七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)
第408回 磯の鮑に(黒岩涙香)
磯の鮑に望みを問えば 私しゃ真珠を孕みたい
明治のジャーナリスト、黒岩涙香(くろいわ るいこう、本名は周六、1862~1920)の絶筆。生涯の心意気をこの都々逸に託して語った。一世の風雲児にして、<結局理想は人間の努力のはるか彼方にあり、手が届かないもの>という諦念が感じられる。
黒岩は土佐の郷士の家に生まれた。16歳のとき大阪に出、後に三井の理事長になる団琢磨に英語を習う。学校の校内で開かれた自由民権運動の演説会では花形弁士となる。また、しばしば新聞に論文を投稿し、その名が注目されるようになった。
翌年上京し、有料演説会の弁士をやりながら書いた翻訳本『雄弁美辞法』がベストセラーになった。また論文をさかんに各新聞に投稿し、21歳で「同盟改新新聞」の主筆に就く。そして1892年、生涯の活動拠点となる新聞『万朝報(よろずちょうほう)』を設立した。