猫
猫は此処に居る
なのに何処にも居ない
猫はただ何もない
ただ其処に有るだけの底を歩く
行く宛も目的地もなく
そうする事しか出来ないから
猫はなく
空虚に飲まれ、掻き消されるだけの「音」
それでもなく、泣くように鳴く
何かを求めるかのように
何かを拒絶するかのように
猫はただ力無く倒れた
何も無い冷たいだけの底に
黒の瞳から流れた
冷たい何かが
闇に染み込み消えて行く
猫は只体を丸め眠りにつく
寂しくなんて無かった
悲しくなんて無かった
でもただ一つ
私は本当に其処に居たのですか?
猫はそれだけが疑問で
それでも丸めた体が動きを止める
ただ息耐えるだけの刹那が
余りにも長く
沈黙に只々悲観し瞼を伏せた
何も無い世界
有るのは一匹の猫の、けして目覚めぬ「 」
果たしてその猫は何処に居たのだろうか?
本当に其処に有ったのだろうか?
残るのは屈折した希望と脱け殻の世界....
揺れ惑う陽光の中
俯瞰の愚者(かみ)に問う
「私は此処に有りましたか?」