半グレごっこ4
営業の仕方はまず架空の投資会社の名前を語り、以前に〇〇さんが買われた未上場の金融商品を買い取らせてくださいと電話で営業をかける。
過去に未公開株で投資詐欺の被害にあった人のリストにまた詐欺の営業をかけるのだ。
被害者も心の底では被害額を取り返したいとは思っていても、一度目の被害から何度も似たような営業が来ていて、2度3度騙されて相当すれていた。それにむしり取られて金がなかった。
だから山本は「この仕事は宝探しだ。この使い古されたリストから余力のある鴨を探す。とにかく電話をかけろ。仲良くなって懐に入り込んで情報を盗め。孫みたいと言わせたら完璧だ。客は嘘を付く。見極めていけ。」と熱弁していた。
私達が売っていた商材は未上場の社債権で、沈没したタイタニック号のサルベージをする船の会社というよく分からないものだった。小規模私募債と言う50人しか買えないもので、一口10万で配当もありえない利率でこんなの投資家は絶対に騙されないし通用するのは無知な高齢者だけだと思った。
被害者に対して、「未公開株を買い取る代わりにウチのクライアントが欲しがっている社債を代わりに買ってくれませんか?実はそのクライアントの方はその社債の会社の代表者の親族の方で、近々上場する事がわかっているのですが、インサイダー取引になるので自分では購入できないんですよね。〇〇さんが協力していただければクライアントの方がその社債は2倍で買い取りますし、未公開株も一緒に買い取ってくれます。」
このような営業が私のいた箱のマニュアルで、劇場型詐欺とも呼ばれていて、複数の役割の人間と複数の番号が用意されていた。
山本「マッチポンプに騙された人間はまたマッチポンプに騙される。」この時山本が言っていた意味も当時の私にはよく分からなかった。
私が驚いたのは北沢だった。七色の声を一人で使い分け、一人7役をこなし時には中国ファンドの人間を装い中国語を話した。
私はこの世界に面白さを感じていた。なんちゃってとはいえ、スーツを着てサラリーマンのように毎日出社する。ホワイトカラーだった両親の仕事する姿に自分を重ね、出来損ないの私なりに近づきたかったのかもしれない。
電話で人を操り騙し、実際に会う事もなくゲームのように金が入る仕組みに罪悪感を感じる事もなく、これは現実なのか?と半信半疑で泣いている人の事を深く考える事もなかった。本当に最低な事をしてしまった。
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