妙な夢
飛行機は、着陸態勢に入っていた。
急激に高度が下がっている感覚があった。
窓の外の景色は、暗くたぶん夜間。
滑走路は見えず、
眼下は海で白波や岩が見えている。
一体どこに降りようとしているのだろう。
低すぎる。危険な予感がする。
周りの乗客は、頭を下げ緊急着陸態勢の
姿勢を取っていた。
誰も何も言わず、不気味な静けさが
機内に漂っていた。
何とか海に墜落する事は免れたようで
何度か大きくバウンドして、衝撃があった。
出火することなく
着陸に成功したようだ。
そこは、小さな島だった。
乗客は、我先にドアに殺到して
脱出をしていた。
自分も機外に降り立っ事が出来た。
島の向かいに大陸が見えた。
東南アジアのどこかの国のようだ。
誘導している人の言葉はわからなかった。
日本人では無いようだ。
事情は定かではないが
島から脱出する船に乗るため
誘導されるまま皆我先にと急いだ。
自分も、その船に乗ろうとしたが
何か大切な忘れ物をしたことに気付き
その列から離れ、急いで機内に戻った。
もう一度港に戻った時は
もう船は出航した後だった。
港には、自分を含め数人が取り残されていた。
連絡船は、もう戻らない様子だった。
代わりに今度は小さなボートに
乗る様にと誘導された。
こんな小さな船で、波もありしかも夜間
大丈夫なのかと一瞬心配したが
他の人が乗り込むので、それに続いた。
案の定、少し沖合に出たところで
横波を食らいボートは転覆した。
海に投げ出され、力尽きて沈んでいく
自分の姿が見えた。
「もうだめだ。終わった。」
体はどんどんと海底に向かって沈んでいく。
そう思った時、誰かが腕をつかみ
引っ張り上げてくれた。
ピ、ピ、ピ、ピ
「先生、脈拍が戻りました。」
看護師がそう叫んでいた。
医師はAEDを外して脈を確認した。
どうやら、病院にいるようであった。
俺は溺れていたはずなのに
一体どういうことか全くわからなかった。
しばらくすると
ぼんやりとしていた視界が開けて
集中治療室の様子がはっきりと見えた。
どうやら一命をとりとめたようだ。
心肺停止状態であったらしい。
自分の事であるのに
どこか他人事のような気がする。
分からない話の脈絡で混乱した。
どういう状況で飛行機に
乗り合わせたのだろうか。
そう言えば、気付いた時は機内で
その前の記憶もなかった。
ただ飛行機事故に巻き込まれて
その後水難事故で溺れかかった自分の
腕を掴んで引き上げてくれたのは
誰だったのだろう。
話が繋がらないので
病院にいる自分も含め
全ては夢なのだろうか。
それにしても、リアルな感覚が今も残っている。
他の人はどうなったのだろう。
何はともあれ、生死は紙一重と
儚さを知る出来事であった。
今まで自分の死についてあまり真剣に
考えなかった。
考えようとしなかった。
これまでは死は、恐怖でしかなかったから。
この夢を経て悟ったのは生と死は
繋がっているもので
生から死へと状態が変わるだけで
自分は自然にその流れに乗っているに過ぎない。
朝がきて昼になりそして夜がきて
また朝が来るそのサイクルと同じような気がする。
永遠の連続するサイクルの中で
流されているのに過ぎないのかもしれない。
全ては、逆らえない流れの中
それに気づけば、色々な苦しみからも解放され
流れに身をゆだねて
自由に気楽に生きられるかもしれない。
寝苦しい、暑い夏の夜に
全く「妙な夢」を見たものである。
実体はあるようでない
色即是空、空即是色。