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君に恋ひ萎(しな)えうらぶれ我が居れば秋風吹きて月傾きぬ 詠み人知らず

あなたに恋をして、
しょんぼりと、
みじめになって、
いたら、
もう、秋の風。
月も、傾いてしまいました。

万葉集

以前、「さつき山」の歌を紹介したが、これもまた、特に説明のいらない歌かもしれない。そしてやはり、詠み人知らず。万葉にはこういう歌があって、ほんとうに素晴らしいなと思う。

君に恋ひ
萎え
うらぶれ
我が居れば

〜して、〜して…と言葉(音)の上ではやたら動きがあるように見えるが、実態は、「(私が)恋をして、いた」というだけのことであり、
実際、恋をすると人は悶々として心乱れ、しかし実際には何もしない(できない)で、ただただ時間だけが過ぎていってしまうものだから、この歌は実にリアルである。

秋の風が吹いたということは、夏はもう、過ぎ去ってしまっている。そして月が傾いたということは、今夜も。まったく、ため息をつきたくもなる。この歌は今から千年以上前に、そんな、一息の美しいため息が、紡ぎ出したのではないだろうか。

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