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Extra.パワードスーツとともに(2)日本SFの場合

日本SFにおけるパワードスーツ

日本のSFにおけるパワードスーツを考える場合、アニメ・マンガ・特撮によるところが大きい。日本のTVアニメの最初期の三作『鉄腕アトム』『エイトマン』『鉄人28号』はいずれもロボットSFであった(「エイトマン」は人間の記憶を持っていて、作中ではサイボーグと呼称されている)。1972年の『マジンガーZ』で搭乗型のロボットが登場、これが決定打となり、日本の巨大ロボットアニメの潮流が形作られた。その一方で、石森章太郎(後、石ノ森章太郎)による『サイボーグ009』『仮面ライダー』など、人体改造型のヒーローが一つの流れを作った。パワードスーツが登場する作品が現れるのは、随分後のことになる。

SF小説において、パワードスーツに先行して、遠隔操作型の「マスター・スレイブ方式」が登場していたように、アニメ・特撮においても同様の流れが見られる。

1970年の特撮『ジャンボーグA』において、操縦者はロボットに搭乗するものの、所謂操縦をするのではなく、搭乗者の動きをトレースして動かす「マスター・スレイブ方式」であった(2010年の特撮映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』に、ジャンボーグAを元にしたヒーロー「ジャンボット」が登場。意思を持った自律型ロボットであるが、この操縦方式も劇中で描かれた)。この方式は、1994年の『機動武闘伝Gガンダム』、1996年の『天空のエスカフローネ』や、アメリカのSF大作シリーズである2013年の『パシフィック・リム』、2018年の『パシフィック・リム: アップライジング』でも用いられている。

その後に登場したパワードスーツのような外的強化に該当する初期のものとしては、1974年の『破裏拳ポリマー』、1975年の『宇宙の騎士テッカマン』、1975年の『秘密戦隊ゴレンジャー』に始まる《スーパー戦隊》シリーズ、1977年の『怪傑ズバット』などがあるが、「外的強化」というよりは「変身」の一環として描写されており、描き方はあまりパワードスーツ的ではなく、先に述べたマーベルの「ガーディアン」のような、身体に密着したぺらぺらのスーツタイプである。なお、《スーパー戦隊》シリーズの内、1977年の『ジャッカー電撃隊』のみヒーローはそもそもサイボーグであるので、スーツで強化しているわけではない。

1978年の『闘将ダイモス』では、上半身のみではあるが、搭乗者の筋電流を増幅してトレースする遠隔型の「マスター・スレイブ方式」が用いられた(下半身は脳波でコントロールする)。

1979年の『機動戦士ガンダム』は、『宇宙の戦士』を原点とし、「モビルスーツ」というパワードスーツに近い呼称を用いているが、実態としては操縦型ロボットであり、『マジンガーZ』の系譜に連なるものであった。

同年の『闘士ゴーディアン』では主人公ダイゴが小ロボット「プロテッサー」に入り、その状態で中ロボット「デリンガー」に、更に大ロボット「ガービン」に入るという、ロシアの民芸品マトリョーシカのような構造のロボット「ゴーディアン」が登場した。操縦するのではなく、動きをトレースするという意味では、パワードスーツと言えるが、どちらかと言えば、玩具のプレイバリューを考えてデザインされたもののようである。なお、この「マトリョーシカ」方式は、1986年の『マシンロボ クロノスの大逆襲』において、主人公ロムがケンリュウに、ケンリュウがバイカンフーに入るという形で再利用されるが、こちらは搭乗者自身がそもそもロボットであり、パワードスーツとしては位置づけるのは難しい。

同じく1979年の谷甲州『航空宇宙軍史』(早川書房/中央公論新社)や、神林長平『戦闘妖精・雪風』(早川書房)においては、中心的な扱いではないが重装備の戦闘用パワードスーツが登場している。

日本SFにおけるパワードスーツの発展

1982年、日本SFにおけるパワードスーツ史上、「スタジオぬえ版パワードスーツ」以来の衝撃が、模型雑誌の連載という形でもたらされた。『月刊ホビージャパン』誌上に掲載された、イラストレーター横山宏のデザインを、プロモデラーの渡辺誠(現、MAX渡辺)らが造形した「S.F.3.D」である。1984年にはプラモデル・キットとして発売された。

ストーリーを担当していた編集者の市村弘が同年ホビージャパンを退社、大日本絵画から『モデルグラフィックス』を立ち上げると、横山らは同誌で同様の企画「マシーネンクリーガー」を連載。その経緯から、ホビージャパンと横山の間で版権を巡って裁判が行われたが、1999年に和解。これ以降「マシーネンクリーガー(Ma.K)」に統一され、現在でもキットが発売されている。

コンセプトとしては「スタジオぬえ版パワードスーツ」と同じ方向性ながら、横山の丸みを帯びた、それでいてリアリティある独特のデザインと、プラモデルの持つ立体としての圧倒的な説得力、本格的なミリタリーSFとしてのストーリーが強烈なインパクトを与え、以降のSF作品に大きな影響を与えることになった。

1983年の『機甲創世記モスピーダ』では、戦闘用バイク「アーマーバイク」が変形して、パイロット用耐Gスーツを兼ねた「ライドアーマー」をサポートする強化ユニットとなる、本格的なパワードスーツが登場した。パーツは主に上半身に装着されるが、ライドアーマーといくつかのポイントで接合されており、装着者に重量がかからないようになっているなど、細かい部分まで設定が為されていた。

同年の『特装機兵ドルバック』には、「スタジオぬえ版パワードスーツ」タイプ、というよりはやや丸みを帯びた「S.F.3.D」的なデザインの「パワードアーマー」が、地球連邦軍の標準装備として登場した。

