新入職員を取り巻く現状について
日本社会では、昨今これまでの慣習にとらわれない会社組織が増えてきました。しかし、その一方で、今なお「徒弟制」の名残りのせいか、説明するよりも「見て、やってみて、慣れる」文化がまだまだ根強いように感じます。
要は、「いろいろ口頭で説明しても分からないだろうから、まずは見て、やってみたらそのうち慣れてくる。慣れてきたらわかるようになる」という考えです。
しかも、その考えは技術習得だけではなく、人間関係の部分にまで及ぶのです。そのために、人間関係を構築する部分でも説明が不足しがちなのです。
もちろん、「説明」してもすぐに改善されないこともあります。
ただ、「大切な」説明が乏しいと、新入職員のように組織内で自律していない存在にとっては、疎外感と強いストレスをもたらすだけではなく、帰属意識が薄れていくという弊害があると考えます。それが結果として早期退職の多さにつながっていないことを祈りつつ、以下ではその弊害について整理してみたいと思います。
①大切なことは現状と見通し
要は所属年数に関わらず、会社組織で早く慣れたいと思う人が知りたいことは、「現状」と「見通し」かと思います。「現状」とは、どのような理念、考え方のもとで、誰に対してどのような価値を届けるのか、さらにどの程度社会に貢献できているかです。
これは構成員全員が同じように認識している必要があります。温度差がないように。
次に「見通し」とはこの先予想される状態と変化についてです。新入職員のような人にとっては、より身近で、短いスパンでの状態と変化の予想を共有できると安心できます。つまり、一連の流れとしてこれからどんなことが起こり、どのような変化に対して、どのような心づもりが必要かです。
マラソンに例えると、あと何キロどのようなコースを走るのかわからないのに、今の走り方が決められないというのと同じ理屈です。
これらは、今日明日の業務の質には直接影響を及ぼさないかもしれませんが、精神的な安定と安心感を与えるものです。
②慣れるまでの疎外感
日本の会社組織では「慣れるたらわかるようになる」という価値観がまだまだ根強くあります。確かに技術習得の面で理にかなった部分もありますが、後から振り返ると、もうちょっと説明してくれてたらと感じる側面もあります。
「慣れたら分かるようになる」という価値観の下で日本の会社組織では、これまで「丁寧に説明する」ということをあまりしてこなかったように思います。
さて、「慣れる」までのしんどさは、「文脈」を共有していないことが一因になっています。「組織の構成員のことやそれぞれとの関係性」、「これまでの経緯」、「業務上のリスク」等々について歴史性を共有していないので、周囲で話題に上がっていることも十分に理解できないし、話に加わることは簡単ではありません。
「慣れる」までは自分から発言すると、周囲がどのように受け止めるか分からないから、業務に直結すること以外で発言することも容易ではありません。
ですから、どうしても「慣れる」までは疎外感を感じてしまうのです。
よく考えれば、これは「仕方がない」側面もあり、一時的なことでしょうから、しばらく「耐えれば」本当に徐々に慣れていくのですが、昨今はその「疎外感」が埋まらないまま離職していくケースも多いように思われます。
もし、共有していない「文脈」があって、それをカバーできる説明が周囲からあれば、話に入りやすくなるでしょうし、たとえ「文脈」を共有していなくても参加できる話題だけ取り上げるようにするなどの配慮があれば、疎外感をスムーズに取り払うことも可能かと思います。
まとめ
「見て、やってみて、慣れる」というプロセスは専門的技能の習得には有効ですが、組織内で速やかに良好な関係性を構築するという点では今の時代にそぐわない点もあるかと思います。
新入職員を迎え入れるにあたっては、次のような配慮が必要な時代になっていると感じます。
1.伝えられる範囲で他の構成員と同じ情報を共有する
2.「現状と見通し」は丁寧に説明する(状態と変化の予測を中心に)
3.共有していない「文脈」について説明する(背景や経緯を説明する)
4.「文脈」を共有していなくてもできる話題を選択する(要は昔話ばかりしない)
以上は、いずれも新入職員を他の職員と同じように敬意を払うために行うことです。技能や知識の差はあっても、一人の構成員として敬意を持って受け入れるメッセージにもなりえます。
これまでは、新しい組織に入れば「仕方ない」こととして、「しばらくの我慢」とされていました。事実、いつの間にか慣れていき、さほど大きな問題にもなりませんでした。
実際、それまではお世話上手な人が必ずいましたから、支えていく形ができていたかと思います。
しかし、時代の推移とともに、非正規職員が増え、そういったお世話上手な人も少なくなり、さらにハラスメントに関するコンプライアンスも強く言われるようになると、迂闊なことを聴いたり、話したりすることも難しい時代になってきました。現代でも「メンター制度」を採用しているところは多いかと思いますが、これまでの「お世話上手」とは全く性質が異なるものです。
つまり、新入職員がうまく組織に溶け込んでいけるような仕組みが社会全体で薄れ始めているのではないかと感じてしまいます。そのため、新入職員が「わかってもらえていない」と感じながら孤立しているケースが想像以上に多いのではないかと感じてしまいます。
新入職員の早期退職の理由として「労働環境や条件」があげられることが多いことと無関係と言えるでしょうか?
ちょっとした気配りや心配りで早期退職せずに続けられた人は意外に多いのではないかと感じずにはいられません。
※終身雇用制が崩れ、雇用の流動性が増している現状からして、早期退職に至る理由は数多くあります。私生活を大切にしながら無理にキャリアアップを望まない人や条件面で入職前に聴いていた内容と異なるなど、理由は多様に考えられます。また業種によっても事情は異なることが予想されます。
ですので、上記は必ずしも一般化できるものではなく、数多くある早期退職の理由の中の一つとして、「こんなことも考えられる」ケースとしてとらえていただければと思います。
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