半グレごっこ6
オーナーとの待ち合わせは夜10時、歌舞伎町の風鈴会館の前だった。山本さんと待っていると、白塗りのフルカスタムされたベンツのゲレンデヴァーゲンでオーナーが現れ、助手席にはキャバ嬢と思わしき女性が乗っていた。
オーナーは「後で店よるわ」と女性に話し、
私達に「車乗りや、山本運転せぇと」言い放った。車に乗り、歌舞伎町のバッティングセンターの辺りに車を止めた。
車から降りたオーナーを見ると、絵に書いたようなTHE悪人でナニワ金融道に出てきそうな風体だった。小太りで色黒で短く刈り上げた髪型。黒塗りのスーツにクロコダイル革のベルト、金無垢のロレックス。
私は「この見た目でこの人も31歳かよ。品がないなぁと」心から思った。
話を聞いている限り、オーナーは在日朝鮮人の3世で関西の暴力団の家系の人間だった。肌が黒いのは日サロではなく肝臓が悪いからだそう…
地元の不良の力のなさにうんざりしていた私はとにかく外の強力なコネクションと繋がりたいと感じていた為、このチャンスをなんとか物にしたいと思っていた。「上前はねられるくらいなら俺が頭になってやる。」捕まるとかそんな事は全く関係がなくなっていた。「自分の腹はもう決めた。裏で一生生きていくんだ。」そう心に決めてこの場に臨んでいた。
オーナーと山本さんと3人で花道通りのキャバクラに向かうと、VIPルームには先客が1人待っていた。男は川村と名乗った。東京の箱のトップセールスマンだった。
VIPルームに女が揃い興が乗る頃合いを見て山本さんがオーナーに私を紹介する流れだったが、場が盛り上がる前に川村は私の所に来てこう言い放った。
川村「君さっきからオーナーの前で何なの?お客さん?営業マンならさぁ自分から売り込まないとだめだよ。今の君に何ができるの?」
どうやら川村は私のような実績の無い21歳のガキがオーナーとの会合に参加している事に腹を立てていたようだ。
川村「これくらいできないと話にならないよ。」と卓上のシャンパン2本をアイスヘルの中に注ぎ始めた。
川村「これくらい呑めるよね?」
私は「当然です。」とその酒をすべて飲み干した。そこからの記憶は殆どなく、その後2丁目に行った事も全く覚えていない。目を覚ますと新宿のどこかのビジネスホテルだった。
川村の挑発に乗った事で目的を果たす事はできなかった。怒りと悔しさを感じつつも、この時の私はこの世界で上に行きたいと言うよくわからない目標を持ってしまっていた。裏の世界に完全に魅せられてしまっていた。「必ず俺が大元になってやる。」