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荒涼たる大地アメリカを旅する。映画『ノマドランド』アメリカ、2021年。


予備知識ゼロ。仕事が一段落ついた自分のご褒美に見に行って、大あたり。これは大画面でみないとダメな映画でした。

映画のはじまりはネバダ州のエンパイア。人口はたった200人。すべての人が石膏メーカー「USG Corporation」で働いている小さな町。リーマンショックの影響を受けて、2011年に工場が閉鎖。夫はそれ以前に病気で亡くなっており、家を失ったファーンはキャンピングカーで放浪生活を始めます。

最初はAmazonの倉庫。その後は国立公園の清掃係とか、ファーストフードチェーンのキッチンとか。そういう仕事を転々としながら、アメリカを旅します。日本みたいな温帯湿潤気候の島国と違って、アメリカの荒涼たる大地は、車でも下手すると死んじゃいそうな厳しい大地。

そういうアメリカを放浪する人たちは、ときに集まってフリーマーケットをやったり、お互いの放浪生活のノウハウを伝授したり(例えば、街中で少し長い時間駐車する方法とか、トイレの処理の仕方とか)、音楽やダンスを楽しんだり。困ったときには助け合ったり。こういうのは、いかにもアメリカっぽいです。

あちこち移動する人々は、ときに再会します。だから、彼らは「さよなら」を言わず、必ず「また会おう」って別れます。大昔、バックパッカーしてたときも、こんな感じでしたね。思い出します。

ファーンは頑固だけど魅力的な人なので、やがて彼女を好きな男性があらわれます。彼女も憎からず思っている。でも、あるとき彼の息子が「孫が生まれるから、一緒に暮らそう」と迎えに来るのです。「父親のやり方を忘れた」といってためらう彼に、ファーンは「適当にやってたら思い出すよ」(裏覚え)みたいなことを言って、背中を押してあげます。彼はファーンに「一緒に行こう」と誘うけど、彼女は「会いに行く」と応える。

その後、彼を訪ねていくファーン。彼のキャンピングカーはパンクしたまま。気のいい息子とその仲間、息子のかわいいお嫁さんとかわいい孫に囲まれて幸せに暮らしています。彼もファーンを引き留めようとしますが、やはりファーンは一緒に暮らそうとしない。

ファーンのキャンピングカーが壊れたとき、彼女は姉に助けを求めます。姉も彼女が好きで、一緒に暮らしたいと思っている。でも、やっぱり彼女は一人を選ぶ。亡くなっただんなさんの思い出にケリをつけ、それでも一人を選んで旅する。アメリカの乾いた大地の向こうに見える太陽や、吹きすさぶ雪の大地と遠くに見える山のラインが、彼女の強さを表現しています。おすすめ。

邦題:ノマドランド(原題:Nomadland)
監督・脚本:クロエ・ジャオ
原作:ジェシカ・ブルーダー『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』
出演: フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、シャーリーン・スワンキーほか
制作:アメリカ(2021年)108分


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