香港慕情 エピソード6(2023:9/2)
風球は落ちたか
シグナル10の街中に出るのはさすがにヤバかろう、となけなしの理性が働いたので買いおきのポテチなどで夕飯を済ませ早寝をした。おかげで深夜に空腹で目が覚め、市場で買ったパパイヤを食したが、案の定冷えてなどいない。だからせめて冷蔵庫のついてる部屋がいいと…
翌朝、6時過ぎてもまだ風は強く雨も降っている。窓の下を見るとあちこち看板が落ちてたりめくれていたり。街路樹も折れたりしてなかなか悲惨なことになっている。
昨日の二の轍は踏まぬ、と8時ころに倫敦大酒楼へ到着するも(MRTは動いていた)、シャッターは閉じたまま。隙間から中を覗くと上半身裸の老爺がなぜか身体をくねらせて踊っていた。
旺角は工事中の建物を覆う囲いが倒れていたり、ネイザンロードも信号が停電していたり。しかし通る車もないので、誘導する警察官の姿もない。
空腹に耐えかねてマクドナルドに入り、ハッピーセット(フィレオフィッシュとハッシュドポテト、オレンジジュースで34.5HKD=665円くらい)を食す。
台風から逃れてきたのか、ホームレスらしき人々が点々と店内でテーブルに突っ伏して休息している。
日本だと店員が声をかけて外に出るように言ったりするところだろうけど、席は空いててガラガラだし、追い出したところで店の売り上げが上がるわけでもないし、香港では何も言わないんだろうな、と推測する。手を差し伸べるわけではないけど、排除もしない、そういう消極的な優しさがこの街にはあると思う。地価も物価も高騰し、住居を追われる人はこれからも増えるのだろう。
後日、マクドナルドで過ごすホームレスな人々を題材とした映画「麥路人/i'm livin' it」の存在を知る。その他にも、ホームレス問題を題材にした香港映画「香港の流れ者たち/濁水漂流」も公開されたそうだ。介護問題を取り扱った香港映画(「女人・四十」「桃さんのしあわせ」「淪落の人」)の存在は知っていたが、香港映画はこういう社会問題に切り込む作品に良作があり侮れない。
1時間後、倫敦を再訪するもシャッターは閉じたままなので、諦めて深水埗の中央飯店を目指す。
ありがたいことに中央飯店は雨の中しっかり店を開けていてくれた。店内はさすがに空席の方が多かったが蒸し物ワゴン、焼き物ワゴンが回遊する昔ながらのワゴン式飲茶がのんびりと展開されていた。
では早速、とハチノスの煮込み、粉果、魚のすり身団子を頂く。
3品にお茶で95元はリーズナブルな方だと思う。魚のすり身団子はワゴンでなくカウンターまで取りに行ったのだが、給仕のおばちゃんが親の仇の様に胡椒をふってくれた。
ちなみに、この後セブンイレブンで見つけたロゴ入りビニ傘も95元だったのだが、飲茶と同額は高すぎるだろう…と手は出さなかった。
そう、香港と言えばビニール製ではないセブンイレブン傘。雨傘革命の映像内でもちらほら見かけたあの傘は、我が家のマストアイテムである。
初香港の時に見かけてすぐさま買い求め、97年の香港返還記念デザイン物などもまだ靴箱の奥にしまってある。
値段はここ数年で上がってしまったが、かつては1本1000円程度で、ビニ傘よりも丈夫で何より大きくて目立つので、お土産にも自分使いにも重宝している。夫が行きつけのセブンイレブンの店長氏に「言い値で買うので譲ってくれ」と言われたりしたことも…
まだ何本かストックはあるけれど、補充しておきたいね、でも最近見かけないんだよなぁ…と言うことで今回の香港ではセブン傘探索もミッションとなっていた。今のところ全く見かけていないのだが、もう売っていないのだろうか。一時期サークルKや許留山などがオリジナルデザインの傘をさすのが流行っていたのに…マクドナルドの傘も実は大事にしまってある。上海灘の布張り傘も愛用中だったりする。(一回の旅行で傘7本購入が過去の最高記録である。7本まとめてラップでぐるぐる巻きにして持ち帰った…大変だった…)街中でまだ新しいこの傘をさしている人はたまに見かけたので、きっとどこかにはあるはず…
まだ早い時間なので、この後どうしよう。MRTはとにかく動いているので中環まで行き、大舘まで行ってみよう。
雨脚は徐々に強くなり、中環の駅周辺も街路樹が根こそぎ倒れていたりなかなか悲惨な状況であった。
ヒルサイドエスカレーターも停止してただの坂道になっているわ、道路は滝のように水が流れてくるわで自動車も走っていない。トラムもバスも運休中。こんな日に歩いているのは物見高い観光客ばかりで(自分たちもだ)うろうろと入り口を探してびしょぬれになるも大舘は臨時休業だった。(当たり前)
これはもう帰るしかないか…と中環駅まで戻る道すがら「陸羽茶室」の前を通りがかる。なんとこの台風の最中にもかかわらず開店していた。中央飯店で食べてるからそんなにお腹も空いていないし、この円安と物価高できっとこれが最後の機会だし、言い訳を連ねつつびしょ濡れのまま入店する。案の定店内はほぼ貸し切り状態で、一階の向かい合わせ席へ案内される。
陸羽、ああ陸羽。ターバンを巻いて銃を持った門番さんこそいなかったけど、店内の様子は変わらない。わら半紙に朱色で印刷された週替わりメニューもそのまま、でも価格はえっぐいことになってるね!(泣)
夫は「高い、気取りすぎ」と香港では庶民派レストラン一択だけど、私は店内の雰囲気もサービスも、今どきまだ駅弁スタイルでおばちゃんたちが点心を運んでくるのもひっくるめてこの店が好きなのである。いつかディナーも食べてみたい…という願いはかないそうもないが、今はひととき熱いお茶と妙なる点心を楽しもう。
エッグタルトのパイ生地はほろほろで、中のプリンは絶妙な水分量。もう一品のチャーシューパイは中のチャーシューのこってりした甘さとコクがたまらない…お茶+サービス料10%で231HKD…はやっぱり高いけども、今生の別れと思えば惜しくもない。でも、新宿か日比谷のティム・ホー・ワンでも十分満足できるよわたしゃ。
濡れた身体も冷えてきたので、とぼとぼと宿に戻るのであった。