七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)
第391回 荒野の夢(ブレンターノ)
O Traum der Wüste, Liebe, endlos Sehnen,
Blau überspannt vom Zelte, Stern an Stern;
O Wüstenglut voll Tau, o Lieb’ voll Tränen,
Weil sich unedlich Nahes ewig fern.
(おお、荒野の夢、愛、かぎりない憧れよ。天幕の上には星たちが青く輝く。
露に満ちた灼熱の荒野、涙あふれる愛よ。限りなく近いものは、永遠の彼方にあるのだ)
ドイツ・ロマン派の代表的詩人、クレメンス・ブレンターノ(Clemens Brentano, 1778~1842)の16連からなる詩「荒野の夢(Traum der Wüste)」の第1連。何かに憧れる気持ちは、心という身近なところにありながら、決してつかむことができない無限の彼方に存在する。
ブレンターノはドイツ南西部の小都市に生まれた。両親はイタリア北西部、ロンバルディア出身の商人だった。医学を学ぶためにイエナ大学に入ったが、ヴィーラントらヴァイマールの古典主義者らの影響を受け、文学に傾倒する。
その後、ハイデルベルクで義弟で文学者のアルニムと『隠者新聞』を始めた。さらにベルリンに移り、クライストの『ベルリン夕刊紙』を手伝う。そのころグリム兄弟に出会い、彼らに童話集の出版を勧めた。
40代からは次第に抑うつに苦しむようになり、作風も神秘主義的な色彩が濃くなっていく。