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渾沌の七つの穴
よいかな。むかし渾沌がいた。眼も耳も鼻も口もなし。身は渾然とし、意識は朦朧。これが中心にあり、太極が流れ出て陰陽が判れた。渾沌に七つの穴が空いたせいなのじゃ。
―――莊子にいう。南海と北海の帝(かみ)が渾沌に七つの穴を空けた。すると渾沌は死んだ。
この七つの穴から万象が漏れ出した。あらゆる可能性と災厄が飛び出したのじゃ。帝たちは慌てて穴を塞いだ。すると、渾沌の死体の中から声がした。そいつは言うた。
『わしは希望じゃ。あらゆるものを欲する。わしがおらんでは、世は情熱を失い、滅びるであろう』
帝たちは顔を見合わせ、そいつを出してやった。がりがりに痩せ細った姿じゃったという。続いて声がした。そいつは言うた……
◆
「あのとき、なんて言おうとしたのかなあ。婆さまは」
「それを探してるんでしょ、私らは。希望の次に出たのは、何だったのか」
沙漠のオアシスで星空を見上げ、姉弟は呟いた。次の邑はまだ遠い。
剣が光りだした。
【続く】
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