【つの版】度量衡・長さ編01
ドーモ、三宅つのです。つのは歴史読み物を読み耽るうち、度量衡について考えるようになりました。度とは長さ、量とは容量、衡とは重さの単位のことです。これらは時代や地域によって様々に変化してきました。
現代日本ではメートル法が用いられ、長さはメートル、容量はリットル、重さはグラムですが、古くは尺貫法が用いられ、尺・斗・斤といった単位がありました。それらは現代でも一升瓶や畳の寸法などに受け継がれています。アメリカや英国では現代でもヤード・ポンド法が用いられ、フィートやガロン、ポンドなどを使います。これはメートル法よりは尺貫法に近く、人間の肉体をベースにした身体尺の一種です。原作者がアメリカ人である小説ニンジャスレイヤーでは、フィートやタタミが単位として出てきます。こうした奥ゆかしい単位とその歴史を知ることは、なんか有用なような気がしますのでここに記します。今回は度、長さ編です。あれば定規とかご用意下さい。
※つのは特になんの専門家でもないため、書かれていることはだいぶ適当です。詳しいことは各自お調べ下さい。
▼身体尺総論
人間の肉体はだいたい似通っています。身長や体重にはいろいろ差異があるものの、平均をとればそう違いません。そこで最初の計測単位、尺度が生まれました。考古学的調査によれば、既に3万年前には86cmほどを基準とする長さの単位が存在したといいます。これはおそらく肩から指までの腕の長さで、ヤードの先祖です。またこれを2倍した長さ、即ち172cmほどが両腕を広げた長さであり、これは人類の平均的な身長に匹敵します(狩猟採集時代の人類は案外大柄です。身長については別に記事を設けます)。86cmを2で割れば肘から指先までの長さ、さらに割れば尺骨や掌の長さ、手の幅、親指の幅となります。人類はこれを基準として、槍や弓矢を作り、家屋を建て、石を並べ、農耕を行い、都市を築いていきました。
▼指寸(digit):2cm
親指の幅に由来する身体尺です。極東の寸、英米のインチ(吋)にあたります。日本の寸は尺の10分の1で3.03cm、英米のインチはフィートの12分の1で2.54cmと定義されていますが、別に東洋人の指が太いわけではありません。これより小さな単位として、麦粒の腹の厚みを指す単位が指寸の10分の1や12分の1として用いられますが、ここでは割愛します。
シュメル語shu-si、アッカド語ubanu、エジプト語dhb'、ヘブライ語etzba、アラビア語assba、ギリシア語daktylos、ラテン語digitus、ペルシア語aiwas、梵語angula、甲骨文字の寸は「指」を意味し、おおむね2cm弱です。日本ではふせ(伏)ともいい、弓の長さを測る時などに用います。今試しに自分の親指の横幅を物差しで測ったら実際2cmほどでした。これが段々伸びていったのは、後述する歩尺との兼ね合いのようです。
英語インチ(inchi)の語源はラテン語のunciaです。12分の1を指す語として使われており、ローマの歩尺であるpesの12分の1としたことからそうなりました。寸は古来尺(指尺)の10分の1だったのですが、西方から別の尺(歩尺)が伝わり、その10分の1も寸としたために混乱が生じたようです。中東や西洋では12進法が多く、極東では殷代以来十進法が一般的です。細かいことはともかく、ワンインチ距離とは2cmから3cmほど、密着距離です。ブルース・リーが放った「寸勁」は「ワンインチパンチ」と英訳されました。
▼手幅(palm)と指尺(span):7.5-18cm
手幅は親指を除いた掌の横幅で、指寸の4倍、7.5cmほどです。今実際測ったらそのぐらいでした。中東や西洋でも見られますが、日本では「つか(束、握、拳、掬)」という単位があります。記紀に登場する十束の剣(とつかのつるぎ)は10手幅、75cmの長さを持つわけです。日本では2尺(60cm)以上を太刀・打刀としますので長剣です。7世紀の直刀である丙子椒林剣は刃長65.8cmです。また平均的な矢の長さは12束(90cm=48伏=3尺)です。
