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飲食店のインテリアデザインがデザイン以上に重要な3つの理由

【長く愛される飲食店のつくり方 #3】 インテリアデザイン

飲食店を開けるための工事には、大きく分ければ内装・厨房・設備の3つがあります。そのうち厨房と設備は選択肢がある程度決まっている中でどこまでやるか、ですが、一番オーナーによって差が出るのが内装、つまりインテリアです。デザインも工事費も徹底的に抑えることもできるし、かけようと思えば天文学的数字をかけてオープンすることもできます。タイソンズの店すべてでそれを担当してきた自分の考え方を解説します!

さて#1と#2で解説したように、お店の軸をつくり出店場所を探したら、次は店舗の設計が必要です。施主にデザインセンスがあったりコストを抑えたかったりという理由で、直接工事業者や大工さんと店をつくってしまうケースもありますが、一般的にはインテリアデザイナーに依頼して図面をつくってもらいます。

じゃあデザイナーとは何をする人で、施主はデザイナーとともに何を目指せばよいのでしょうか? あらためてそこを整理しながらインテリアデザインについて考えてみたいと思います。

■目次
1.インテリアデザインが重要な3つの理由
2.インテリアデザイナーと仕事をする際のポイント
3.インテリアデザイナーの選び方
4.費用と回収

1.インテリアデザインが重要な3つの理由

そもそもインテリアデザインは多くの飲食店になぜ必要なのでしょうか?その理由は様々で、有名デザイナーに頼みたい人や、自分のこだわりを表現したい人もいれば、単にお店をつくるために必要だからという人もいるでしょう。

タイソンズは「いいお店」をつくりたいのでインテリアデザインをとても重視していますが、「いいお店」にも色々な立場から見た「いい」があって、大きく分ければ以下の3つがあると思っています。まず初めに
 ① 顧客にとって空間は体験の一部だから

というのは誰にとってもわかりやすいポイントですが、同様に重要なポイントとして、
 ② スタッフにとって働きやすさに影響するから
 ③ お店にとって収益性を左右するから

の2つもあると思っています。つまり顧客だけでなく、スタッフとお店にとっての視点もあるということです。

どういうことか具体的に解説する前に、まずインテリアデザインとは基本的に何をすることかを知った方がわかりやすいかもしれません。デザイナーたちがどう定義するかはわかりませんが、施主の視点からいえばインテリアデザインとは、
・空間の設計(デザイン)
・機能の設計(レイアウトなど)
という、主に2つの重要な目的があります。

空間の設計=デザインとは、店の顔となるファサード(店の正面)を考え、店内では必要な素材や色や家具などを目にしたり使うものを選んだりすることに加えて、それ以外にも聴こえるものや温度・居心地など、空間内での過ごしやすさもあわせて考えて快適な空間を演出することです。

一方で機能の設計とは、厨房の位置や席の配置などを考えてレイアウトをつくったり、戸棚やカウンターなどの家具の設計をしたり… 人の動きや物の動きを考え、そのために平面図や立面図と呼ばれる図面をつくります。

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某プロジェクトの立面図… 平面だけではわからない、顧客目線での見え方や、スタッフにとっての使い勝手などを確認します

そうした空間と機能の設計が、上で書いた「顧客・スタッフ・お店」の3つの視点と大きく関わるのでそれぞれを説明していきましょう。

① 顧客にとって空間は体験の一部だから

よいデザインで快適に過ごせる空間が大事だというのはわかりやすいところで、まさに空間の設計によってつくられます。タイソンズでは、私たちが売るものは食べ物や飲み物ではなく、そこで過ごす時間そのものだという考え方から、常に顧客目線で快適な時間を過ごせる心地よい空間というのは必要不可欠な一部分だと思っています。

一方で、実はレイアウトも顧客体験そのものをつくります。その店にどうやって入っていき、どうやって挨拶され案内されて、どんな席についてどんな時間を過ごすのか。逆にいえば、平面図をつくるというのは、自分がお店で過ごしてほしい時間そのものをデザインすることです。意匠としてのデザインは基本的にデザイナーに任せますが、レイアウトによるお店の空気感や時間のデザインにはかなり深く関わります。

