もう一度走り始めたら
正直言うと、鬼塚夏美という女の子に対して2期5話の時点では好感を持つことは私にとって果てしなく難しいことでした。
お金よりも大切なことなんて、世の中にたくさんあって。
そんな美しく思える時間をお金を稼ぐことに費やしている。
人によって価値観は違いますが、人の力を使ってまで財を求める現代っ子っぽいところはわからなくもないのですが、この物語は「ラブライブ!」という一つの作品。ほんのわずかに思える高校三年間という時間をひたすらに全力で駆け抜けていく。そんな、自分が忘れてしまっていたような熱い時間を思い出させてくれるのがこの作品であると信じていたからです。
ビジュアルなんかどうでもいい、この女をどうにかしてくれ。
自分が5話から6話までの一週間に思っていたのはそんな希望でした。
そんな中で自分があの瞬間から大好きになる言葉が彼女の口から放たれました。
6話の途中で、彼女がいかに夢半ばで折れてきたかが描かれ、そんな彼女が夢追いかける二期生たちに向けて初めて語ったかもしれない裏表なき本心。
そうだよ、彼女だっていろんなことに挑戦してきたじゃん。
そのすべてに全力だったからこそ、夢半ばで簡単に諦められてしまう人を、彼女は絶対に肯定なんかしてくれないに決まってる。
そんなことを思ってこのシーンを見ていた記憶があります。
その後Liella!として再び辿り着いた夢に走ることになります。
私にとっての彼女の存在は5話での大きな失墜から、6話でのこの言葉に救われたんです。
その後のまだ声が出せなかったリリースイベントで、2期生として初めて歌った「私のSymphony」の後涙ぐむ彼女の姿があって、いろんな苦悩を抱えながら演じてきてくれたことが嬉しくなって、3rd Live埼玉公演にて「絵森彩さんが演じる鬼塚夏美」が大好きになりました。
そんな夏美の過去が再度深堀りされた今回の3期4話。
夢見る姉に羨望の眼差しを向けていた妹。姉が見ている世界の明るさ、希望が世界のすべてであるかのように。
でも何度も夢折れていく姉が、現実という壁の前に遂に壊れてしまって。
幼い頃から見ていたあの光に溢れた眼差しは陰によって埋め尽くされて。
一番理想としていた人が、世界から拒絶されて、光を奪われて。
そんな言葉をぶつけられて正気でいられる人はいない、と思います。
自分にも兄がいますが、いろんなことを兄から学びました。
もし兄が、そんなことを考えるだけで心が真っ暗になりそうです。
高校へ進学した彼女の周りにひょんと現れて、「新たな夢ができた」などと言われたなら警戒してしまうのは普通のこと。
だって彼女は一番傍で見てきたのだから。
幼い姉が自分の前で、現実に光を奪われていく様を。
感じているから、その時に感じた絶望を。
姉が何を言おうと、揺るがないのは彼女にも「想い」があったから。
「もう傷ついてほしくない、笑っていてほしい」
そんな妹として、家族として当たり前すぎて、世界で誰よりも芯の通った強い想いが。
思えば、彼女は夢に立ち向かい、その度に大きな壁、自分ではどうしようもない現実に敵わず、夢半ばで折れていきました。
でもその挑戦は、ほとんどが孤独な挑戦でした。
すべて自分で挑戦して、結果という名の現実に絶望するのも自分だけ。
そんなことを繰り返して、辿り着いたのがスクールアイドルで歌を届ける夢。近くにたくさんの仲間がいて、一緒に叶えることができる夢。
強気になって意固地になる必要なんてないのだと。疲れたら誰かにもたれかかっていいのだと。そんな優しさをかのんちゃんが、スクールアイドルのみんなが彼女に教えてあげられたんじゃないかなって。
近くに肯定してくれる誰かがいてくれる。
当たり前なことではないけど、彼女にはもうそんな安心して背中を預けられる仲間がいます。その事実がどれだけ大きいか、彼女は十分知っているはずです。
そんな夢を、冬毬にも見てほしい、知ってほしい。
一緒に歩んでほしい。
そんな素敵で、楽しすぎる理想を、追いかけたい。
夏美も姉として、冬毬に対しての責任を感じていました。
名前のように冷たい目が、いつか解ける日が来るように。
冷ややかな表情を壊す、気持ち悪いくらい高らかな笑顔が見れる日が。
そんな瞬間が、「スクールアイドルとしての鬼塚夏美」として成し遂げられるように。
私はそんな日が来ると信じ、願っています。
冬毬が世界の彩りをもう一度認識できた時、それがLiella!としてまた一つ踏み出す瞬間になるのではないかな、と感じます。
そして、彼女にも寄りかかれる仲間に出会ってほしい。
それはマルガレーテになるのか、先輩になるのか。
今はまだよくわかりません。
でも、そんな彼女の笑顔と歌う姿が一緒に見れたときは私も笑顔になっていて、よりたくさんの人が笑顔になっていることでしょう。