カスミ

自分のための日記

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最近の記事

柳腰の貴女よ、どうか安らかに

名も知らぬ、しかし面影をよく知る大船渡のひと 姉と兄の姿から僅かに読み取れる しずかな所作 華奢な肩 小さな顎 美しく揃った歯 さぞ美しい貴女だったろう 朝の海に落ちたのか 午の海で遂げたのか 夜の海に消えたのか どれほどの痛みを抱えて 私は謝ることですら きっと貴女を穢してしまう もう祈らぬよう もう絶望しないよう あとは私が代わろう

    • 【幸せ】名・形動〈し-あわせ〉

      しずかな幸福がそこに横たわっていて、その傍らに不安が頭をもたげている。未だ道半ばの自分を恥じ、その間中もトラウマティックで確実な痛みが胸に差し込みつづける。 ふと唇に冷えた雪が落ち、それがたちまち溶けて、自分の血が燃えるほど熱いことを知る。これは確かに歓喜で、しかし鬱々としていて、音もなく激しい。とりあえず今日まで生きた私は、この辺りでこれを幸せと呼んでいる。 屈託のない日々、ひとつの気がかりもない生活、歯が痒くなるほどの愛。これらだけを幸せと呼んでいたから私は幸せになれ

      • 牧歌的な思い出/文化浴泉

        昔書いたものの転載です。銭湯に行っていないなあ、とぼんやり思っていたら思い出した記事。 ――――――――― 大学生の頃、付き合っていた男性の一人暮らししていた家が文化浴泉に近く、よく行った。 近いといっても徒歩で20分はかかったろうか。ひとりならきっと煩わしい距離だったが、彼のダウンコートのポケットに手を突っ込める貴重な時間だったので、ちょうどいい散歩ルートのように思っていた。 ふたりして計画的に行動できない性質で、行くのはいつも深夜。駒場から文化浴泉に向かう道にほと

        • 銚子にて

          これまで、自分の誕生日は悲しい思い出ばかりだった。私の友人はきっと誘ったら快く祝ってくれる子たちなんだろうけど、ひとりで逃げ出したくなって、海を見に行った。銚子への1泊旅行。自分へのご褒美ということで、海沿いの小さな旅館を予約した。その旅で作った作品の一部(韻文系のみ)を放流。 「さみしいね」 生命が逃げてくような発音(8/5 深夜0時 寝つけず詠む) 街という言葉が好きだ 誰も彼も 自分の言語をもってる気がして (8/5 成田駅の混雑に驚いて) 海が見たい やさしさだ

          涙が出る時

          最近めっきり泣くことが減った。ただそれは、向き合うと大変なことを頭の裏側に押し込めているだけ。そんな能力が最近身についたので、嬉々として使っているのだ。とはいえ、ほんとうに泣かない。大学時代に転けるまで、むしろ一年に一度泣くかどうかだった。それが「一日だけでいいから泣かない日がほしい」と思うような惨憺たる日々に変わり、少しずつ立ち直って、今日。 それでもたまに涙が出るが、それはもっぱらLINEをしている時。大事に思っている人を大事にできた時、ちょっと泣けてしまう。昔うまく

          涙が出る時

          自己像と香水の関係(canoma「4-10 乙女」)

            香水をつけるようになって6年、愛用の銘柄はいくつか変わった。初めはChloe「ラブクロエ」。ティッシュのような粉っぽい感じが苦手になった。次がLANVIN「エクラドゥアルページュ」。この香りの人が街に溢れてて嫌になった。次がJO MALONE「ピオニーアンドブラッシュスエード」。これは気に入って何本も使った。私に似合っている気がして嬉しかったが、自殺以外のことを考えなかった時期に使っていて、トラウマを想起させるので使えなくなった。あの香りの私をこの世から消したくなって新し

          自己像と香水の関係(canoma「4-10 乙女」)

          【詩】水蜜桃

          熱帯夜、氷を張った金盥の中で、柔い産毛の生え揃った桃を洗う。 かろかろと氷がぶつかり、痛いほど冷えた指先に血の色が滲んでくる。 指が沈むほどの桃の肌が、水滴を弾いて清潔な感じだ。 いささかに薄い爪を引っ掛けて皮を剥くと、蜜に濡れた果肉が覗いた。 外はしずかな白い満月だ。 ---------------- 去年の夏に書いた詩です。暑くなってきそうだから載せます。果物は、どうしても桃が一番好き。いちばん色っぽくて贅沢な気持ちになるような……