漢字の「尺」は、もともと親指と人差指を張った長さを表していました。人によって違うでしょうが、17.2cmから18cmです。手首の付け根から中指の先までもそのぐらいです。漢の高祖劉邦は三尺の剣を引っ提げて天下を取りましたが、越王勾践剣は柄8.4cmを含めて55.7cmあり、尺を17.2cmとして約三尺です。島根県荒神谷遺跡出土銅剣もおおよそ50-60cmありました。尺も段々伸びていき、漢代には手幅の3倍ほど(22.5-24cm)となりました。これは肘尺の半分にあたります。手が大きくなったわけではありません。
尺が伸びると古い尺は咫(じ)とも呼ばれるようになり、古代日本では手を広げて当てて測ることから「あた」と読みます。八咫烏とか八咫鏡の「た(や・あた→やた)」です。八は聖数で多い、大きいことを意味しますが、咫を17.2cmとすれば137.6cmとなります。日本でよく見られるハシブトガラスの翼長は30-40cmほどですが、ワタリガラスなら100-150cmはあります。日本ではワタリガラスは北海道でしか見られませんが。
▼歩尺(foot)と歩調(pace):30-150cm
歩尺は足(foot)の爪先から踵までの長さに由来します。古代エジプトではbw、ペルシアではtrayas、ギリシアではpous、ローマでpesと呼ばれ、おおむね30cmです。しかし現代の成人男性でも足のサイズは26.5-27cmぐらいですので、靴を履いたサイズだと推測されています。フィート(feet,呎)は複数形で、単数形はフット/フート(foot)ですが、日本語なら「1フィート」とか言ってもいいと思います。この尺度は五胡十六国時代にチャイナへ伝来したらしく、北魏では尺が27.9cmに伸び、唐では29.5cm、宋では30.67cmになっています。日本でも唐尺や宋尺を採用しましたが、時代や地域、計測するものによりまちまちで、鯨尺とか色々なバリエーションが生まれました。大概は30.3cmで、これはいろんな基準になります。
歩調は、やや大股で歩き、両脚を交互に踏み出した時に進む距離です。片足を踏み出したのは、正確には一歩ではなく半歩です。古代ローマではpassusといい、英語でpace(ペース)となりました。個人差が大きいでしょうが、おおよそ6指尺(108-144cm)から5歩尺(150cm)です。ローマでは軍隊が進む速度をマニュアル化しており、歩調を1000倍(mille)したmile passusを移動距離の単位としていました。これが英語mile(マイル)の語源です。すなわち1ローマ・マイルは1.5kmほど(1.48km)になります。
▼肘尺(cubit)、碼(yard)、尋(fathom):45-180cm
肘尺は、指を伸ばした腕の肘から指先までに由来し、おおむね45cmほどです。歩尺の1.5倍、指尺の2倍、手幅の6倍、指寸の24倍になります。極東ではあまり使われませんが、エジプトではmh、イスラエルではamah、ギリシアではpechys、ローマではcubitusとして広く使われました。「王の肘尺」とか「神聖尺」なるちょっと長い肘尺も使われており、混乱させてくれます。これは50cmぐらいで、アラブでは肘尺が54cmぐらいになります。
碼(yard)は肘尺の倍、90cmです。ヤード・ポンド法のヤードで、歩尺の3倍、指尺の4倍、手幅の12倍、指寸の48倍にあたります。メートルは近世に振り子の長さや子午線の長さから計測されたもので、壮大ですが身体尺ではありません。その点ヤードは、自分が腕をまっすぐ伸ばせば計測できます。ただヤードに相当する単位は英国以外にさほどなく、肘尺を2倍すれば済みます。極東では唐以後の3尺です。上述のように平均的な矢の長さはこのぐらいですが、刃長3尺は大太刀です。タタミでは横幅にあたります。カタナを構えて正面から向かい合えば、こちらの顔からこれぐらいが切っ先が触れ合う間合いとなります。槍やボーはこの倍以上の間合いがあるため、正面からカタナやチョップで立ち向かうのは困難です。
