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見猿が去る

 「静岡に行ってから1年経つのかな」とぼそっと言われ、確かに本当に4月イッピで転勤だったならそうですね、と答えた。爆速で1年が経ってしまった。去年の3月、私は精神を病みました。

 最後に行ったのが栃木県の日光東照宮だった。まだ雪が残る風が冷たい2月。
 
 写真を撮って売ってくれるサービスがあり撮ってもらった。別に買わなくてもいいか、と一度通り過ぎたけどなんだか嫌な予感がして慌てて戻って写真を買った。2人で見猿のポーズをしていた。確かに、私たちは向き合わなきゃいけないことからずっと目を逸らしていたのかもしれない。
 その半年前、もう無理だと金曜の朝に連絡が来ていた。夜に飛行機に乗り、泣きながら引き留めた。狂っていた。でもその時の私の全てだったから。なくなったら自分には何もなくなる気がした。ほつれた糸を無理やり繋ぎ止めて過ごした半年だった。

 情がないよね、と何度も言っていた。自分のための人生なんだから他人を気遣うのが勿体無い、とかなんとか言ってたっけ。
 最後の最後に受話器越しで『情で付き合ってた』という言葉を聞いて、私この人に情という感情を作ることができてたんだ、と思った。何だかんだで本当に私のことちゃんと好きだったんだ。良かった。とか思ったからやっぱり根本的にバカなんだ。

 羽田空港のローソンに入る2人を見つけて電話をかけた。通知画面を見て無視したところを後ろから見ていて、私は泣きながら崩れ落ちました。あの隣に昨日まで私がいたんだ。いや、引き留めたあの日からもういなかったんかな。
 心臓はバクバク鳴って、頭の中はガンガン響きながら手は震え2人を見失った。静岡に行くんだろうと東京駅の新幹線の改札前で泣きながら待ち伏せた。一向に来なくて、もう死にたいと東京駅のトイレで吐いた。
 今思えば東京駅じゃなくて品川駅から乗ったんだろうなと。本当そういうところあるよね、私。あの日に戻れるなら全力でぶん殴るよ。新千歳空港に行ってくれて本当にありがとう。

 今は元気だと思う。いや勿論落ち込むこともある。でもそれはみんなそうだよね?

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