「TikTokの兄弟アプリ」が若者に人気…中華アプリの規制がまるで追いつかない米国の焦りソフトウェアの競争力は米国を上回っている。

President online より引用
2023年4月17日
真壁昭夫 多摩大学特別招聘講師

米国議員は「中国共産党の武器だ」と批判


最近、米国をはじめ主要先進国で、中国の字節跳動(バイトダンス)が開発したSNS、“TikTok(ティックトック)”への規制が強化されている。その理由は、自国の個人情報などのデータが中国の当局に流出する懸念だ。しかも、利用者が急増していることが危惧を倍加させることになった。

3月23日に開かれた米下院エネルギー・商業委員会の公聴会で、キャシー・マクモリス・ロジャース委員長(共和党)は「ティックトックは中国共産党の武器だ」と強く批判した。欧州諸国の中にも、同じような動きが目立っている。

今後、SNSに限らず、IT先端分野での米中対立は一段と先鋭化するだろう。2017年、中国共産党政権は“国家情報法”を施行した。それ以降、米国をはじめ主要先進国は、自国のデータが中国に流出しないように警戒を強めた。2018年春先以降、米国は5G通信機器や半導体などのハードウエア分野で中国企業への制裁を強化し、それがスマホアプリ(ソフトウエア分野)にも及び始めた。

ティックトックは依然として急速にユーザーを獲得しているものの、自国データを守り経済安全保障体制を強化するため、米国をはじめ主要先進国による先端分野での対中規制などはさらに強化されるだろう。

約21億円の制裁金、株の売却の要求も

足許、米国をはじめ多くの主要先進国は、公的な機関で働く人の使う端末からティックトックのアプリを排除し始めた。2月、米国政府は連邦政府職員に対して、政府支給の端末からティックトックアプリを削除するよう命じた。同じ動きは、わが国や欧州委員会、英国、カナダ、オーストラリアなどにも広がった。

政府関係者の行動履歴などが中国に伝わり、自国に負の影響が及ぶのではないかとの警戒は高まっている。また、4月4日、英国政府は保護者の同意なく子どもの個人情報を使用したことなどを理由に、ティックトックに約21億円の制裁金を科した。さらにバイデン政権はバイトダンスに対して、ティックトックの株を売却するよう求め、応じない場合にはアプリを禁止すると圧力を強めているようだ。

それに加えて米国政府は、半導体やソフトウエア分野などを対象に、米国の投資ファンドが中国の未公開企業への投資資金を禁止することも検討している。実現は難しいとみられるものの、米国におけるティックトックの禁止を目指す議論も進んでいる。日米欧において、自国のデータが中国に流出し、世論や経済活動に負の影響が出るとの警戒は一段と高まっている。

各国が警戒する中国の「国家情報法」とは

2017年6月、中国共産党政権は“国家情報法”を施行した。それは、米国などが中国のIT先端技術への警戒を強める一つのきっかけになった。

特に、国家情報法の第7条には、“いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助、協力を行わなければならない”と記された。また第7条には、“国家の情報活動に対し支持、援助、協力を行う個人及び組織を保護する”との記載もある。

額面通り解釈すると、もしバイトダンスが共産党政権からデータの提供を求められた場合、応じなければならない。状況によっては、共産党政権がIT先端企業に海外のユーザーに関するデータの提供を指示し、見返りとしてデータを提供した企業が補助金などを支給することも考えられる。国家情報法の施行によって、21世紀の経済、政治、さらには安全保障にとってデータの重要性は一段と高まったといえる。

ソフトウエア分野で米国を上回る競争力を身に付けた

その後、米国は先端分野で中国への圧力を強めた。2018年の春以降、米国政府はZTEやファーウェイなどのメーカーに制裁を科した。規制の対象はソフトウエア分野にも及んだ。

2020年8月以降、トランプ前政権は中国企業が開発したアプリの利用を禁止する大統領令を出した。具体的に、ティックトックに加え、テンセントの“ウィーチャット”、アリババの“アリペイ”など8つのアプリが対象になった。また、トランプ政権はバイトダンスに対して米国企業にティックトックの運営会社を売却するよう命じた。米国政府の圧力強化に対応するために、一時、バイトダンスは完全に米国人投資家が株式を保有する形での運営体制の構築を目指した。

