山下達郎 初の無観客配信ライブ開催!~Tatsuro Yamashita SUPER STREAMING ACOUSTIC LIVE ライブレポ~
2020年12月24日
2020年もクリスマス・イブがやってきた。
思えば、今年は物騒な1年だった。
予定通りに行かないことの方が多かった1年だった。それは、これを読んでくださる方も同じことかもしれない。
特に、音楽シーンにおける2020年は大きな壁に直面した1年だったはず。ウイルス感染対策によって生じた「ライブができない」という状況が2020年の大きなキーワードだったように思える。そんな中で、多くのアーティストが挑んだものが、配信ライブというものだ。
この配信ライブというものは、色んなパターンがある。YouTubeなんかで過去のライブの映像を無料公開して、ステイホームを過ごすということをやったのもあれば、事前収録や生中継で配信ライブを開催するものもあった。故に、2020年は配信ライブ全盛の1年だったような印象を覚える。
この「ライブのできない1年」というのは、ある大物アーティストを突き動かすことになった。7月上旬、とある報道を耳にしたとき、私は衝撃のあまり言葉を失った。「ライブ映像を解禁しない人が、配信を行うだと?」と。
その人こそ、日本のポップ・ミュージックの職人・山下達郎だった。
7月、初のライブ配信
2020年7月30日
日本の音楽シーンにおける、歴史的な1日だった。
山下達郎がライブ配信を行う。
これがどれだけのビッグニュースなのかは、言うまでもなかった。本人は「テレビに出ない」と公言しており、その声を生で聴けるのは毎週日曜のラジオか全国ツアーだけ。そんな達郎さんが、インターネットでライブ配信を行う。私はいちファンとして、震えていた。
そもそも、達郎さんがライブ配信を行わない理由、そしてライブ映像の商品化をしない理由には、本人なりのライブへのこだわりがあった。例えば、音質の問題。テレビで流れる音響と生では大きな差があることがまずひとつ。そして、DVDやBlu-rayだと途中で止めてみることができるため、生感が薄れてしまう。この要点が、達郎さんがライブの映像化をしない理由だった。
しかし、達郎さんはライブ配信を決意した。
そこには、予定していたライブが出来なくなったことが大きな理由としてあったのだが、達郎さんの決断を大きく左右した要素に、とある配信プラットフォームがあった。それこそが、「MUSIC/SLASH」というサイトだ。
この「MUSIC/SLASH」には、普通の配信ライブのサイトとは大きく違うポイントが2つある。1つ目は、音質の良さだ。業界では最大級の音質(AAC-LC 384kbps)を確保したその音は、ほぼライブに匹敵するくらいの音だという。そして、2つ目は著作権の権利保護だ。配信ライブにおいて懸念させる要素に、無断で録画されたりスクリーンショットで写真を撮られてしまうということが考えられる。しかし、このサイトではそれができないように保護されている。故に、アーティストの権利を守りつつ、最高級の音で配信を楽しめるようになっているサイトが、この「MUSIC/SLASH」なのだ。
そして、この日。
山下達郎初のライブ配信が行われた。
「TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING」と題して開催されたライブ配信は主に2つの構成でお届けされた。1つ目は、2018年に京都のライブハウス・拾得で開催された「山下達郎 Acoustic Live」から数曲、2つ目は、2017年に開催された「氣志團万博2017」に出演した際の全パフォーマンスを初解禁した内容だった。(ちなみに、おまけとして1986年のライブ映像もオンエアされました!)
約1時間半の演目を観て感じたこと。
達郎さんがこの音質を求めた理由は何か。
それは、始まって僅か3秒でわかった。
そして、圧巻の嵐だった。
この時、いくつかの配信サイトでライブを観る機会があった。それをテレビにつなげて大画面で楽しむみたいなことを、当時はしていたのだが、やはり配信といえども感覚はDVDを観ているような気分だった。つまり、ライブ感というものに欠ける印象があった。
しかし、最初の一音で全てが違うと感じた。
思わず、感嘆の声が漏れてしまった。
これを体験してしまったら...
