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医大生無罪判決反対運動の3つのデマと訴訟リスク
はじめに
医大生無罪判決反対運動(仮称)がツイッターを中心に大規模に行われ、大阪高裁前のデモ活動や裁判長弾劾訴追署名活動、高裁への集団的な電凸攻撃などにつながった。しかし、この反対運動の大部分は事実誤認やデマで構成されており、それらを指摘する声は集団ヒステリーの前にかき消された。
この記事では反対運動に関する事実誤認とデマを、その形成過程とともに紹介していく。
デマ①:「裁判所が男女間に同意があったと認定した結果、被告人は無罪となった」というデマ
このデマ①の起点が、というよりも、反対運動全体の起点が、岡野タケシ弁護士の下記のツイートが1000万回以上閲覧されたことにある。
医大生による性的暴行容疑の高裁無罪判決。
— 岡野タケシ弁護士【アトム法律グループ】 (@takeshibengo) December 19, 2024
なお、一審では、
・動画には、被害者が「嫌だ」「苦しい」「やめてください」と訴える音声や行動が記録されており、同意がなかったことを示している。…
注意しなければならないこととして、このツイートは
・地裁では男女間に同意がないと認定され、被告人が有罪判決をうけたこと
・高裁では逆転無罪となったこと
を抽出した投稿になっており、法律に詳しくない大勢の閲覧者は「じゃあ高裁は『同意があった』と認定したから無罪となったのか!!」と誤解した。
その結果、以下のようなツイートが拡散された。
大阪高裁が医大生三名による輪姦事件を「合意あり無抵抗」とみなして無罪にした件。この判決が女性検事を自宅で強姦した大阪地検元検事正の北川健太郎を無罪にするための足固めにもなることも知られるべき。#飯島健太郎裁判長に抗議します#北川健太郎元検事正に公正な裁きを#大阪高裁#フラワーデモ pic.twitter.com/CRcbPrGhAZ
— Atsuko TAMADA (@atsukotamada) December 21, 2024
読んでるだけで過呼吸になりそう。
— yui (@yuiiiii90232138) December 19, 2024
必死に戦ってきて、消し去りたい動画を証拠として不特定多数に何回も見られて、死ぬ思いしてここまで裁判にこぎ着けて、動画で何度も嫌だやめてと言ってても”同意があった”として無罪。
どんな日本語を言えば拒否として受け取られる?司法までもポルノ脳すぎて呆れる https://t.co/fLXdYzsxTN
殴られて「嫌だ」は当然NOの意味なのに、性的暴行されて「苦しい」「嫌だ」「やめてください」「ダメ」「痛い」って言ってもプレイの範疇で同意があったってことで無罪判決、なんで?AVと現実は違うのに。
— ちいかまちゃん🤢 (@yukitichqn) December 20, 2024
こういう前例を作ると今後も模倣犯が出てしまう。#飯島健太郎裁判長に抗議します pic.twitter.com/ymzSDAwpLj
「合意あり無抵抗」とみなして無罪にした
動画で何度も嫌だやめてと言ってても”同意があった”として無罪
性的暴行されて「苦しい」「嫌だ」「やめてください」「ダメ」「痛い」って言ってもプレイの範疇で同意があったってことで無罪判決
しかし、実際はそうではない。医大生は強制性交罪で起訴されており、不同意性交罪で起訴されたわけではないため、正しくは「高裁は『暴行・脅迫があったとは言い切れない』と認定したから無罪となった」のである。
(この理屈を説明するためには「推定無罪の原則」「罪刑法定主義」「法の不遡及の原則」「構成要件該当性」といった専門用語を押さえておく必要があるが、ここでは説明しきれないので、できればこれらの趣旨目的も含めて調べてほしい。)
一方、同意の有無はあくまで周辺的な争点であった。現に、地裁の判決文(大津地判令6・1・25)でも、「同意がなかったから有罪」という書き方ではなく、「暴行脅迫があったから有罪」という書き方になっている。
それでは、なぜ裁判所が同意・不同意にも重点を置いた判決文を書いたかと言えば、おそらく(これは本当に推測でしかないが)法務省が強制性交等罪と不同意わいせつ罪の処罰範囲は本質的には変わらない旨を表明したことを受けて、裁判所もこの趣旨に則った判決文を書こうとしているのではないかと考えられる。(言い換えれば、裁判所は今回のような法改正前の強制性交等罪に関する裁判について、改正後の不同意性交等罪の要素も取り入れた判決文を書きたかったのではないかという予想。)
性犯罪の本質的な要素は、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であることだと考えられます。
改正前の強制わいせつ罪・強制性交等罪や準強制わいせつ罪・準強制性交等罪では、そのような本質的な要素を満たすかどうかを、「暴行」・「脅迫」、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件によって判断していました。
しかし、これに対しては、それらの要件の解釈により犯罪の成否の判断にばらつきが生じ、事案によっては、その成立範囲が限定的に解されてしまう余地があるのではないか、といった指摘がされていました。
その結果、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、強制わいせつ罪・強制性交等罪や準強制わいせつ罪・準強制性交等罪と比較して、より明確で、判断のばらつきが生じない規定となったと考えられます。
デマ②「裁判所が女性の『嫌だ』等の発言を『卑猥な表現という範疇のもの』と判断した」というデマ
このデマのきっかけは、岡野タケシ弁護士のツイートを引用したこのツイートだと思われる。
これのどこが「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」」なの?
