見出し画像

久喜ようた単独会見「横軸の人間」 『暇』2023年9月号

「縦だから何なのか?って思っちゃうんですよね」

聞き手・杉本健太郎

「ニュー本厚木ネオ書房」の表札を掲げる久喜ようた

食べものは焼かないほうがうまい

久喜ようた 私、基本的に加工肉は焼かないんですよ。おいしくないですか、焼かないほうが。焼かないで食べるほうが好きなんですよ。ベーコンだって火通ってるじゃないですか。でもみんな「焼かなきゃだめだよ!」って言うじゃないですか。「え?」って思って。焼かないほうがおいしいのになって。たぶん私に限ってなんですけど、食べ物は焼かないほうがうまいと思う。
——たこ焼きは?
久喜 そうそう、私はホットケーキミックスも生で食べる派なんですよ。いやほんとに。たこ焼きもそのものがあれば私は生で食べますね。たこ焼きの丸い鉄板に入れた瞬間にうまそうじゃないですか。生の状態がうまそう。だから生で食べちゃう。
—ピザは?
久喜 ピザも生で食べていいんだったら生で食べたい。
——焼き肉は?
久喜 私は生肉が好きだから焼かないで食べたい。好きな食べものは、生肉、マッシュポテト、ばくらい、ねぎとろ、なめろう、フランス料理のパテ。それと白い米、山羊汁。「ポテトフライ」っていう駄菓子、昼飯に限って冷凍パスタが好きです。
——朝食は?
久喜 食べません。寝ているから。夕食は白ご飯が食べたいです。

重力が苦手

——ふだんの過ごし方は?
久喜 まず昼に起きます。私は昼飯にこだわりがないので基本的にはインスタントラーメンを食べます。私はだいたい味を2種買っているんですよ。塩と醤油か、塩と味噌。基本は塩を軸にしてるんですけど。
 最近、トップバリュのラーメンって粉のスープと液体のがつき始めて。袋麺じゃなくてカップ麺みたいな味がするんですよ。カップ麺の味がするのがうまいって思って。
 それでだいたい昼に起きてラーメンを食べようと台所に立ちますね。私はものの始めと終わりにたばこを吸う人なんで「今日は塩かな? 醤油かな?」と選びますね。基本は塩ラーメンですね。私は家にいるときはだいたい横になっています。「横軸」の人間なんですよ、もともと。
——横軸?
久喜 重力が苦手なんです。私は小さい頃から外に出ても基本は座っていたんですよ。道というか段差に座ってたんです。家に帰るともう横になっていたんですね。今なら横になって絵を描く仕事をするとか。テレビを見る、本を読む。基本は横なんですよ。
——縦のときは?
久喜 縦のときはちゃんとしてなきゃいけない時。人に会う時とか。他人から見て「この人ちゃんとしてるな」って時なんで、それ以外は横です。

横でもやることはちゃんとやっている

久喜 私はけっこう「怠けてる系」の人なんですけど、私が横になっていると輪をかけて「こいつは怠けている」と思われがちなんですけど、やることはちゃんとやっているんです、横でも。どの体勢でもいいんじゃないですか、自分に合った体勢で。横でも縦でも過ごせばいいし。
——斜めは?
久喜 斜めもいいんじゃないですか。私は斜めの時はありますよ。だいたい集中していると30度ぐらいになっている時がありますね。もともと体力がなくて。人より疲れやすいから横になることによって体力を温存するっていうのがありますよね。
 疲れちゃうんですよ外にいると。ほんとだめなんですよ。睡眠時間が12時間じゃたりないぐらいになってしまうので、基本、家にいるときは横になっています。いまだに忙しいときは不眠症だから2時間で回しているんですけど、休みになると1日14時間ぐらい寝ないと回復ができないんですよ。それを抑えるために私はふだん横になっていたいわけなんですよ。
——力の配分ですね。
久喜 自分のペースがわかるんで。周りの人からしたら「横になってるなんて怠けものだ!」とか言うじゃないですか。だから「ちゃんとする」をやってますってことで縦になってるだけで、私は基本は横なんです。
 でも「縦であればきちんとしてんのか?」ってそうじゃない奴も多いじゃないですか。私は結果がすべてだと思うんで。プロセスとしてずっと横でもぐだぐだしていても結果が出せればいいわけで。世間体を気にするのは私は嫌いなんです。縦だから何なのか?って思っちゃうんですよね。
皆さん縦が良ければ縦でもぜんぜんいいし、私はいいと思いますけど、私は基本的にマイペースで自分に合うことしかしないんで。相手に対しても横を求めはしないし、みんな好きにやればいいじゃんって思いますよ。

10年後の話

——創刊時からの『暇』誌のメインテーマとして「時間」というテーマがあります。たとえば10年後、どうなっていたいか。
久喜 10年後は今よりはマシなところにいきたい。それは自分の問題なんですけど、何をやってもやればやるほど批判的なことって言われると思うんです。見られる母数が増えるから。今よりももっと人に見てほしいけど、これは自分の問題だから無理とか無理じゃないとかじゃなくて、言われないようになりたい。「これはこうだから久喜ようたの作品はクソ」みたいなことを言われないようになりたい。だからもうちょっと有名になりたい。

過去に戻れるなら?

——逆に過去に戻れるとしたら。たとえば16歳。
久喜 自分が将来的に絵で食えなかったっていう未来があったら戻ると思います。なぜ今戻らないかというと……今に満足はしていないけど、今は楽しいと思っているから。16歳もなんだかんだ楽しかったけど、今のほうが楽しいし。今の記憶を引き継いでるんだったら戻ってもいいんでしょうけど、今のことはなくなるじゃないですか。果たしてそれがいいのか悪いのかってなったときに、その選択を後悔する確率が少しでもあるから戻りたくない。16にはなりたくない。将来的に自分が失敗してもうだめだとなったら返りたい。リセットですね。その時の自分はきっと絵はやらないで、グーグルなりなんなりの株を買う。いや、お金はあったんですよね。私が16歳の頃は選択肢があったので。選択肢がなくなったときには戻りたくなるでしょうね。

(8月11日、昌栄プラザ)

「横軸の人間」補足(2023.11.1/杉本健太郎)
「横軸の人間」にとって麺類は逃れがたい垂直性すなわち「横への縦」をもたらす文明の死角である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?