Eye Know/De La Soul 【歌詞和訳】
https://www.youtube.com/watch?v=q9jCsOCfUUg
まずは追悼を
デ・ラ・ソウルのMC、「トゥルゴイ・ザ・ダヴ」の訃報から早くも一週間が過ぎた。公式にMVがYoutube上に投稿され、名曲の数々がいよいよストリーミング解禁という矢先、あまりにも突然のことだった。54歳なんて早すぎるよなあ、どうか安らかに。
概要
デ・ラ・ソウルは2人のMCと1人のDJからなる3人組のヒップホップ・ユニットだ。ヒップホップと一口に言ってもいろいろあるから、もしかしたら厳めしい黒人男性たちを想像するかもしれない。でもカラフルでお花だらけなジャケ写やMVを見たら直感的に分かるはず。彼らは行儀の良いキュートな兄ちゃんたちだ。そのナードな雰囲気や独特のサウンド、ユーモラスでウィットに富んだリリックは当時のヒップホップ界に新しい風を巻き起こした(この潮流は後に〈ニュー・スクール〉と呼ばれるようになる)。
今回紹介する曲「Eye Know」は、彼らのデビュー・アルバム『スリー・フィート・ハイ・アンド・ライジング』(3 Feet High And Rising, 1989)に収録されている。シングルでもヒットした名曲で、そのラブリーな歌詞は和訳していて何度か涙が出そうになってしまった。これは愛についての詩だ。ちなみにトラックのサンプリング元は、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)として有名なスティーリー・ダンの「Peg」(1977)。こちらもシビれる名曲。
歌詞和訳
《バース1:Pos》
Greetings girl and welcome to my world of phrase
I'm right up to bat
It's a D.A.I.S.Y Age and you're about to walk top-stage
So wipe your Lottos on the mat
女の子にご挨拶、僕の詩の世界にようこそ
まっすぐ打席に向かうよ
華の時代(※1)、君は最高の舞台へ向かう
Lotto(※2)についた泥は落としといてね
Hip-hop love this is and don't mind when I quiz your
Involvements before the sun
But clear your court cause this is a one-man sport
And who's better for this than Plug One?
これがヒップホップの愛だよ、そして
僕が夜中のあれこれについて質問しても気にしないで
コートは空けておいてよ、これは個人競技だし
プラグ1(※3)に勝るやつなんかいないでしょ?
Now you don't have to worry about me squashin' other deals
Cause they've already been squooshed
Freeze a frame about moods the same which we can continue
Right behind the bush
片付けの心配はいらないよ
もうきれいに片付けてあるから
茂みの向こうでも僕らが続けられそうな
ムードをコマ止めしてくれ
You'll stay with me, Eye know this
But not because of all my Earthly treasures
Or regardless to the fact that I'm Posdnuos
But because
Eye know I'll love you better
きみはこれからも僕と一緒でしょ、分かってる
それは僕のありふれた宝物のおかげじゃないし
僕がPosdnuosだからでもなくて
「僕が一番きみを好きだから」(※4)
《バース2:Trugoy》
May I cut this dance to introduce myself as
The chosen one to speak
Let me lay my hand across yours
And aim a kiss upon your cheek
このダンスはカットにして、
「選ばれし話し手」の自己紹介にしちゃってもいい?