— まめ山そら子 (@mameyama_soraco) December 19, 2024
裁判長もポルノ脳か??
信じられない判決https://t.co/zlKnsRXvPh https://t.co/WBYMF3dxVS
これのどこが「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」」なの? 裁判長もポルノ脳か??
このツイート内の「これ」が男女どちらの発言を指しているのかが不明確なため、おそらくデマ①の「同意があったと認定されたから無罪」論に引っ張られる形で、女の拒絶の発言が「卑猥」と認定されたという誤解が発生したのだろう。その結果、インフルエンサーと署名が共にこのデマを拡散した。
私、今までの人生、普通に生きてたから
— カ医ザー (@Kaiser_gyne) December 20, 2024
「苦しい」「嫌だ」「やめてください」「ダメダメ」「痛い」って日本語は、NOの意味で理解してたんだけど、
どうやらAVで恋愛や性行為を学んでる人たちにとっては、これが「性的な行為の際にみられることもある卑猥な発言の範疇」らしいぞ。
証拠映像にあった
— 福田和子🙋♀ (@kazukof12) December 21, 2024
「やめてください」「絶対だめ」「嫌だ」は
「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」
私たちはこの判決により
拒否の言葉さえ、奪われた
「嫌だ」が卑猥とは
裁判官に
ジェンダー教育、性教育が必要
私はこの判決に反対しますhttps://t.co/aYwyVG86Xw
署名(初期版)
![](https://assets.st-note.com/img/1735440734-ZmK8Pw5l9E6uA0hb7FIWiVM4.png?width=1200)
「苦しい」「嫌だ」「やめてください」「ダメダメ」「痛い」って日本語は、NOの意味で理解してたんだけど、 どうやらAVで恋愛や性行為を学んでる人たちにとっては、これが「性的な行為の際にみられることもある卑猥な発言の範疇」らしいぞ。
証拠映像にあった 「やめてください」「絶対だめ」「嫌だ」は 「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」
「嫌だ」が卑猥とは
大阪高等裁判所の飯島健太郎裁判長は、一審での有罪判決を覆し、無罪判決を言い渡しました。
その理由が、証拠として提出された現場映像での女性の
「やめてください」「絶対だめ」「嫌だ」
といった拒否の言葉を、「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」と判断したこと、
なお、実際に裁判所が「卑猥な表現という範疇のもの」と評価したのはA男(今回の裁判とは無関係)の「が、いいってなるまでしろよお前」という発言であり、X女の「嫌だ」等ではなかった。A男のこの発言が強制性交罪の構成要件要素のうちの「(相手方の反抗を著しく困難にする程度の)暴行・脅迫」にあたるかが裁判の争点となり、裁判所が「A男の発言は脅迫とまではいえず、卑猥な発言というにとどまる」と判断した、というのが本来の文脈であった。(注:弁護士ドットコムのA男と後述のyahoo!ニュースの男子大学生Aは別人。)
実は署名はこのデマを途中でサイレント修正したが、ほとんどの署名者たちはこのデマを信じたままだろう。
また、東京新聞記者が署名のサイレント修正後も、修正前の文章を引用しつつ改めてこのデマを拡散させたことも記録しておく。
署名しました❗️既に10万筆を超えている。飯島健太郎裁判長は、家に上がっただけで性的同意があったと判断し、「やめて」「いや」という言葉を「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言」と解釈したそうだ。信じられない。裁判官の性的同意に関する認識がこの程度とは、性的同意とは何かを一から… pic.twitter.com/Jdd9aAmDs4
— 望月衣塑子 (@ISOKO_MOCHIZUKI) December 23, 2024
飯島健太郎裁判長は、家に上がっただけで性的同意があったと判断し、「やめて」「いや」という言葉を「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言」と解釈したそうだ
(中略)
