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かつて日本が通った道。ドキュメンタリー映画『女工哀歌(エレジー)』アメリカ、2005年。


先進国で売られるジーンズの多くが、中国の工場で作られていた2005年。安いジーンズがどうやってつくられているか、工場で働く女の子たちを追ったドキュメンタリー。その映像は、圧倒的な人件費の安さとコスト削減、技術力の向上で「世界の工場」になった中国の現実を突きつけます。

ドキュメンタリーの主人公ジャスミンは10代半ば。彼女の同僚たちもみんな同じ。中学校を出るか、でないかで農村から沿海部の大都市に出稼ぎに来た。年齢はごまかして、ニセの身分証明書で働いている。

新人のジャスミンの仕事は、工場でできたジーンズの糸くずを切る係。当然給料が一番安くて、1時間で日本円で7.5円。残業代はつかない。食費も寮のお金も給料から差し引かれ、徹夜はしょっちゅう。

そんなブラックな工場なのに、中国のジーンズ工場は山程あるので競争は厳しい。もっと低コストにしてでも仕事を受注せざるをえない工場長。彼は元警察署長で、脱サラ(?)で工場を経営し、先進国のバイヤーたちと渡り合う。海外では従業員を買い叩く多国籍企業が問題視されるようになったけれど、中国を視察する多国籍企業のメンバーはおざなりなチェックだけして、レストランで接待され、帰国する。

こんなブラックな環境でも、ジャスミンたちには希望がある。農村生まれの彼女たちには、自宅にいれば現金収入がない。出稼ぎに行けばお金を稼げるだけじゃなく、家族に仕送りをすることもできるし、お金をためれば地元でお店をひらくこともできる。だから、過酷な生活の中にも彼女たちは明るい。技術を覚えて出世すれば、もっとましなお給料がもらえるし、休みも増える。

淡々とした語りのドキュメンタリーは、当初、中国当局側の妨害によって何度も失敗した挙句、最後は工場長の出世物語を撮影すると言って撮った作品。熱く粘った闘いの賜物。隠しカメラらしき影像は、ちょっと見ているのが辛い角度だったり画像だったりもする。でも目が離せない。

ペレ度監督は、スイス生まれのイスラエル育ち。輸入業、教師、ガードマン、ジャーナリスト、原子炉凍結のためのスタッフ、選挙事務所マネージャー、旅行ガイドなど様々な職業を転々とした後、ドキュメンタリー映画監督になったというすごい経歴。アメリカの大手スーパーが、地元の小さな小売店を倒産させていくドキュメンタリーを撮影したときに、このスーパーの商品がどこから来たのか気になって調べたのがきっかけだとか。

多くの場面を見ているからこその強みは、このドキュメンタリーでも随分と生かされているように思う。この作品はアメリカ、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、スペイン、イタリア、フランス、デンマークで上映されたとのこと。中国は上映禁止。当然か……。

一緒に映画を見ていた知人が、「1960年代の大阪泉州の繊維工場みたいだ……」とポツリ。九州からたくさんの中卒の女の子が大阪南部の繊維工場地帯に働きに来て、会社のバレーボールチームに入って、そこから東洋の魔女がでたのだそうな。知らなかった!

その後、大阪の繊維工場は黄金期を経てあっという間に中国に負けて、廃業するか中国に工場を移すかの選択を迫られた。

映画を撮影した後、アジア通貨危機で、ジャスミンたちの働いていたような工場の8割は倒産したとか。中国政府は、軽工業から付加価値の高い製品をつくる工場を優遇する政策に転換して、中国にあった外国の衣料工場は、廃業するか東南アジアへ移るかの選択を迫られた。

最近は、ユニクロや無印の商品タグをみると、メイド・イン・チャイナは少なくなった。インドネシアとかビルマとか。そういう国で、またジャスミンたちのような10代の女の子たちが働いて夢を叶えようとしているんだろうか?

邦題:女工哀歌(原題:China Blue)
監督・制作・撮影:ミカ・X・ペレド
製作:アメリカ(86分)2005年

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