現時点で、最先端分野の半導体やその製造装置などの製造技術、知的財産などの点で中国の実力は米国には及ばないといわれている。しかし、スマホの登場をきっかけに世界全体に急速にしたアプリ開発などソフトウエアの分野で、中国は米国の先端企業を上回る競争力を発揮し始めたといえる。それだけに、米国の政治家にとって中国アプリの普及を早期に食い止めなければならないという危機感は強まった。

手をこまねいている間にユーザーは1億5000人に増加


一方、ティックトックの禁止は、人々の言論の自由を制約する恐れがある。中国アプリ禁止に関する一連の大統領令の法的根拠は弱いとみなされ、裁判所に一時差し止めを命じられた。政権交代もあり、一時的にソフトウエア分野における米国の対中規制強化の取り組みは遅れたように見える。

その後もティックトックは、美顔加工を施す“ボールド・グラマー”などのソフトウエアを開発し、若年層を中心にユーザーを増やしている。ロイターの報道によると、米国におけるティックトックの月間のアクティブユーザー数は、2020年の1億人から2023年3月時点で1億5000人に増加した。

2023年2月、中国が観測用と主張した気球が米国の領空内に侵入し、撃墜される事案も発生した。それによって、米国のデータが中国に、より大規模に流出し、経済安全保障体制が脅かされるという懸念は一段と高まった。

CapCut、Lemon8、Temu…米国を席巻する中華アプリ

足許、米国では、バイトダンスが提供するティックトック以外のアプリの人気も高まっている。その一つが、動画編集アプリの“CapCut(キャップカット)”だ。キャップカットはバイトダンスが開発し、ティックトックの兄弟アプリとして利用する人が多い。

ウォールストリートジャーナルによると、キャップカットは米国で最も人気を集めているアプリの一つだという。また、バイトダンスはファッション、グルメ、肌のケア、インテリアなど新しい生活様式を提案し、シェアするためのアプリである“Lemon8(レモンエイト)”もリリースしている。さらに、米国では中国企業が開発したネット通販アプリ、“Temu(ティームー)”なども人気を獲得している。

一方、米国では、メタやツイッター、アマゾンなどの業績が悪化し、大規模なリストラが実施されている。ユーザー獲得ペースだけを見ても、米国やわが国、欧州委員会などの当局にとって、中国へのデータ漏洩、流出の懸念は追加的に高まりやすくなっている。

先端分野の米中対立は一段と先鋭化する


今後、バイデン政権は半導体、AI、さらにはアプリなど先端分野での対中規制、制裁などをさらに強化するだろう。米国の株式市場に上場している中国企業への監査、当局への報告義務などが厳格化されることも考えられる。

半導体、その製造装置や検査装置、さらには超高純度の半導体関連部材など先端分野での対中制裁も、日米欧の連携の下で一段と強化されている。先端分野における米中の対立は一段と先鋭化しそうだ。

それは、今後の世界経済に無視できない負の影響を与えることも考えられる。2022年3月以降の利上げなどの影響によって、米国では過熱気味ではあるものの徐々に雇用増加ペースが鈍化している。その状況下、半導体などに加えてティックトックなど中国企業が開発したアプリへの規制などが強化されれば、世界全体で主要投資家や企業のリスクテイクは一段と圧迫される可能性がある。


米中の対立の先鋭化は、アメリカの産業技術の弱体化と中国が拮抗しつつ越える可能性が背景にある。
10年前の中国製品、韓国製品の悪いイメージはどうだろうか。まだ使いにくい改善の余地を残しながら、世界的に生活に浸透しつつあるようだ。
真似ることの出来る分野は真似され、真似は出来ないだろうと、高を括っている間に、優越していた分野からも撤退を余儀なくされることになる。
アメリカは中国共産党の武器などと批難するが、アメリカもまたデジタルスパイ網を全世界に張り巡らしていることはジュリアン・アサンジ氏によって明らかにされた。更にFBI.CIAは古くから諜報活動を世界くまなく展開している。
政治的武器にして「正義は我にあり」政策で自国を守ることは安全保障上必要ではあっても、競争力を育てることにはならないと過去10年が証明しつつある。更に2030までは過去10年の蓄積量が顕在化して来る時代かも。横綱が西にしかいなかった時代から東にも現れ東西の横綱時代になり、長く横綱を張ってきた西の横綱に陰りが見えて来る。日本はどうあるべきか。


いいなと思ったら応援しよう!