「魅力ある場に立ち会うためなら空路も厭わない」斎藤モトイ氏(写真家)『暇』2023年11月号
「暇」誌編集者の杉本健太郎さんに関心を持ったきっかけは、某SNS上に投稿された膨大な数の写真。絶妙に傾いた構図が独特な、街路空間を捉えたモノクロ写真群である。「空間」は人々が流れ、集う、活力の場であり、「なんにもないところ」とは異なる。空間を写真に撮れる人はそう多くはない。2022年9月11日、そんな写真家でもある杉本さんからDMをいただく。当時東京・高円寺に居を構えていた杉本さんと、福岡市在住の私とのつながりは、ネット上で始まった。
魅力ある場に立ち会うためなら、私は空路をも厭わない。
杉本さんとのリアルな初対面は、去年の12月3日、高円寺にある街中華店・福龍門。人見知りで口数の少ない私を、女優・中路美也子さんと共に暖かくもてなしてくれた。様々な事象に考えを巡らせ、議論を交わし、結果、自らの理論を構築したり作品として表現する精神的余裕のある者が「暇人」なのであろう。福龍門は、そんな暇人の根付く隙間、すなわち暇空間のひとつらしい。夕刻から夜明けまでの長時間どんな話をしたのか詳細は覚えていないが、音楽家・灰野敬二、映画監督・松本俊夫の名が挙がったのは私のツボでもあり、印象に残っている。
今年に入って5月21日、杉本さんを通して知り、事前に拝見した詩画集でその絵に魅了された画家・久喜ようたさんの個展・オープニングパーティーへ。久喜さんは、力強い視線が印象的な、美しく礼儀正しい方。翌22日、初の厚木入り。中低層のビル群でかたどられ、上を見上げなくとも視界に入るヒューマンスケールの空。なにより、妖しく趣のある昌栄プラザ。約一週間後、杉本さんは、おそらく「なんにもないところ」であっただろうこのビルの一室に居を移して空間化し、今は暇人の集う隙間となっているようだ。
8月25日、ラフォーレ原宿を訪れ、久喜さんデザインの赤いうさぎのティディを拝見。翌26日は二度目の入厚、#だじゅんフェスティバルへ。ふみまろ君と初顔合わせ。私自身は自作写真の展示で参加、見知らぬ人からサインを求められるという初めての経験をした。出店が並び音楽が響き、「なんにもないところ」に近かった「バスセンター上」が空間に変わる。フェスの終わり、タイムテーブルにはなかった、はやしだ君率いるロックバンドの演奏。その爆音は、集まった暇人たちの脳を直撃したに違いない。
私の本棚には、創刊準備号から現在に至るまで全ての「暇」誌が揃っている。お笑い芸人にぼしいわし・いわしさんの連載エッセイは特にお気に入り。最近は若者の執筆するフレッシュな視点の記事も増えてきた。杉本さんを中心とした人のつながり、ファミリーの広がりで成長を続けるのが暇誌の魅力。そのファミリーの一端に私も加えていただけているなら光栄である。
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