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「荒野のタグ・スリンガー」#3
【前回】
「ようこそ、旦那。眠りから起こして頂いて、なんと御礼を……」
「いや、起こして悪かったな。あんたらは本来亡者なんだ。申請が通らなけりゃ、もとの骸骨と瓦礫さ」
「それでも嬉しいですよ。ささ、バーボンどうぞ」
注がれたバーボンをちびちびやる。サイモンは水と電子飼料にありついた。
亡者の飲食物でも、復活させて取り込めば、それは自分のものになる。そういうルールだ。おかげで宿や飲食の心配はさほどない。
ここは『SALOON Ba01era01』。ところどころ欠けてるが、まあいい。
このweb荒野に、固有の名はない。ただ、存立基盤である『鯖(サバ)』が死にかけている。『鯖』は魚とか英霊とかじゃあなく、ドラゴンに似ている。概念的な存在だ。一定の領域を支配し、存在を保たせている。神話によくあるだろ。亀や象や鰐が大地を支えるやつ。あれの小規模なもんだと思えばいい。
『鯖』の生き死には世界の枠組みの外で規定されていて、俺たちにはどうしようもない。「アーカイバー」にすらだ。けど、死ぬ前にアーカイブすれば、それだけは多少欠けても生き残る。「アーカイバー」が存続する限り。電子世界の存在は不確かだ。岩や金属に刻みつけても、鯖が死ねばどうしようもなく消える。儚いものだ。
……そう、お宝の話だったな。匿名の報告があったんだ。「あるパルプ小説群のページが消えかかっている。保護して欲しい」と。傍から見てどれほどくだらないものでも、そいつにとっては大切なものなんだろう。報告を受けたからには、保護する。それが「アーカイバー」だ。少し危険な領域だったんで、荒事に向いた俺が派遣された。それだけだ。成功報酬は出る。俺とサイモンはそうやって生活してる。いつまでか……死ぬまでか。
カランカラン……物思いから不意に引き戻される。
「いらっしゃい」
来客。……さっき復活させたこの店に、か? 俺は振り向き、掌を構え……目を見張る。
「よう、ファンクル。追って来たぜ」
「ホルヘ! お前も来たのか」
電子スコップを手にした、小柄な髭面の男。ホルヘ・エルコンドル。「アーカイバー」のメンバーで、役目はスコッパー(掘削者)だ。俺が苦労して掘り出したこのサルーンを、こいつらは数倍、数十倍の速度で掘り返す。戦闘向きじゃないが頼りにはなる。
「おうともよ。件のお宝は、このサルーンの真下だ。俺と相棒の鼻が嗅ぎつけた。間違いねえ」
「お前の馬は、鼻が良かったな。俺のサイモンと交換してくれよ」
「サイモンは脚が速い。それぞれ取り柄があるもんさ。しかし、荒事用のお前さんがいるってことは……」
BLAM! ホルヘが銃弾を食らった。いや、スコップで止めた。撃ったのはサルーンの中の連中じゃあない。
『ぎぎぎぎ……』『ううううう……』『はああああ……』
バギ、バギバギン! サルーンの床板を突き破って、ゾンビどもが這い出した。お宝の守護者ってわけか。
【続く】
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