[ショートショート]婚姻届けを出したのは
遅くまで本を読み耽っていた。窓から入る朝陽に照らされて、自分が座ったまま眠ってしまっていたことに気付く。あまり良い目覚めではない。寒さに体を震わせながら、上着を取って席を立った。
お湯を沸かすのにケトルのスイッチを入れる。中に水は入っていただろうか。後から気付いて、ケトルを持ち上げて水を汲む。危うく空焚きするところだった。
ドリップにしようか一瞬迷うけど、面倒だからいいや、とインスタントコーヒーの瓶とコップを取り出して、休日の日曜日じゃなかったら遅刻確定の時間だったな、と時計とカレンダーをぼんやりと眺める。
もう10月なのに寒暖差が激しくて着るものに困ったりするけれど、今日の空は曇り空で、お気に入りのカーディガンが着れるのはちょっと嬉しかったりした。
ふと電話が鳴る。誰だろうと画面を見ると、大学時代に仲の良かったアユミだった。もしもし、と電話に出ると、急にごめんね、今大丈夫?と前置きしてから彼女はもったいぶったように話し出した。
「また今度お茶でもしながら話そうとも思ったんだけどさ、すぐ伝えたくて。私結婚するんだ」
アユミはまさに昨日婚姻届けを出したのだと言う。嬉しさと驚きのあまり矢継ぎ早に質問をしてしまう。式はいつか、おめでとう、相手は付き合ってたマサルくん?
「まぁまぁ、落ち着いてよ。ちょうどさっき役所の人から手続きの確認の電話が来て、正式に受理されたところなのよ。式もこれから考えるところ」
おめでとう、と改めて伝えてから、「でも土曜日と日曜日に役所が対応してくれるなんて珍しいね」と言うと、アユミは奇妙な声でこう言った。
「何言ってるの?今日月曜日だよ?」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?