もう他のサイトには戻れない。
今までのライブ配信が2Dで堪能できるのなら、「MUSIC/SLASH」は3D超えて300D並みの音と映像があった。
全てにおいて、桁違い。
それが、この日の衝撃だった。
12月、アコースティックライブを無観客で
そして、2020年12月26日。
クリスマスの翌日となるこの日、達郎さんは2回目のライブ配信を行った。
この日のライブは、前回とは違う趣旨があった。それは、中止になってしまったアコースティックライブを無観客で行うというもの。
達郎さんは2020年、全国のライブハウスで全国ツアー「山下達郎 Special Acoustic Live 2020」を開催する予定だった。これは、近年ライブハウスだけで達郎さんとベース・伊藤広規さん、ピアノ・難波弘之さんの3人だけで行うアコースティックライブは、全国8会場16公演を巡るはずだった。しかし、それらは全部ウイルスによって中止になってしまった。
このツアーの初日となる場所が、このライブの収録会場・Live Music JIROKICHIだ。東京・高円寺にある老舗のライブハウス。かつて、達郎さんがシュガーベイブとしてライブを行ったこともある会場で、予定だったら3月に45年ぶりのJIROKICHI公演が開催されるはずだった。
そんなこの場所で、達郎さんは元々やるはずだったアコースティックライブを配信で開催することを決めたのだった。
もちろん、配信のサイトは「MUSIC/SLASH」。私も、7月の達郎さん以来のこのサイトだったから、「どんな音で楽しめるんだろう?」とワクワクしながら、定刻の21時を迎えたのだった。
(↑開演前の画面より。タツローくんとうちのパルコアラさんたちも一緒に観ていましたよ)
初の無観客ライブ・開演。
ライブ映像が始まる前、達郎さんのコメントが放送された。ここで、この日のライブに対する思い、今回の会場であるLive Music JIROKICHIに関する思いが語られた。
いつも通りの普通のライブが出来る日までのつなぎとお考えいただいて、お楽しみいただければと思います。そうやってみんなで色々と試みつつ、この困難な時代を生き抜いてまいりましょう。
この後、高円寺駅の様子が映し出される。
CGで出来たキャラクター「タツローくん」が急いで腕に付けたG-SHOCKを見ると「17:59」という時間。まもなく、ライブの開演時間だ。急いで会場まで走って、タツローくんは無事、JIROKICHIに到着。会場の入り口のライトが灯り、無事ライブの幕が上がった。
ステージに、山下達郎、伊藤広規、難波弘之の3人が登場し、ライブ1曲目の定番『SPARKLE』を披露。普段のホールツアーとは違い、ボーカル・ギター・ベース・キーボードだけで魅せるこの曲は、普段とは違うカッコよさやそれぞれの楽器の音のうねりを堪能できる時間だった。
続けて、『あまく危険な香り』、『PAPER DOLL』を披露して、この日最初のMCに入った。「皆さん、こんばんは。アコースティックライブ山下達郎です」とまずは挨拶。この日のライブは無観客であるが、関係者の観覧が多いことを上野動物園みたいだといじって(笑)、初めての無観客ライブに対する思いを少しのぞかせた。
リハーサルをやってるような気分です。慣れないものなので、不手際その他ありますが、よろしくお願いします。でも、お客さんが居ないので、どこに目線を向ければいいのかわからないです。カメラ目線というのもなんか嫌なので。ある種のトライなので、ちゃんと今まで通りのライブが出来るまで、トライ&エラーでいきます
