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秋萩におきたる露の風吹きて落つる涙はとどめかねつも 山口女王

秋。
萩におかれた露が風に吹かれてこぼれ落ちる。
とまらない。
涙のように。

万葉集

先週、大変遅ればせながら梨木神社へ萩を見に行った。見頃を過ぎていたからか、参道の両側に萩の生い茂る境内は人もまばらで、かえって一人、ゆっくりと万葉の歌に想いを馳せることができた。

秋萩におきたる露の風吹きて
落つる涙はとどめかねつも

いい歌だ。

前半は自然の描写、
後半はそこへ自らの心と身体を、重ね合わせている。
と、言ってしまえばそれまでなのだが、それが僕の心に、こんなにも美しい情景を描き出すのは、いったいなぜだろう。

細かい雨が降り、風も出てきた。
そんな中考えていたら、ふと思った。

この歌が美しいのは、
雨が上がったあとの、
晴れた景色の中で詠まれているからだ、と。

悲しみの瞬間、雨は通り過ぎた。
そこで湛えられたものが、
ふとした瞬間、風に吹かれてこぼれ落ちる。
それが美しいのだ。

彼女は風が吹けばこぼれ落ちるような感情、そして詩情を、持ち合わせていたのである。


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