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絵巻物を見ているよう。映画『春江水暖』中国、2019年


カンヌ映画祭で評判のよかった作品とのことで、週末夜に家族で見てきました。中国でも風光明媚で有名な杭州、ダントツの知名度は西湖のはず。でも、この映画の舞台は、西湖のおとなり富陽。大きな富春江が主人公みたいに何度も何度も、季節を変えて、場面を変えて出てきます。

主役の顧家は四人兄弟。長男のレストランで母親の誕生日が開かれている場面から映画はスタートします。しょっちゅう停電するレストランの中では、親戚一同やご近所さんが集まって、おめでたい場面が繰り広げられています。同時に、厨房や裏口では三男が兄たちに借金しようとして断られ、不穏な空気が漂っています。案の定、祖母が倒れて救急車で運ばれ、暗転。

三男は離婚して、障害を持つ長男を抱え、お金に困っています。次男は漁師。仕事は身の丈ほどで、儲かってはいないものの、再開発で自宅が取り壊されることで、そこそこお金が入ってくる様子。息子の結婚のために、なんとか家探しをがんばります。中国は結婚するのにお金は大前提です。

長男は、年老いた母親の面倒を見ながら、一人娘の嫁ぎ先で夫婦喧嘩。娘には恋愛相手のいい人がいるのに、母親はお金持ちと結婚させて、レストランの資金繰りを解決しようと画策します。親たちの世代は自由恋愛なんてできなかった世代です。唯一、気ままな生活をしているのは四男。独身です。

痴呆がすすみつつある祖母は、若い頃、親の言いつけにしたがって2度も結婚したといい、孫娘の結婚のこととなると現実を取り戻します。「せめて相手ぐらいは自分で決めさせてあげて」と嫁に頼むあたりがジンワリきます。

次男の息子は、従姉妹の結婚を祝いたいけれど、従姉妹の両親が許していないので出席をとめられます。次男の嫁曰く、「兄夫婦の顔を潰すわけにはいかない」。親戚関係の前には、個人の感情が後回しにされてしまいます。

そんな四兄弟と家族の事情が、映像で淡々と語られるこの映画。孫娘と祖母だけが女優さんで、あとの登場人物たちがすべて監督の家族や親戚だというから驚きます。単純にいうと、美女は祖母と孫娘だけ。イケメンはゼロ。中国のどこにでもいるようなおじさんやおばさん、お兄さんたちが、経済成長で変わっていく中国の富春江を舞台にリアルな生活をしていきます。

日常的に江で泳ぐ人たち。漁業で生活する次男夫婦とその同業者は、舟でも寝起きしています。レストランシェフの長男は、休日にまるで水墨画のようなスタイルで釣りをします。孫娘が女友達に結婚の相談をするときも、ボーイフレンドと道教(?)的な結婚の誓いをするときも、背景にあるのは富春江。そして、ボーイフレンドの家族や親戚だけが参加する結婚式は船上です。(これ、似たようなシーンを『宋家の三姉妹』でみた気がします)

この映画は、かなり見る人を選ぶと思います。実際、一緒にいった女子高生の娘は、よくわからなかった模様。逆に夫は「杭州に行ってみたい」とか行っています。私はといえば、体力があるときにはじっくり見たいけれど、しんどいときには辛いかもしれません。今回は調子のいいときに、しかも大画面でみれてよかった。この映画は小さい画面に超絶不向きです。ぜひ、映画館の大画面でみてください。

邦題(原題):春江水暖(英題:Dwelling in the Fuchun Mountains)
監督: 顧暁剛
主演:銭有法、汪鳳娟、孫章建、章仁良ほか
制作:中国(150分鐘)2019年


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