このように語って続いたのは、アコースティックライブでの定番曲『夏への扉』。今回のライブに参加しているキーボードの難波弘之のソロアルバム『センス・オブ・ワンダー』に収録された山下達郎作曲のナンバー。
このライブでは、達郎さんと難波さんがボーカルを掛け合いでやりながら披露するというのがいつものこと。ライブ映像初解禁(全曲そうですが)の貴重な1曲だった。
2009年の映画主題歌となった『僕らの夏の日』に続いたMCでは、このアコースティックライブでの挑戦が少し垣間見えた。普段のホールツアーでは、ドラムやコーラス、サックスなどサポートメンバー計9人体制で披露している曲も、アコースティックでの3人体制ではできないものも多いのだとか。しかし、3人体制だからできる曲も実は多いのだと語った。
続く『ひととき』は2003年のツアー以来のパフォーマンスとなる1曲。実は、ベースの伊藤さんが好きな1曲なのだとか。
そんなレアな曲に続くのは、45年前もJIROKICHIで歌っていたシュガーベイブ時代の名曲『DOWN TOWN』。グルーヴ感はホールツアーと変わらぬまま、軽快なリズムがフロアに鳴り響いたのだった。
ここから続く2曲は、昨今の情勢に対する祈りを込めた選曲だった。アコースティックライブの定番で、マーヴィン・ゲイの名曲『WHAT'S GOING ON』のカバーと今年発売された1988年のアルバム「僕の中の少年」リマスター盤にも収録されている『蒼茫(そうぼう)』が続く。ピアノとベースにギター、そして達郎さんのボーカルだけで紡がれる曲は、30年の時を超えて今の時代にも届くメッセージに聴こえる。
ここで達郎さんは一回ギターを下ろし、マラカスや鉄琴を前に次の曲に関する話を始めた。普段のライブではできるのだが、音数が足りないということで少しだけアレンジをして披露すると語った。「この曲の情緒とは裏腹に笑って楽しみいただければ」と語り続いたのは、名曲『さよなら夏の日』。
私はその言葉の通りに笑うどころか、息をすることすら忘れてその音に魅せられていた。アレンジはシンプルでも、曲の強さは変わらない、達郎さんの音楽の奥深さがそこにはあるように、、、私は涙していた。
バラードが続いたのち、ライブは終盤戦へ。
アコースティックライブでのレパートリー40曲の中から、ライブ定番曲『BOMBER』と、40年前と変わらない音でフロアを夏景色に変えた『RIDE ON TIME』を披露して、3人は一旦ステージを降りていった。
1日遅れのクリスマスプレゼント
画面の向こうが再び明転、
3人は再びステージに戻ってきた。
ここから、アンコールの開幕だ。
まず披露されたのは、達郎さんの奥さん・竹内まりやの名曲であり、自身のカバーもライブアルバムに収録されている『プラスティック・ラブ』。この曲の聴きどころといえば、最後のコーラス部分だが、今回はメインメロディを達郎さんだけで歌うという、言えば原曲寄りのアレンジに。ライブ定番のアレンジは、もしかしたら次の達郎さんのツアーや来年のまりやさんのツアーで聴けたりして?!
ここでこの日最後のMCへ。
お楽しみいただけましたでしょうか?
必ずまたこの日(お客さんの前でライブをする日)は来ると思います。そのときは、ホールにお越しいただけたら嬉しく思います。(中略) あと何回か、このトライもやれたらと思います。
皆さん、どうかお元気で!