きみと手を重ねて
頬にキスするから狙いを合わさせてよ
The name's Plug Two
And from the soul I bring you
The D.A.I.S.Y of your choice
May it be filled with the pleasure principle
In circumference to my voice
About those other Jennys I reckoned with
Lost them all like a homework excuse
名前は「プラグ2」
きみの好きなデイジーを心からお届け
僕の声の周りに快楽原理(※5)が溢れますように
ジェニーたち(※6)のことはみんな忘れちゃったよ
宿題を忘れた言い訳みたいに
This time the magic number is two
'Cause it takes two, not three, to seduce
My destiny of love is brought to an apex
Sex is a mere molecule
In this world of love that I have for you
It's true
Eye know I'll love you better
今回ばっかは魔法の数字は2だ(※7)
誘惑するなら3人じゃなくて2人じゃなきゃね
僕の愛の運命は頂点に達する
僕がきみへ抱く愛の世界じゃ
性なんて些細なことだよ
ほんとに(※8)
「絶対きみをもっと好きになるんだ」
《バース3:Pos》
Now it's time to let this rhyme style
Get somewhat poured in the mold
Hold my hand and we'll pick my plantation
Of daisies for a bouquet of soul
Life will begin at the cut of the rim
Take it as filled to the rim as in brim
Squeeze your stoop like Betty Boop
We'll make Campbell Alphabet Soup
And spell Plug One's within
それじゃ今からライムを型に流し込もう
僕の手を握ってて、花畑でデイジーを摘んで
ソウルの花束にしよう
生活はスネアの縁から始まるから
その縁まで満杯にしようよ(※9)
猫背はベティ・ブープみたく矯正してさ
「PLUG ONE」の文字が入った
アルファベット・スープを作るよ
Forward march is the say
When transistors will play
Come into bed is the move
Dolbey Sound will be then top crowned
When I put the needle into your groove
行進曲は前進してこう言ってる
トランジスタ・ラジオが流れたら
ベッドにおいでってさ
きみのグルーヴに僕の針を落としたら(※10)
ドルビー・サウンドがきっと戴冠するんだ
I got a good thing
And in full swing
I show this in gifts, word or letters
But even without those three
Eye know you'll be close to me cause
Eye know I'll love you better
運も良いし調子も最高
僕の贈り物とか言葉とか手紙を見れば分かるでしょ
でもそれら3つがなくたって
きみはどうせ僕のそばに来るんだ、だって
「僕が一番きみを好きだから」
《バース4:Trugoy》
It's I again and the soul that I send
Is taking steps to reach your heart
Any moment you feel alone
I can fill up your empty part
また僕だよ、さっき送ったソウルは
きみのハートへ距離を縮めてく
孤独に思うことがあったなら
僕がその隙間を埋めてあげる
We can ascend 'til we reach De La heaven
And in a spin we'll hit the top ten
Then we can meet Mr. Stuckie
And Pos' brother Lucky will preach
Let the wedding begin
僕たちはデ・ラ・ヘヴンまで昇っていく
回るレコードに乗ってチャートのトップ10も取って
ミスター・スタッキーにも会えるんだ(※11)
そしたらポスの兄貴のラッキーが宣言する
「結婚式を始めよう」って
Shot by an arrow of cupid
Through the string of a G-clef
My dear, I claim you're deaf
And if you can hear me, by golly gee
Trugoy is ready for what you possess
ト音記号の弦の隙間を抜けた
キューピッドの矢に射抜かれて
兄弟、あんた耳が遠いな
もし聞こえてるならさ、なあ
あんたが夢中なものに向かって
トゥルゴイは準備万端だぜ
We could live in my Plug Two home
And on Mars where we could be all alone