翌年の『超時空騎団サザンクロス』には、やはり軍の標準装備として「アーミング・ダブレット」と呼ばれる西洋甲冑を意識したデザインの比較的軽量のパワーアシストスーツが登場した。装甲も薄く、パワーアシストも最大で4倍程度で、『宇宙の戦士』タイプのように主兵装になるタイプのものではなかった。

1987~1991年にはOVA『バブルガムクライシス』では、主人公たちはハードスーツという身体に密着した細身のパワードスーツを身にまとい、更にバイクが変形したモトスレイヴという大型パワードスーツを装着した。

この1980年代半ばは、一種「パワードスーツ・ブーム」の到来といえた。これは、「ガンダム」に始まる所謂「リアル路線」を追究し、設定や描写にリアリティを追及した結果の一つの到達点と言える。

マンガでも1985年の士郎正宗『アップルシード』で、パワードスーツ描写は一つの頂点を極める。同作中には極めて詳細に設定されたパワードスーツが数種類登場する。最も標準的なものは全高が2~3mの「ランドメイド」と呼ばれるタイプで、民生用から軍事用まで幅広く登場している。搭乗している人間の腕部がランドメイドの腹部から露出しており4本腕のように見えるのが特徴的で、これは後の『攻殻機動隊』(両作品は世界観を共有しており、『攻殻機動隊』が2029年ごろ、『アップルシード』が2127年)。また、特殊部隊の装備として「オーク」と呼ばれるパワーアシストスーツも登場する。これは人工筋肉によって人間の動きをサポートする仕組みになっている。4巻以降では、標準装備として「ガーシム」という更に簡略化されたパワーアシストスーツが登場、ランドメイド搭乗時も負担軽減のために着用されている。このパワーアシストスーツ+パワードスーツという組み合わせは、前述の『バブルガムクライシス』でも見られたものである。

一方、特撮では、1982~1999年の《メタルヒーロー》シリーズで、パワードスーツのヒーローが度々登場した。初期の『宇宙刑事ギャバン』『宇宙刑事シャリバン』『宇宙刑事シャイダー』『巨獣特捜ジャスピオン』『時空戦士スピルバン』ではほぼ同一コンセプトで、スーツは地球より遥かに進んだ文明の産物であり、瞬間的に転送されて装着が可能であるなど一種の「変身」として扱われている。

しかし、中期に当たる1990年の『特警ウインスペクター』、続く『特救指令ソルブレイン』『特捜エクシードラフト』の《レスキューポリス》シリーズとしてまとめられる三部作では、ヘルメットを脱いで大きく息をするシーンが描かれるなど、明確にパワーアシストスーツとしての側面が強調された。この路線は1994年の『ブルースワット』でより進められ、「プロテクトギア」と呼称されるパワードスーツの装着シーンなども描かれた(しかし、続く『重甲ビーファイター』以降、変身ヒーロー路線に回帰し、さらに1997年の『ビーロボカブタック』および翌年の『テツワン探偵ロボタック』では、かつての『がんばれロボコン』のようなファミリー向けコミカル路線に転換し、一部ではこの2作を《メタルヒーロー》にカウントしない見方もある)。

1996年には佐藤大輔の架空戦記小説『遙かなる星3 我等の星 彼らの空』に軽装甲のパワーアシストスーツが登場している。兵士は敵の直撃を受けないようにするのが基本なので、破片などから身を守る程度の装甲と、すばやく物陰に隠れて移動する程度の機動力を与えるという思想で設定されており、極めて現実的であると言える。

1999年の『D』は、低予算の特撮オリジナルビデオ作品ながら、旧ソ連製「コンバットスーツDタイプ」という、『宇宙の戦士』タイプの本格的パワードスーツが登場した。兵器としてのセキュリティの面から、登録者以外が装着するなど登録者の生体認証ができない場合は、各パーツが内蔵された爆薬で爆破されるという設定がなされ、劇中でも描写された。

以上のようなSF小説や映像作品での扱いを総合すると、1990年代になると、パワードスーツはもはや説明不要のアイテムとしてあつかわれるようになったといえるだろう。

この頃になるとヒーロー系作品である《スーパー戦隊》シリーズや《仮面ライダー》シリーズにも、描写上の変化が訪れる。

《スーパー戦隊》シリーズでは、現在でもなおヒーローの強化服は相変わらず身体に密着した布でしかない場合が多く、謎の超科学の産物としか思えないが、1999年の『救急戦隊ゴーゴーファイブ』では、ヘルメットのゴーグルが透けて鼻から下が呼吸用マスクに覆われた顔が見えるなど、強化服をまとっているということを明確に意識させる描写がみられるようになった。

一方の《仮面ライダー》シリーズでは、2001年の『仮面ライダーアギト』では、警視庁の装備として「対未確認生命体戦闘用特殊強化服(パワードスーツ)」である仮面ライダーG3が登場、その描写は『ブルースワット』の延長線上に位置するものであった。これをきっかけに、続く『仮面ライダー龍騎』以降の仮面ライダーの大半は、生身の人間が外的手段で「変身」して能力を強化するタイプになっていく(『仮面ライダーBlack RX』までの仮面ライダーはすべて人体改造を受けた改造人間である)。

アニメよりも数年遅れて、リアル志向のパワードスーツが特撮に登場したのは、恐らく撮影・造詣の技術的な問題が関係していると考えられる。

初期にはスーパーヒーロー的なパワードスーツであったものが、時代が下るにしたがってリアル路線が打ち出され、現実的な描写を加えていくようになるというのが、アニメ・特撮ともに見受けられると言える。

兵器かヒーローという描かれ方は、日本でも基本変わりはない。

まさにパワードスーツはパワーの象徴であるわけで、「冬のマーケット」や「ブルー・シャンペン」のようなパワーアシストの例は非常に少ない。

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