週間手帖 八頁目
2021.12.20
師走のお知らせはとうの昔に遠ざかり、駆ける毎日にも追い付けないまま橋を架けろとせかされる。大人になるにつれて鼓動の高鳴りに疎くなり、心臓は鉛のように重くなっては、息を吸うたびに身体がキリキリと悲鳴を上げた。どこで何を間違ったのかなんて、自分だってわからない。ただ幼き頃は有り余るほど抱えていた、無数のきらめきと愛おしさを見失ってしまっただけ。数多のイルミネーションに目を輝かせて雪道を駆ける少年少女たち。途方のない憧れのようなものが、胸の内でむくむくと黒い煙をあげて、どんどん大きくなっていった。何がいけなかったのだろう。何度考えても答えは同じ。それは大人だから失ったものではなく、大人のふりをすることに気を取られ、自ら手放していったものばかりだった。
2021.12.21
午前8時、奥から二番目窓側の席。ブラックコーヒーにバターを半欠けだけ乗せたトースト。じゅわりと溶け込み、焼けた断面がくたりとなるまでじっくりと待つように、彼は慣れた手つきで文庫本を開き、静かに現実から離れてゆく。華奢な指先に輝くいくつかのシルバーと空席の薬指、石鹸の清らかな香りと寝癖の残った柔らかな黒髪。ふっくらとしたら唇は、決まって二回の「ありがとう」を描く。やや低めの掠れ声が鼓膜をじんわりと震わせるたび、心がころりと転がり、奥の方からむずむずとしたものが心臓の形に沿って這うように顔を覗かせた。
しばらくして窓からまばゆい日差しが入り始めると、彼は眩しげに漆黒の目を細める。透き通る肌とふわりとした毛先が光に溶け始めた。私はそっと瞬きをしてシャッターを切り、美しい場面を切り取っては、一枚一枚を丁寧に現像する。カウンター越しに育むコレクションは誰の目にも触れないし、誰の手にも渡らない。だから今日もまた、あなたが健やかな一日を送ることをここで祈ることができる。
2021.12.22
DREAM IS BLOOMING. IT IS SURELY TRUE MYSELF. I WILL BE YOUR ONLY STAR. JUST LOVE YOU.
2021.12.24
聖なる夜に耳を劈く青い衝動。気づいたら夏だった風景に消える午前1時。いつかまた、永遠の一瞬に誰かが囚われる。右に行っても左に行っても君ばかりで、こんなはずじゃなかったんだと頭を抱えている間に、すっかりここは甘い罠の渦中。
2022.01.15
ぼくらには約束された安寧がない。貧しさは積み重なり、卑しさは絶え間なく生産され続けてゆく。仮初に執着して母なる大地を忘れて、幸せの形すらわからない空虚の群れ。無関心ではいられない世の中で土を掘り、風を浴び、遠い空を見つめ、息をしている理由を模索する。共に生きるということは、これほどまでに難しい。
2021.01.18
白く艶やかな肌に、愛を描く指先に、すべてを射抜くその眼差しに試されている。慄くほどの色気と野心を剥き出しに、一瞬の吐息で内に潜む怪物をちらつかせた。ぞくりとするものには、自分を唯一無二と熟知した余裕がある。正義に忠実に、気高く咲き誇れ栄光のプリンシパル。
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