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遊牧民の知恵。ドキュメンタリー映画『らくだの涙』ドイツ・モンゴル、2003年
私の中の2004年の映画ベスト1。難産で初産の母らくだが、子供にお乳を与えることを拒否してしまうところから始まります。これは、実は結構よくあることらしいです。なぜなら、自然界では母が健康なら、また子供を産めるから。母体優先。人間の病院でもそうらしいです。
でも、モンゴルには牧畜の知恵があります。馬頭琴の名手が音楽を奏で、歌を歌うと、母らくだは涙を流し、授乳をはじめるんです。これは本当に驚きました。
なにより、映画館の大画面で見るモンゴルの自然はすごかったです。BGMではない、モンゴルの風の音、砂のざらつき、青い空。私が仕事で出かけた内モンゴルの空と同じで、草木が乾いていて。でも、内モンゴルより、もっと乾いている外モンゴルとゴビ砂漠。
しかも、モンゴルの遊牧民の生活が、本当に自然。特別なシーンはほとんどなく、子供の入浴シーン、じいちゃんのマンネリな昔語りのシーン、子供が動物の骨でおはじきするシーン、ささやかなお祈りのシーン、毎日の放牧のシーン……等、いちいち感動したのを覚えています。
私は娘を産んだ直後だったので、母らくだの育児拒否に共感できました。そして、馬頭琴と歌で母親をなぐさめようとする、モンゴルの人たちのやさしい伝統に心震えました。母というのは生まれつきなれるものではなくて、周りの協力で娘は母になるのだなあと。
いやもう、新米ママにえらそうに説教だけして、手を貸さないニンゲンが多い世界に住んでいると、こういう映画はしみ過ぎるほど染みます。
映画を見た後、パンフレットを買って確認したら、この映画の監督さんが、モンゴル人だけど「モンゴルの当たり前な風習」を知らなくて、ドイツに留学してモンゴルをあらためて知る努力をしたという話にびっくり。それで、あらためてモンゴルを「自然に撮る」ように心がけたそうです。確かに、現地の若者には、外の世界のほうが魅力に溢れていますしね。
そんないくつもの感動を夫にも伝えたかったので、DVDをレンタルしてきたけれど、我が家のホームシアターでは迫力が今一だったのか、それとも夫のシュミにあわなかったのか? 反応は今一。
その代わり、2歳の娘がすごく気に入って、毎日毎日、「らくだちゃんのえいが、見る!」と催促してくれました。DVDを返却した後も、「らくだちゃんの映画見る!」攻撃がとまらなかったので、とうとうDVDを定価で購入。私も気に入っていたから、まあ、いっかってことで。
娘は、モンゴルの女の子が泣くのを、「お姉ちゃん、”お母さんがいいの”って泣いてる」とか、白い子供らくだがお母さんらくだにすがるのを、「らくだちゃん、”お母ちゃーんって言ってる”」とかいいながら、真剣に見ている。
娘一人でDVDを見てくれたら、親が楽できると思ったのに、さすがにそれは無理だった。「おかあちゃんも一緒に見るの!」と強要される毎日。これはちょっと辛かった(涙)。
邦題:らくだの涙(原題:Ингэннулимс、The Story of the Weeping Camel)
監督:ビャンバスレン・ダヴァー( Byambasuren Davaa)、ルイジ・ファロルニ(Luigi Falorni)
主演 :Janchiv Ayurzana、Chimed Ohin
製作:ドイツ・モンゴル(2003年)87分