられている可能性だって多分にある。

それでも、その本の参考文献をすべて読もうとすると、その参考文献の中にも参考文献が出てくるからもうキリがない。どこかで見切りは付けないといけない。だからせめて、自分は「上澄みの上澄みのそのまま上澄みしか見えていない」ということを心のどこかに留めておかないと、物事を分かっているかのように勘違いしてしまうのだろうと思う。


#13. 通訳(#5. 母語以外の言語 の続き)

ザッケローニさんが日本代表の監督をしていた頃だったと思うのでもう10年以上前だけど、NHKで日本代表監督の通訳をしたフローラン・ダバディ(トルシエの通訳)、鈴木國弘(ジーコの通訳)、千田善(オシムの通訳)の対談番組があった。通訳という仕事について考える時にその中で千田さんが話した1つのエピソードを毎回思い出す。

オシムさんが試合前のミーティングで「ライオンのように戦え」(直訳)と話したときに、千田さんは「ライオン」という動物のイメージがオシムさんと日本人の間でズレがあるかもしれないと感じ、「ライオンのように"勇敢に"戦え」と訳したらしい。カメルーン代表が「不屈のライオン」と称されていたこと、1998年のW杯のイングランドvsアルゼンチンでのベッカムの退場劇に対して英紙が「10 Heroic Lions, One Stupid Boy」という見出しを付けたということが頭をよぎり、それらのイメージから「勇敢な」という言葉を足して「ライオン」という言葉の輪郭をくっきりさせたらしい。


通訳という行為はいわば伝言ゲームだけど、ただ言葉を伝えれば良いという訳では無くて、その言葉を通して話し手の思惑を受け手に理解してもらえるような形に編集する必要がある。お互いの文脈や文化への理解も必要だということ。ただ、編集しすぎるとそもそもの伝言ゲーム自体が成立しなくなるから具合の調節が大切なのだけど。

そもそもその言語で使われている言葉を把握しているからと言って、それがどこの国、地域の文脈で使われている言葉なのかによって意味合いが変わることがある。例えばスペインとメキシコで同じスペイン語を話しているのに、ポルトガルとブラジルで同じポルトガル語を話しているのに、単語によっては意味合いが違ったりもする。

さらには、米国内でも白人コミュニティと黒人コミュニティで、日本の中でも地方によって同じ単語なのに意味が違うことによるディスコミュニケーションの例はいくらでもある。


そうなると、サッカークラブであればせめて自分たちがクラブとして握っているフットボール観を共有出来ている人を通訳にしておかないと、監督と選手の間だけでなく、監督とフロントとのコミュニケーションも怪しくなる。通訳が誰でも良いわけではないし、スポーツのような非言語領域が強いものこそ言葉の役割が大きいから特にその傾向が強いと思う。

浦和ではスコルジャさん、ヘグモさんと続いて母語が英語ではないけどクラブ内でのコミュニケーションを英語でやってもらっているのに対して、浦和にいるスタッフや選手たちの大半は日本語が母語であり、英語⇔日本語の通訳を介してコミュニケーションをしているので、片方は第二言語でもう片方は母語という状況はフェアでないなとは思う。

人を介してだけでなく、機械を介して言葉を訳すことが簡単にできる。でも、僕らのコミュニケーションは言葉を額面通りに受け取ることだけでは不完全だし、額面ですらお互いが違う捉え方をしている可能性は頭のどこかに置いておいた方が過度にストレスを抱えることは減らせるのだろうと思う。

言葉に関しての積読が溜まっているからそろそろそこにも手を出したい。。

いいなと思ったら応援しよう!