尋(fathom)は人が両腕を広げた長さです。古来世界的に用いられた身体尺で、人間の身長とほぼ等しく、160-180cmほどです。すなわち4肘尺、6歩尺です。短めの槍や薙刀、ボーの長さと間合いはこれぐらいです。漢字では仞とも書きます。千尋/千仞の谷は深さ1800mあるわけです。タタミの縦の長さは「間」と呼ばれ、おおむね尋と一致します(江戸間・京間で異なる)。間とは本来柱と柱の間の距離を指し、織豊期以後に検地のための測量単位として制定されたそうです。
尺の10分の1が寸、尺の10倍が丈です。上述のように殷では十進法が採用されており、日数も10日で「旬」と数えていました。殷代の尺は17.2cmほどで、5尺=1墨(86cm)、2墨=1丈(172cm)としていたようです。身長を身の丈(みのたけ)というのは本来の用法です。孔子の身長は9尺6寸あったといい、これは殷尺で165cmほどですが、尺が伸びると巨人化してしまいました。丈とは測り竿である杖の字源です。丈の2倍が常です。これは衣服を仕立てる時の布(巾)の寸法で、人間の身の丈が普通は尋、衣服の長さが常であることから、一般的なことを尋常、一般人を常人、丈夫といいます。
目安:1尋=2碼=4肘尺=6歩尺=8指尺=12手幅=96指寸
▼丈(cane):3-6m
歩調の2倍で歩尺の10倍、すなわち約3mです。シュメル文明にも見られる古い尺度で、ユダヤではcane、アラブではqasaba、ギリシアではakaina、ローマではpertica(杖、測り竿)といいます。漢字の「丈」も測り竿や杖を意味しますが、本来は指尺の10倍を丈といい、尋や身長を指したことは上述の通りです。ところが指尺が歩尺に取って代わられたため、丈は歩尺の10倍を指すことになりました。常人の手裏剣はこの倍、投槍は7倍(遠投世界記録なら100m)の有効射程距離がありますが、ニンジャならどうでしょう。
測り竿の長さは、時代と地域によってまちまちです。土地(geo)を計測する(metreo)ことは農耕や建築の基礎で、幾何学(geo-metry)もここから発展しました。メソポタミアでは6mほどを、エジプトやユダヤでは「王の肘尺」を10倍した5mあまりを1単位とし、英国では13世紀以後5mほどを公式に「測り竿(pole,rod,perch)」として定めました。これを基準に畑の面積であるエーカーを定義したのです。面積については別に記事を設けます。
▼百尋(stadium):180-200m
尋を百倍したもので約180mです。タタミ換算では百枚です。ギリシアではstadion、ローマではstadiumといい、英語スタディアム(stadium)の直接の語源です。これは「人々が立つ(stand)場所」すなわち集会所や競技場のことで、今も観客席をstandといいます。古代オリンピックでは競技場の一周の長さを1スタディオンと呼んだのです(複数形はstadia)。近い長さとして英国のハロン(furlong)があり、200mほどですが、これは馬に犂(furh)を牽かせて畑を耕す時に休憩を挟む時の長さ(lang,long)を意味し、現代では競馬で用います。弓の射程距離はこれぐらいですが、訓練次第で伸びます。
200mを進むのにどれぐらいかかるでしょうか。時速4kmで歩いたとして分速66.7mですから3分です。時速16kmで走れば45秒、馬で走れば時速36kmとして20秒で駆け抜けます。ニンジャは常人の三倍もの速度で走りますので、普通に走っても16×3で時速48km、車と並走できます。連続側転で脚力の2倍動けば時速96km、全力疾走すれば36×3で時速108km。マグロめいて走り続けるには相当のカラテが必要です。速度についても別に記事を設けます。
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今回は以上です。身長、間合い、武器の長さ、面積、速度、旅程など課題が残りました。それらについては次回以後にやりましょう。
【続く】
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