          【詩】水蜜桃

          オンライン自〇から始まる、私の自〇法エトセトラ

          お久しぶりです。暑いみたいだね。今年は窓の外で勝手に季節が流れていくから、置いていかれる感覚に涙が出そうになります。 ここしばらくは、比較的健康な精神で生きております。みなさんいかがお過ごしでしょうか?  心配した友達が代わる代わる家を訪ねて遊んでくれます。今年の誕生日は、怒る人は怒るでしょうが、福岡のよねつさんのご実家で過ごしました。よねつ母がもつ鍋を拵えてくれ、よねつ父がなにやら貴重な焼酎を用意してくれ、よねつ娘はバースデーケーキを自転車のカゴに積み、猛暑の久留米を爆走

          オンライン自〇から始まる、私の自〇法エトセトラ

          I love you.の訳し方

           「月が綺麗ですね」。あまりにも有名な漱石の逸話だが、私はなんて訳せばいいだろう。文学の学士をとっておいて、ライティングを仕事にしておいて、よくもこれまで考える機会がなかったものだな、と思う。  Twitterでバズるツイートは往々にして言い切り形だ。140文字でいかにインパクトを与えるかが勝負だからかな。そのせいか、主語が大きくなりがちで、喧々諤々の大議論が起きている。その分、深く共感する人々もいるようだ。私はコピーを書く時でも、こんな日記を書く時でも、誤解を与えないよう

          I love you.の訳し方

          さようなら大嫌いな早稲田大学

           春は、曙よりも夜がいい。桜のあとの、気怠げで、剣呑で、官能的な夜の中を歩いていると「綺麗に生きたい」と強く思う。あまりに強く思うから涙が出そうになるが、「綺麗」がなんのことかは、まだ知らない。体を売らないことだろうか?体を売ることは汚いのだろうか?嘘をつかないことだろうか?自分に?  私が桜の中、初めて大学に新のスーツを着て行った数年前の晴れた日を思い出す。春の陽の淡い色調に、スーツの黒が眩しい感じで浮いていた。入学式の日に偶然話した数人とは、まだ時々遊んでいる。各々色ん

          さようなら大嫌いな早稲田大学

          黒髪ロングしか勝たんかった

          マッシュショート、ヨシンモリ、ネオウルフといった呪文の羅列、これは髪型についた名前で、どんな髪型にしようかという悩みは自己表現の一環として非常に一般的なものだろう。 自分らしいなんてものはよくわからんが、これが可愛いと思う、推しがこの髪型なので真似してみる。 髪型なんてなんでもいいんだけど、その悩む時間が楽しかったりする。 一昨日、友人から「どの髪型にしよう」と相談された。いつものことながら、この上ないほど真剣に考えて美容院を一緒に選んだ。友人には恋人がいるが、彼女は自分で

          黒髪ロングしか勝たんかった

          論理と正しさを盲信すること

          あなたにとって、言葉はなんのためにありますか。 別になんでも「正しい」んだけど、わたしの言葉はたぶん自分のためにあるなと思う。鏡を見るように言葉を使っている感覚がずっとある。意図はなんにせよ(髪型が気になる、ちゃんと可愛いか確認したい、もしかして鼻くそがついているか?)、その時々の自分を見ることに目的があって、そういう意味で、「言葉は鮮度が命」とずっしり感じている。このnoteの下書きにも流産した言葉たちが累々としていて、申し訳ないような寂しいような感じだ。 わたしは、ア

          論理と正しさを盲信すること

          容姿コンプレックスと生きた21年

          「わたしの顔って、みんなと違うのかも」と、やりたかったキュアホワイト役を可愛いお友達に譲った幼稚園生時代。 「わたしなんかブスだから、男の子を好きになっちゃいけない」と泣いた小学生時代。 できるだけ顔を隠すために目を覆う長さまで前髪を伸ばした中学生時代、 「可愛い」「女の子」からできるだけ離れようと意識して過激なキャラクターを演じていた高校生時代、 鏡を割っては泣き、メスを入れた大学生時代…… わたしの人生のテーマといっても良い、「ブス」問題。これとの戦いがあまりに苛烈を極

          容姿コンプレックスと生きた21年