【オンライン署名 · 大阪高裁の“医大生による性的暴行”逆転無罪に対する反対意思を表明します】
(中略)
加害男性の暴力的な言動を「性的な行為の際に見られることもある卑猥な発言という範疇のもの」とし
デマ③:「女性が男性宅に入ったことについて、裁判所が性行為の同意と認定した」というデマ
このデマはyahoo!ニュースの速報記事の曲解から発生した。
その上で「事件当日に撮影されていた動画から、女子大学生はためらう様子もなく男子大学生Cの自宅に入り、当初自らの判断で性的な行為に応じた可能性を否定できない。(省略)」などとして
これを見れば分かるように、一連の性行為のうちの最初の性行為である口腔性交①について、「女がためらいもなく(≒暴行・脅迫もなく)男の家に入り、その後口腔性行①に及んだことについて、これだけの断片的な情報から外野が事後的に『女は不同意だった』とは言い切れないのだから、裁判所は推定無罪の原則を適用した」というだけである。
別の言い方をすれば、男女に性的同意があった場合でも、「女がためらいもなく男の家に入り、その後口腔性交①に及」ぶはずだが、今回がこのパターンではないとどうして言い切れるのか?言い切れないならば被告人の男に有利に取り扱わなければならない、ということ。ここで留意しなければならないのは、推定無罪の原則とは「疑わしきは被害者の利益に」ではなく「疑わしきは被告人の利益に」である。
なお、地裁の判決文によると、口腔性交①開始時点では録画はされておらず、女も「口腔性交①をした記憶はあるが、そのきっかけの記憶はない」旨の証言をしているため、本当に証拠も証言も存在しない。
話を戻すが、決して「暴行・脅迫なく家に入ったのだから以後の全ての性行為についても同意があったはずだ」などと裁判所が認定したわけではない。そして、口腔性交①以降の性行為についても、高裁はそれぞれの性行為について暴行・脅迫が認められないから強制性交等罪の要件を満たさないものとして無罪を言い渡した、というのが正確なところである。
しかし、まるで「暴行・脅迫なく家に入った→性的同意」と認定されたかのような言説が拡散されていく。(署名もこのデマを拡散したうえ、最後まで修正されることもなく訴追委員会に提出された)
この裁判官がセックス依存症を罹患していないか調査してほしい マジで なんで自宅に行くことがsexの同意になると思ってるんだ 性加害者の主張そのものじゃないか https://t.co/hyAmf99gwv
— 三好 (@miyoshiiii) December 19, 2024
#飯島健太郎裁判長に抗議します#NoMeansNo
— 0203 (@nikutamasoba731) December 20, 2024
家に入ったのは、輪姦されるためでも、撮影されるためでもない。
ただ家に入っただけ。
なぜ女が男の家に入ると、強姦されることに同意したことになるのか?
なぜ男は同意して金払って性行為した後で、騙したと訴えるのか?アホなのか?
家に入る🟰複数人からの性的暴行とその撮影にまで同意するて意味になるんだ🥹🥹
— パキちゃん (@pkpk_pa) December 19, 2024
#飯島健太郎裁判長に抗議します
— かえ (@Bezx9Y) December 20, 2024
こんな意見出ちゃうのは仕方ないよね。家に入るだけで性行為に同意したって言われたら、どんなに必要性あろうと絶対に敷居跨ぎたくないわ。 pic.twitter.com/hpwKOlkdvF
「加害男性の暴力的な言動を性的な行為の際に見られる卑猥な発言の範疇」
— 岡本宏史(外科医 Hiroshi Okamoto) (@hiroshiok531) December 21, 2024
「男性の家に入ったことを性的同意」
何だこのツイッターのクソリプみたいな判決は。#飯島健太郎裁判長に抗議します
大阪高裁の“医大生による性的暴行”逆転無罪に対する反対意思を表明します。https://t.co/O4eF3aIaDi
「男の家に上がるのは同意」
— 女たちのデータベース広場 (@females_db_park) December 22, 2024
これに対するアンサーをNZ出身のコメディアン“アリス・ブラウン”が投稿し、話題となったのがもう8年前
「これからは酔った男の家に行って金品を盗むことにします。でも酔っ払って女を家に上げるなら同意ですよね笑」https://t.co/Twooff3Fcr pic.twitter.com/NkVTVv798k
なぜ女が男の家に入ると、強姦されることに同意したことになるのか?
