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【つの版】度量衡比較・貨幣82

 ドーモ、三宅つのです。度量衡比較の続きです。

 1558年、カトリック教徒の英国女王メアリーが崩御し、そのライバルであった異母妹エリザベスが即位します。彼女は44年の間英国に君臨し、黄金時代をもたらすことになります。

◆Killer◆

◆QUEEN◆

悪貨駆逐

 エリザベスが即位した頃、英国の国家財政は破綻寸前でした。彼女の父であるヘンリー8世が行った、例の横暴極まる「大悪改鋳」のせいです。彼は軍事費調達のため銀貨に含まれる銀を1/3まで減らし、この悪貨を大量に発行しましたが、王室・国家に信用がないため地金で評価され、銀貨の価値は1/3になります。すなわち物価が3倍に跳ね上がり、しかも賃金は上昇しなかったので庶民の不満が爆発し、一揆が頻発しました。

 ヘンリー8世の崩御後、エドワード6世の時に貨幣の銀純度は92.5%のスターリング銀に戻されましたが、この良貨は発行されるそばから貯蓄・溶融され、海外へ流出して国内市場から姿を消し、悪貨だけが国内に残りました。悪貨が良貨を駆逐したのです。

 英国の基軸通貨はポンドで、20シリング=240ペンスに相当しますが、長い間に次第に質・量ともに劣化減少しています。8世紀末には1ポンド=ほぼ純銀350g(1シリング=17.5g、1ペニー=1.458g)でしたが、1158年に純銀92.5%の合金「スターリング銀」となり、摩耗しにくくはなりました。中世後期には戦乱と地金飢饉によって劣化が続き、15世紀後半には1ペニーに含まれる銀は0.72gにまで減っていましたが、海外から銀が流入すると貿易のため銀純度はスターリング銀に戻されました。いくつかの金貨も発行されましたが、庶民の手にはおいそれと入りません。

 王室の金融管理人トーマス・グレシャムは、ネーデルラントの国際都市アントウェルペンで金融操作を行って負債をなんとか消去します。しかし国内市場に出回ってしまった悪貨を回収しきれていませんでした。

 日本で桶狭間の戦いが起きた1560年、エリザベスは顧問ウィリアム・セシルおよびグレシャムと協力して大規模な貨幣改鋳を行い、悪貨の使用を禁止する法律を制定します。また悪貨に含まれる銀の量に応じて新貨幣と交換することを国内に徹底させ、1年かけて交換し終わります。悪貨の総重量は63万1950ポンドで、うち純銀は24万4416ポンド、38.67%でしかありませんでしたが、新貨幣の鋳造費用を差っ引けば1.5万ポンド(5万ポンドとも)の利益となり、大悪改鋳の後始末はようやく成し遂げられたのです。

近世英貨

 とはいえ、当時は欧州に新大陸の金銀が流入し、物価が高騰して「価格革命」が起きている真っ最中です。古代より16世紀前半まで、欧州では銀3-4gほどが労働者の日当(現代日本円の1万円とすれば銀1gが3000円ほど)に相当していましたが、価格革命後は銀の価値が1/3(1g1000円)になります。1ペニー銀貨はおよそ1g、熟練労働者の日当相当の4ペンス=1グロート銀貨が4gほどでしたから、以後はその3倍の銀が必要になります。銀流出が起きていた英国にそれだけの銀はなく、銀貨は結局切り下げられ(デノミネーション)、各貨幣の名称を変更した新しい貨幣体系が整備されます。

 エドワード6世からエリザベス1世にかけての貨幣改鋳・再編により、英国には20種類もの貨幣が流通することになりました。1551年、銀純度が半分に劣化したシリング=テストゥーン銀貨に代わり鋳造されたのが6ペンス銀貨です。スターリング銀とはいえ重量2.6gほどですから銀含有量2.4g=2400円相当で、1ペニーは銀0.4g=400円にしかなりませんが、これまでのペニーに相当する貨幣として流通しました。その他にも多数の新貨幣が発行され、英国や外国に流通していきます。整理するとおおよそ下記のとおりです。

1ペニー=純銀0.4g=400円 として
1/4ペニー=ファージング(銅貨)=1001/2ペニー=2003/4ペニー=3ファージング=3002ペンス=1/2グロート=8003ペンス=12004ペンス=グロート=16006ペンス=純銀2.4g=2400円(旧ペニー相当)
12ペンス=純銀4.8g=シリング=480024ペンス=純銀9.6g=2シリング=9600円(旧グロート相当、労働者の日当)

30ペンス=2.5シリング=1/8ポンド=半クラウン金貨or銀貨=1.2万円
60ペンス=5シリング=1/4ポンド=クラウン/半エンジェル金貨or銀貨=2.4万円
120ペンス=10シリング=1/2ポンド=エンジェル/半ソブリン金貨=4.8万円
240ペンス=20シリング=ポンド=ソブリン金貨=9.6万円

 1ポンドは純銀96g(スターリング銀で100g余)に相当し、22金で12.4gほどのソブリン(王権)金貨に相当するとされます。半ソブリン=エンジェル(天使)金貨は6.2g、1/4=半エンジェル=クラウン(王冠)金貨は3.1gほどとなり、純銀24gに相当しますから、スペインの8リアル銀貨やドイツのターレル(ドル)銀貨、ヴェネツィアのドゥカート金貨にあたります。半クラウンはその半分、金1.55g≒純銀12gにあたるというわけです。手形による取引も盛んですから、貨幣をジャラジャラさせなくても取引可能です。

 こうして、エリザベスは父の遺産であった悪貨問題をなんとか解決しました。しかし国内には反エリザベス派や急進的なプロテスタント諸派も多く、国外では超大国スペインが英国をカトリック陣営に引き戻そうと狙っています。新女王エリザベスは難しい舵取りを迫られることになりました。

◆Under◆

◆Pressure◆

【続く】

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