ハケンの値打ち

先週、非正規労働者への待遇格差について最高裁判決が出ました。退職金・ボーナスの不支給は不合理ではないそうな。

要するに、この国では同一労働同一賃金のお題目は機能し得ないのでしょう。仮に職務内容がほとんど同じでも、責任範囲や転勤の可能性などに違いを設ければ同一労働ではないと言えてしまうわけです。

ただし、非正規労働者も消費者に他ならず、その立場の人が増えれば景気、経済にはマイナスです。結果、デフレがエンドレス化し、少子化も進んで、年金財政もますます危うくなります。リタイヤまでにどれほども貯蓄できずに生活保護を受給する人も増えかねません。

そこでふと思ったのですよね。「我々は非正規労働者、とりわけ派遣社員や契約社員への報酬は低くて当然と思っているけど、そもそもそこが変ではないか?」と。

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例えばホテルを長期間予約するとディスカウントを受けられたりするものの、一泊や二泊なら一日あたりの支払いは割高になります。一般的に、受ける奉仕への対価、単価は利用期間が長い方が割安なわけです。実に合理的かつ妥当だと思います。

でも、労働者への対価は逆。無期限雇用の正社員への報酬は高く、短期雇用の派遣社員には低いという。会社員の平均年収400万円台前半を時給に換算するなら2,500円ぐらいと言われるけど、派遣の求人を見る限り、ほとんどのケースがそれを大きく下回ります。

いや、もちろん、派遣社員には正社員のような専門性や業務経験の蓄積がないという見方はあるでしょう。でも、言い換えると派遣社員は派遣先の企業風土や業務内容に適応するユーティリティプレイヤーとしての役割を要求されるわけです。これってもっと高く評価されて然るべきだと思います。

あるいは「派遣会社が中抜きするからそうなるけど、雇う側はもっと支払っている」という意見も聞かれます。でも、派遣会社にも管理業務があり雇用も発生しているため、そこを責めるのは筋違いかと。

更には「派遣は各人が自由な働き方を選択した結果」との見方に対しては甚だ疑問です。就職氷河期世代を中心に他に選択肢がなかった人も多く、何より「無収入よりはマシでしょ」とばかりに使い捨て労働力の役割を誰かに押し付けて良いわけがないのだから。

では、どうあるべきかというと、私の考えは以下。もちろん政治マターです。

・派遣労働への時給(交通費は除く)が最低賃金の2倍以下は違法とする

つまり、個々の派遣社員(派遣会社ではなく)に支払われる報酬額は、勤務先が東京都なら時給2,026円以上にする必要があると。年収だと3,889,920円(2,026円 x 8時間 x 20日 x 12ヶ月の場合)なので、もはやワーキングプアとは言えない水準です。逆に最低額の秋田県、鳥取県、島根県、高知県、佐賀県、大分県、沖縄県だと時給1,584円以上、年収3,041,280円(月160時間労働の場合)です。当然、企業や団体が派遣会社に払う金額には相応の上乗せが必要になります。

小泉政権下で行われた労働者派遣法改正を巻き戻して、適用業種・業務への再規制が良いかとも思ったけど、政治的に難しそうな上、今さら派遣社員抜きでは成り立たない会社も多いだろうから、ここはシンプルに報酬面での解決を目指すのが良いのではないかと。

もし「派遣社員への人件費が高騰すれば経営が立ち行かない」と言うなら、その会社では業務改善による生産性向上は必須。もしくは他社との合併か。あるいは派遣社員ではなく契約社員を雇えば派遣会社に払う分を省けます。

そしてアルバイトを使うという手もアリです。それなら最賃の額が基準になります。ただし、職務の時間や内容、責任範囲において派遣・契約社員並みを求めるのは難しいでしょうが。

「人件費が高騰すれば派遣の需要が減って失業率が上がりかねない」との懸念はあるかもしれないけど、そこは人手不足の時代。しかも実施されれば派遣・契約社員の消費能力は上がります。派遣社員の割合は全労働者の約2%程度らしいけど総数なら140万人規模、滋賀県の総人口相当だからなかなかのボリュームがあり、景気浮揚効果が見込めます。

ともかく正社員を派遣社員に置き換えた利鞘で延命するのは蛸が自身の足を食って飢えを凌ぐようなもの。繰り返しになるけど、経済的に不遇な労働者が多いままなら景気はいつまで経っても上向かず、出生率が改善しないまま人口も減り、亡国への道をゆっくりと進むことになります。鶏と卵に準えて「景気回復と報酬底上げのどちらが先か?」なら報酬底上げ優先しかあり得ません。

来年の通常国会で審議して2022年度から適用といった運びになれば、準備期間も踏まえてちょうどいいと思います。どこかの有力政党に目玉政策として採用してもらえないでしょうかね。

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