And we make a song for two
Picture perfect things and I sing of how
Eye know I'll love you better
僕たち、プラグ2・ホームで一緒に住めるよ
火星じゃ僕たちみんな孤独だから
二人のための曲を書くんだ
いろいろ歌うつもりさ
完璧なあれそれについてとか
「どうしてきみをどんどん好きになっちゃうか」
とかね
脚注・和訳解説
※1 原語の「D.A.I.S.Y」はこのアルバムのコンセプト「Da Inner Sound Y'all」の略だ。「内面の(=心の)音だぜ、お前ら」みたいな意味。「D.A.I.S.Y Age」は音に即して直訳すれば「ひなぎくの時代」ということになる。ヒップホップの新時代(ニュー・スクール)的な意味合いも込められているので「華の時代」と大雑把に訳した。
※2 Lottoは当時流行していたスニーカーブランドのひとつ。今じゃストリートではなかなか見かけませんが、中高時代の運動部の友達は履いていたような気もする。舞台に上がる前にスニーカーの泥を落とすのは礼儀ですね。
※3 リリック中に度々登場する「プラグ1」「プラグ2」は、それぞれポスとトゥルゴイのMC2人に与えられたニックネーム。彼らのマイクが音響機材の「プラグ1」「プラグ2」に挿さっていたことに由来するんだとか。可愛いセンス。
※4 それぞれのバースを毎度締めくくる「Eye know I love you better」は、サンプリング元であるスティーリー・ダンの「Peg」からそのまま引用されている歌詞だ(はじめの「I」を「Eye」に置き換えているのはただの言葉遊びだとして訳さなかった)。
原曲の歌詞では「君をもっと好きになっちゃうのが分かるんだ」みたいな意味合いなんだけど、この文脈では比較級「better」の比較対象が「かつての自分」というよりも「周りの人々」っぽい印象を受けたので、「僕が一番君を好きだから」と訳した。多分本当はどっちの意味でも良いんだと思う。しかし美しい歌詞ですよねえ…。「君が僕のそばにいたいのは、僕の持ち物とか僕が誰かなんて関係なくて、ただ僕が君を好きだからでしょ?」なんて、惚れ直しちゃう。
※5 原語の「Pleasure Principle」は、もともと精神分析学者フロイトの提唱した概念「快楽原理」のこと。「人は快楽を求め、苦痛を避ける」というシンプルな原理。当時から「Pleasure Principle」をタイトルに冠するアルバムは多くあったが、ここではジャネット・ジャクソンのアルバム「Control」に収録の同名曲「The Pleasure Principle」(1986)への目配せとする説が有力。
※6 同アルバムに収録の「Jenifa Taught Me」を参照。この曲のジェニーは浮気性な女性だ。
※7 同アルバムに収録の「The Magic Number」を参照。「3は魔法の数字!」と繰り返すトリオのための曲だが、相手を誘惑したいなら3人よりも2人がいいに決まってる。
※8 原語の「It's true」は、彼のTrugoyというアーティスト名とダブルミーニングになっている。バース1の最後で「Posdnous」の名前が登場したように、バース2の最後でも実は「Tru」の名前が登場しているのだ! ちなみにTrugoyはYogurt(ヨーグルト)を逆から読んだもの。ダヴは相当ヨーグルトが好きだったらしい。
※9 原語の「Fill it to the rim as in brim」は、80年代に放映されたデカフェ・コーヒー「Brim」のCMキャッチコピーのもじり。「Brimをカップの縁までたっぷり入れよう」みたいな感じだ。brimも「縁」の意味なので、歌詞を直訳すると変かも。商品名までは訳出しなかったけど、直後に登場する「キャンベルのスープ缶」のイメージと響き合う、気がする。
※10 わざわざいうのも無粋だけど、セックスのメタファーだ。「グルーヴ」はもともと、レコードに刻み付けられた音の溝のこと。「君の音の溝に、僕の針を落とそう…」ってとこだろう。しかし、あらゆるセックスのメタファーの中で一番上品な表現じゃないか?
※11 アルバム全体に内輪ネタが散りばめられている今作。「Mr. Stuckie」もその内輪ネタのひとつで、「Strictry Dan Stuckie」が彼らの中では「マジすごい」みたいな意味だったらしい。
最後に
なんと翻訳の難しいリリックだろう! 今までネット上に日本語訳が転がっていなかったのも頷ける。筆者の英語力とインターネット力を最大限発揮して翻訳したが、詩に込められたユーモアやダブルミーニングなど全てを適切に翻訳できたかは分からない。冗長にならないように、全体を通してひとつの詩としてスラスラ読めるような翻訳を心がけた(そのために脚注が膨大になってしまったが)。誤訳もあるかもしれないが、素人が書いた記事だと思ってご容赦いただきたい。
トラックの素晴らしさはもちろんのこと、サンプリング元の「I know I'll love you better」に繋ぐために、MCの2人が紡ぎ出す些細な愛の表現が、いちいち胸を打つ。ヒップホップの歴史は、トラックとリリックの引用の歴史だ。トゥルゴイがもうこの世にいないのはとても寂しいことだけど、彼の紡いだ美しい言葉はこれからもずっと引用され続けるだろうし、世界は彼のことをなかなか忘れられないだろう。うーん、この確信を表現するのに適切な言葉は「I know I'll love you better」以外にないんじゃないかな。
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