家に入る=複数人からの性的暴行とその撮影にまで同意するて意味になるんだ
家に入るだけで性行為に同意したって言われたら、どんなに必要性あろうと絶対に敷居跨ぎたくないわ。
「男性の家に入ったことを性的同意」
「男の家に上がるのは同意」
補足すると、最後のAlice Brineの窃盗のたとえ話は今回の話とは全く関係がない。氏の主張は「女が酔って男を家に上げたが、性行為について明確に不同意を宣言した場合、女が性行為をされてもよいわけではない」というものである。(いわゆるNoMeansNoの話。)
これに対して、今回の事案は「女が酔って男の家に上がり、性行為が同意であったかは分からないが、とにかく実際に性行為に及んだ場面を想定して、事後的に外野が『女は不同意だった』と言い切れるだろうか?」という話だからである。
ちなみに、記事の本筋からは離れるが、署名の3点目の批判も的外れである。署名は「女の証言が真実かもしれないのに裁判所が女を疑ったこと」を批判しているが、これは「今回のようないい加減な証言であっても女の証言は疑うな。男には推定有罪を適用しろ」の言い換えでしかない。
つまり、「裁判所が無罪判決を出した理由3点」という署名の説明と指摘は上から順番に「デマ・デマ・的外れ」であった。
署名者が抱える30万円分の訴訟リスク
とすれば、特に今回の署名をした者は全員、飯島裁判長から民事訴訟を起こされる法的リスクを抱えているのではないか。このように考える理由は以下のとおりである。
①たしかに、裁判所の判決を国民が批判することは、表現の自由(憲法21条1項)によって保障されている。
②しかし、それは正当な理由があって初めて認められる権利である。そして、今回の署名に書かれていた内容はデタラメだった。
③過去には、デタラメなブログの内容を鵜呑みにした人々が、弁護士会に懲戒請求を行った事例があるが、逆に弁護士が彼らに対して損害賠償を求めた結果、数百人の懲戒請求者が裁判所からそれぞれ10~30万円程度の慰謝料の支払いを命じられている。(通称、余命三年時事日記事件。)
④今回の署名騒ぎは上記事件と同様の構図であるため、署名のデタラメな記述を鵜呑みにして署名にサインした人は全員、裁判長から精神的苦痛を理由に損害賠償請求訴訟を起こされるリスクがあるといえる。
⑤なお、署名は途中で「人事評価部門宛」→「訴追委員会宛の訴追請求書」→「訴追委員会宛の意見書」と署名者に無断でこっそりと二転三転したが、だからといって署名者の訴訟リスクが消滅したとは言い切れないだろう。なぜなら、前述の事件で慰謝料の請求が認められた理由は「見ず知らずの者から不当な害意を向けられるという恐怖を感じたこと」等であり、これは人事評価部門宛であろうが、訴追請求であろうが、意見書であろうが変わらないからである。署名者が署名したことで裁判長に「不当な害意を向けた」結果、裁判長に「不当な害意が向かった」という枠組みは変更されていない。(慰謝料の算定額は多少上下するかもしれないが)
⑥同様に「どうせ裁判長を罷免できないのだから署名してもよい」という甘言も非常に危険であり、やはり「見ず知らずの者が不当な害意によって裁判長に恐怖を感じさせた」と言える以上は訴訟の対象となりうる。
終わりに
インターネットですごい一体感を感じてはいけない。また、話の出所が女衒・活動家・扇動屋の場合は「どうせ嘘だろう」と思っておくくらいで丁度いい。
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。
中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。
ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。
信じよう。そしてともに戦おう。
工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ。