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にぼしいわし・いわし自作を語る『そのうち孵化するって』刊行記念イベント全記録① 『暇』2022年8月号

2022年7月8日、にぼしいわし・いわし著『そのうち孵化するって』刊行記念イベントが阿佐谷・ネオ書房で行われた。日本社会を震撼させたあの事件が起きた日の午後、読者が集った。

切通理作 ネオ書房の店主の切通理作と申します。今日はマザー・テラサワさんといわしさんのイベントということで。ここからはマザー・テラサワさんに司会をお渡しします。
マザー・テラサワ よろしくお願いします。ご紹介にあずかりましたマザー・テラサワと申します。今日はマザー・テラサワ定例読書会特別編としまして、にぼしいわし・いわしさんの『そのうち孵化するって』エッセイ刊行記念特別イベントとして。
にぼしいわし・いわし はい!
テラサワ いわしさんをお招きいたしました。なぜ、私といわしさんがネオ書房でイベントをするのか? おそらく謎があると思うので、この会の経緯とか出版の経緯をまず冒頭にお話しすれば、こうやってこのエッセイができたんだな!とみなさんにとっても有益な気分を持って帰って頂けるという、そういうイベントにしていきたいと思います。それではあらためてゲストのいわしさんでございます。
いわし よろしくお願いいたします! ありがとうございます!
テラサワ なにか東京でライブが2本あったとか。
いわし そうなんですよ。一昨日、「雨に打たれたら口紅」っていう女芸人でやっているユニットライブがありまして、主なメンバーがオダウエダとかヨネダ2000とか。あと河邑ミク、高田ぽる子と、にぼしいわしの5組でやっているライブなんですけど、それが2周年になりまして。一昨日、西荻勤労福祉会館でさせていただきまして、大盛況で。
テラサワ 結構広い会場ですもんね。
いわし 300人ぐらいですね。女だらけで。スタッフも全員女です。それをやりまして。で、昨日はM−1グランプリが主催している「M−1トレーニング」っていう。M−1に出る前のならしみたいなことをさせていただけるんですけど、ルミネtheよしもとに出していただきまして。そして本日。
テラサワ 東京3発目が阿佐谷ネオ書房!
いわし 本当に光栄でございます。
テラサワ エンタメの幅の広さを実感するような。
いわし そうですね。

そもそもなぜマザー・テラサワが関わっているのか

テラサワ 今日は今日でまたぜんぜん違ったアプローチの話でございますけれども。ちなみにこのエッセイをすでにご購入されている方はどれぐらいいらっしゃるでしょうか。買っている方もそうじゃない方も。まだ読んでない方は今日の話は一回忘れていただいて。ただ、エッセイそのものが持っている表現の豊かさみたいなものが圧倒的なので。こんな表現のしかたができるんですかね!っていう。僕がそう言うとなんだか怪しいテレビ通販みたいな言い方になってしまうんですけれども。
いわし あはは! ありがとうございます!
テラサワ そういう楽しみができるというね。それで、さっきも話したように、なぜネオ書房でやるのか。私ごとではあるのですが、去年の9月にここで定例読書会をやったんです。モンテスキューの『法の精神』っていう翻訳書が岩波文庫で合計1500ページもあるような本を解説するっていうイベントをやったんですね。僕とアシスタントでついてくれるスペースランド流星群のしまだだーよ君と一緒にやって、なにか戦時中の上海かなんかの古本屋の人たちみたいな感じになっていて。

 取りはからっていただいたのが杉本さん、編集者の方でございまして。私の読書会の講義録みたいなものも作って頂いて。もともとライブに行ってにぼしいわしさんのネタをずっと見られていたと。ネタを見ているときから文学的なセンスみたいなことを感じられていて、いつかエッセイを書く機会があったらとてもいいものができるんではなかろうかという話を僕も前々からうかがっていて。僕とにぼしいわしさんは一回ライブで一緒になりまして。この前新宿ブリーカーでご一緒して。さらにその前に座・高円寺で。
いわし そうですね。
テラサワ それも不思議な話なんですよね。今回僕もこのエッセイに編集補助っていうことで関わったんですけど、薄い挨拶を一回したくらいの人間が編集補助でなぜ入って、このイベントを回すのかっていう。不思議なインターネット時代のつながり方があるんだなって。それで、ちょくちょく原稿が送られてくるのを見たりしていたんです。5月31日の発売以降、かなり多くの方にご購入いただいているようですね。気持ちは良いですか?
いわし 気持ちは良いです! ありがとうございます! 芸人仲間が買ってくれたり、その芸人仲間が広げてくれて、私のネタとかを見たことない人たちも買ってくれたりする雰囲気で、ありがたいです。「エッセイからネタの方に」みたいな。
テラサワ お笑いもできますよみたいな。
いわし おもんないでしょ!文化人入りの芸人って!
テラサワ っていう感じなんですけど、そういうエキセントリックな編成の編集人でいわしさんの『そのうち孵化するって』が生まれたんですけど、執筆の背景としては、どう始まったんですか?
いわし 書き出しですか? 

「エッセイの賞をとって調子づいていた」

テラサワ 具体的な書き始めの経緯はどうだったんでしょう?
いわし 私、noteをやっているんですけど、そこにエッセイを書いたりしていて。
テラサワ はい。
いわし エッセイというか自分の身の回りに起こったことを書いたりしていたんですね。それで一度noteの中の賞(「#また乾杯しよう」投稿コンテスト審査員賞=審査員:島田彩)を頂いてちょっと調子には乗っていて。自分のエッセイがまさか人に選ばれるとは思っていなかったんで。少し調子には乗っていて。
テラサワ 調子に乗ちゃった!
いわし 調子づいていたんです!
テラサワ 芸人なんてそんなもんですから!
いわし 教室でウケたで芸人になりますからね。
テラサワ そうじゃなかったらこんな商売やらないですよ!
いわし それで調子づいていて、2000〜3000字で定期的に書いていたんですけど、それを杉本さんが読んでくださっていて、もっと長尺で書いてみないかと言われて。じゃあやらせてもらいますって。
杉本健太郎 私からPDF本として3万字でエッセイを書いてくれないかとお願いしたのが2月の初旬ごろです。しかし、その後3カ月弱ぐらい1文字も書いてこなかった!
いわし 書かなかったです。
杉本 でも5月の2週目から鬼のように書き始めた。
テラサワ 一応グループLINEで原稿が流れてくる状況を見ていたんですけど、決壊したダムのように原稿が流れてくる。深夜に数千字の原稿を送ってきて、翌朝にはその倍ぐらい送ってきて、どういうことなんだ!っていう。ちゃんとご飯食べてんのかな?みたいな。
杉本 どんな精神状態だ!っていう。
テラサワ 実は酒飲んで酩酊しながら書いてたんですか?
いわし 酩酊してないです! ちょうど4〜5月頭に単独ライブ(にぼしいわし第3回単独ライブ「超!ネックル危機一髪」)があったので、そっちに集中したくて。でも単独ライブも早めに準備しつつ、エッセイも書きつつって、1週間で書ける量じゃないから、スケジュール立ててやろうって思ったんですけど、私はそういうことできないので単独もギリギリになって。いったん単独が終わった次の週の1週間ちょいくらいでダムみたいに送って。今書くんかい!みたいになりました。
テラサワ タイミングはともかく返す返すも量なんですよね。なんかAIが書いてるのかな?みたいな。
杉本 それでいて内容は「意味の手前」というか、日常と幻想をせわしなく行ったり来たりしている。
テラサワ たしかに幻想ではあるんですけど、浮世離れして煙に巻くような幻想かって言われるとそうでもなかったりとか思うところがあって。ここ来る前にいわしさんのエッセイを読み直していて、暗喩の魔術師のような。比喩というか、暗喩の表現が素晴らしいですよね。例えのモチーフとか。ちょうどいいんですよね。しかしお笑いのネタっぽくお笑いに特化するっていう感じでもない文学的なテイストもありながら。いい音楽を聴いているような感覚ですね。ずっと文学とかに触れてきたわけでもないんですよね? 日記とかつけていたとか?
いわし ないですね。読書感想文とかも褒められることもなかったですし、苦手な方で。国語とかよりも数学の方が好きでしたね。
テラサワ 読書感想文だったら先生の理解力が追いつかないですよね。
いわし いやいや!
テラサワ 書くのは1週間くらいでしたよね。そのときの精神状態的にはどうだったんですか? 書かなきゃってことなのか書いていて楽しくなるのか。あのスピードとあの分量ですから。

いわし いつもネタを書く時に、私の日常からちょっと逸脱しつつみたいなところが一番笑いやすいと思っていて。よくあるような設定とかって自分があまり面白みを感じないというか。私の好きなお笑いがそうなので。ネタを書くときは「あるある」というか日常のところから入っていくんですけど、お客さんに話術で伝えるときに削らなあかんことは削らなあかんし、入れたいけど「こんなこと言ったとて」みたいなことがエッセイではずっと書ききれるので。だから楽しかったです。これ入れたいのに入れられないなっていう苦しみみたいのはネタよりなかったです。
テラサワ 浜村凡平太さんという方が電子書籍でエッセイを書かれたことがあって、あの人は自分のリアルな来し方と合間合間に創作のエッセイをさし挟んでいくんですよね。とても創作のテイストが似ていて、同じようなこと仰っていて。ネタには落とし込めないけれども文章の遊びとしてやれるものを放り込んでっていう。
いわし へえ。

サーモグラフィーが好き

テラサワ なんとなくいつものライブにでるとか生活とかネタを書くとか、日常の事務作業ですよね。ちょっとしたタイミングで逸脱して、さっき杉本さんが「意味の手前」って言う表現をしたけど、突如どこに連れていかれるの?っていう世界が広がっていくところがある。これって、自分で脱線する意識ってあるんですか? 書いていくとそうなっちゃうったのか。
いわし いつも脱線はするんです。生活していて。一章目がサーモグラフィーで、サーモグラフィーが好きなんですけど。
テラサワ ははは! そこもおもしろいですよね。
いわし 変な奴ぶってるって思わないでください!違うんです!なんかいきっているみたい! サーモグラフィーのここが白いとか、赤いとか、緑やったりとかするじゃないですか。あれが逆転してたりしたらおもろいなっていうのがあって。布団にサーモグラフィーにあてたらどうなるかみたいなことはいつも布団に寝転がったら思うことなんです。
テラサワ なるほど。
いわし 「小さい机記念館」も、私、今すっごいこじんまりしているなって。このまま記念館とか美術館とかに飾られるみたいなこともありそうやなっていうのを思ったりして。思いつかないときは思いつかないです。
テラサワ それを1週間で思いついてっていう、そこなんですよね。普段ため込んでいたものを一気に吐き出したと解釈すると、これがいわしさんの日常なのかっていう。サーモグラフィーとかになったら映像コントにするか文章に書くとかしかないですもんね。ネタでサーモグラフィーをモニター使ってとかってなるとどんだけ経費かかるんだっていうような。
いわし 映像を事前に準備しちゃう時点でもうサーモグラフィーじゃないから。自分の動きと連動させたいなとか。単独でもちょっと考えたんですけど、ネタとして結局できなくて。1週間で書いたっていうのは、私はフリーで芸人をやっていて、相方がずば抜けて変なんですよ。私でもわからん日がある。高校の同級生なんですけど。この人何言ってるんですかっていう日は昨日も今日もあるんですけど。
テラサワ ネタとか平場とかしゃべり方とか見ると、典型的な不思議ちゃんですよね。よくこの厳しい社会を生き抜いているなっていうね。
いわし いや本当に生命力がすごいんですよ。
テラサワ 詐欺にあって人生を棒に振ってもおかしくないような。
いわし うまいこと人に助けてもらっていい感じで生きていてすごいんですけど。なんか相方がすごすぎるので事務作業とか締め切りとかは絶対私はしっかり守らないといけなくて。二人とも破綻したら終わりじゃないですか。どちらかっていうと私はしっかりしないといけないと思っているので、締め切りとか火事場の馬鹿力じゃないですけど、ネタも絶対書かなあかんっていう作業を2年くらい続けていたので、今エッセイが書けたと思うんですけど、昔なら書けてないやろなと思いますけどね。
テラサワ 相方さんには事務を投げたことはないんですか?
いわし まず日にちを守れないです! やった気になってはる時はありますけど。月3つまでって決めてます。3つは完璧にこなしてくれるので。
テラサワ フライヤーとかは相方さんですよね。
いわし そうです。全部あの人です。すごいです。
テラサワ ソフトとハードで役割分担ができているコンビっていう感じがにぼしいわしさんですよね。
いわし ありがとうございます。
テラサワ フリーでセルフ・プロデュースができている感じがいいですね。
いわし いや、まだまだですけど。セルフプロデュースは難しいですけど、事務所に入ってない分、オーディションとかテレビの仕事とかもまず一切来ないので、自分たちからDMを送ったりとか番組のツイッターに送ってとかして営業かけてとか、動画を送ってとかを2年かけてできるようになって。
テラサワ 僕もフリーの立場ではあるので気持ちはわかるんですけど、やっていたら来たりする場合もあるんですよね。一昔前はフリーなんて何なんだ!っていう、存在しないじゃないかって感じでしたけど、ぼくの場合オフィス北野っていう事務所が分解して。いたかったんですけどね!
いわし ははは!
テラサワ いたかったんですけど、不可抗力で。にぼしいわしの活動の仕方を見ていると、ちゃんとソフトとハードになっていて。
いわし ありがとうございます。


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