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壁に咲く華
「これが、世界の果てだって?」
その壁は、黒い鉄と黄色い銅が互い違いに層をなし、美しい縞模様を描いていた。手のひらをあてると、表面は冷たくなめらかで、継ぎ目が全くない。上と左右に見渡す限り続いていて、下は黒い岩肌に食い込んでいる。
「はい、ヤズ。少なくとも、我々が知りうる限りでは」
眼鏡女、メイガスの答えは注意深い。左目を失い、番人を殺し、たどり着いた先は、天が大地と接する場所。こんなもののために私は来たんじゃない。殴り、爪を立て、蹴りつける。びくともしない。
「壊せねえの?」
「歴史上、何度か試されました。掘削機、火、火薬、爆薬、様々な薬品。魔術的なアプローチも。しかし、すぐに修復してしまうのです。壁の下をどこまで掘っても、同じ壁が続いているだけです。伝説では、神が我々をなんらかの危難から守るために築いたそうですが……真実かどうかは不明です」
「神ね。そんなの、昔の人間さ。そう言われると、ブッ壊してお外に出たくなって来るぜ!」
「誰もが一度はそう思います。ですが、誰もが無駄だと悟ります。それにもし、外に何もなかったら? あるいは水や熔岩や毒ガスに満ちていて、穴を空けたらそれがこちら側に流れ込んで来たら?」
「『無駄』とか『たら』とか、どうでもいい。私がブッ壊したいのさ!」
怒りを右腕にこめ、爪を伸ばし、力いっぱい手刀を壁に突き立てる。銅の部分にはなんとか刺さる。抜くと、ぶくぶくと壁が泡立ち、見る間に穴が埋まる。水か油か、なにかの生き物のようだ。……爪が少し、溶けている。
「なるほどね。修復が追いつかねえ速度と威力で破壊すりゃ、理論上はいける。協力しな」
「過去の研究資料を調べる必要があります。貴女の破壊工作によって、多くが失われましたが」
「要らねえ……お?」
目の前の壁が、かすかに震えた。爪を突き立てた箇所を中心にさざ波が広がり、人がひとり通れるぐらいの穴が空く。警戒して、後ずさる。
「当たり?」
【続く/800字】
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