アコースティックライブ最後に披露されたのは、日本のクリスマスソングのスタンダードとなった名曲『クリスマス・イブ』。
この日、「もしかしたら聴けるかも?」とうっすら期待をしてみたけど、実際に聴けるとなると、息が止まるような凄さを覚える。思えば、この季節に本人の『クリスマス・イブ』のライブ映像を堪能できる日がくるなんて、想像したこともなかった。それが、2日遅れの冬の1日に叶うだなんて。
なんか、粋なことを感じていました。
ライブはこれで終了か... と思いきや、今回もおまけのライブ映像が少しありました。今回は『クリスマス・イブ』に続く、クリスマスソングのアカペラ歌唱を中心にラインナップ。2013年のツアーより、3曲聴けました。
思えば、達郎さんのライブの定番であるアカペラは、ライブの中盤やアンコールラストに聴ける場面だ。今回も、配信とはいえ”生のライブ”そのもの。やっぱり、アカペラなくして山下達郎のライブは!みたいなものを、思います(22歳の若造が何を←)
ラストは同じく2013年のツアーより、最終日にだけ披露された『ラスト・ステップ』のギター弾き語りだった。今年は、ホールツアーを予定していない1年だったとはいえ、この日のライブは2020年最後のライブ。今年を締め括る1曲に、この『ラスト・ステップ』の映像が初解禁された。
全18曲、約1時間40分。
エンディングではJIROKICHIのオーナーの写真に加え、ライブハウスとの縁やライブへの思いが詰まった写真や映像が織り込まれ、最後には「Merry X'mas & A Happy New Year!!」という本人の直筆メッセージでライブは無事終演した。
この日のセットリスト
Tatsuro Yamashita
SUPER STREAMING ACOUSTIC LIVE
in Live Music JIROKICHI
supported by G-SHOCK
2020.12.26 MUSIC/SLASH
開演 21:00 終演 22:47
山下達郎 Special Acoustic Live
2020.09.12 Live Music JIROKICHI
01, SPARKLE
02, あまく危険な香り
03, PAPER DOLL
04, 夏への扉
05, 僕らの夏の夢
06, ひととき
07, DOWN TOWN
08, WHAT’S GOING ON
09, 蒼茫 (そうぼう)
10, さよなら夏の日
11, BOMBER
12, RIDE ON TIME
((アンコール))
13, プラスティック・ラブ
14, クリスマス・イブ
山下達郎 PERFORMANCE 2013
2013.12.15 リンクステーションホール青森
15, MY GIFT TO YOU
16, BELLA NOTTE
17, HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS
山下達郎 PERFORMANCE 2013
2013.12.24 中野サンプラザホール
18, ラスト・ステップ
Ending, THAT’S MY DESIRE
このライブを振り返って
2020年、思えば未曽有の1年でした。故に、出来なかったことも多かったけど、出来た事も多かった1年だったかもなんて思います。このライブ配信も、そのひとつだったのかな、なんて思います。
私も、本当だったらダメ元でこのアコースティックライブのチケットを応募しようかな、と考えていました。行けたのなら... 10月の福岡公演なんかありかもな、なんて思っていて。実際は叶わなかったんだけども。
もし仮に行けたとしても、そこで考えてしまうのは、このライブ自体のチケットの倍率や各会場のキャパを踏まえると、トータルで3,000人観れるか否かというツアーだったと思います。それだけ、達郎さんの子のライブって普通だったら観れないものなんです。
それが、今回配信という形で観れる。それって、元はこのご時世でのライブの代替案みたいなニュアンスがあるけど、少し見方を変えれば、行きたいけどライブを観れない人に対して、ライブを堪能するチャンスが増えるという良さもある気がしていて。
これって、普段ライブでしか生の音楽を楽しめないアーティストほど、その意味って強いような気がしていて。達郎さんのように、普段テレビやライブ映像を観る機会がないような音楽ほど、こういう機会だから行かせることってあるように。こういう機会だから、いいライブを普段行けない人にも、というメリットを観たような気がします。
達郎さんも、今回のMCで「トライ&エラーでまたやります」という話をしていたから、次はホールツアーの配信なんかあったり?とか思っちゃいます。「MUSIC/SLASH」で、またやるなんて。あったりなかったり??
それにしても、今回のライブの音も素晴らしかった... 今回は、PCでイヤホンを繋いで聴くことがメインだったのですが、音の良さはCD以上な感じがして、もはや生に匹敵するんじゃないかとか錯覚したり。
でも、、、ライブハウスだったら室内の匂いとかサラウンド的な音の圧で、やっぱ生は違うのかもなぁなんて思います。
また達郎さんのライブに行ける日が来るといいな、と願って。きっと、年内最後の配信ライブを締め括ろうと思います!
P.S. 実は、私は2月にまた「MUSIC/SLASH」にお世話になります。竹内まりや「LIVE Turntable」振替配信、タイミングがあればまたレポ書こうかな?
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