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例えば一番最初に学んだこと。広尾時代のシカダでは、外からのお店の見え方や、お客がお店に入店していく際のストーリーを自分なりに考えて描いてみた結果、それまであった入口の位置を変更することをデザイナーにお願いしました。懐かしい入口… 今はもうないのが残念です。

また良い席を作ることは誰でも考えますが、一方でできるだけ悪い席を減らすことも重視します。そういう細かいことの積み重ねがより良いお店をつくります。

② スタッフにとって働きやすさに影響するから

これこそまさに機能の設計です。大きいお店になって人の数が増えるほど重要だし、特に厨房には大きい影響があります。どこに何があり、どういう手順で調理して「デシャップ」(Dish-up、お皿を出すところ)に届けられるのか。設備なども関係し複雑なので厨房専門のデザイナーもいるぐらいですが、メーカー風に言えば部品倉庫と製造ラインと出荷といったところ。

またホールではいわゆる「動線」、物流でいうロジスティクスが重要です。どのように料理やドリンクがテーブルに届けられ、下げ物が洗い場に運ばれ、一方で取り皿やシルバーウェア、グラスなど必要なものがすぐ顧客に供給でき、ストックも一杯あって… 毎日のオペレーションでひたすら繰り返す作業に、なるべくストレスを与えないよう設計することが重要です。

それには、店を上から見た平面図は人の動きの設計という意味でとても重要だし、それだけでなく様々な場所で店を横からとらえた立面図は、戸棚の位置や引き出しの数など細かいところで働きやすさに影響を与える部分のチェックをするため非常に重要です。

また最近はそれだけでなく、バックヤード(スタッフ用スペース)をちゃんと確保して快適な職場環境をつくることも大きなテーマになってきました。

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知る人ぞ知る、かつてIVY PLACEにあった2階個室。蔦屋書店で借りたビデオを見ながら食事ができるというテーマの部屋でしたが、売上が想定をはるかに超えた結果、スタッフ用スペースが足りなくなり家具を入れ替えて休憩室になりました。でもそれでも足りなくて外にマンションを借り、着替え部屋としています。ただ厨房だけは拡げようがなく…簡単な環境でないことは申しわけないです。

③ ビジネスにとって収益性を左右するから

意外かもしれませんが、レイアウトは業績にも直結します。先に書いた動線や客席のゾーン(一人のウェイターの担当ゾーン)の設定次第で、必要な人員数が変わります。特に大箱になるほどちょっとしたレイアウトが大きな影響を及ぼします。

チェーン店などは、この改善の積み重ねでオペレーション効率を追求し、配置が決まっていたりします。タイソンズでは1つのコンセプトを規格化して展開するわけではなく毎回違う店づくりになるため、そこまでのことはしないにしろ、相当な時間をかけて検討します。自分が性格的にあとで「こうしておけばよかった」とか後悔することが嫌いなので、おそらく業界でもかなり時間をかける会社だと思います。

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T.Y.HARBORぐらい巨大になると多くの人が同時に働くので、動きやすさはやはり大きなポイントです。夏のピーク時、厨房には20人いて1日1000人以上の食事をつくりながら、日替わりランチやディナーの仕込みもしていく巨大オペレーションです。ホールでは50人が働き、すべての食事をこのキッチンから運び430席のテーブルに届けます。そして届けるということは、もちろん届けたすべてを洗い場まで下げるということもセットに… 最近ではロボットが皿を運ぶ店もありますが、飲食業界の将来はどうなる???

よその店に行くと、職業病なのかついついその視点で店を見てしまいます。そして深く考えられていないお店を見るたびに、あーあ働きづらそうだな、とかこのお店苦労しそうだな、と思ったりもすれば、いやこのお店すごいなと思うこともあります。インテリアにオーナーやデザイナーの意図がないと無味乾燥な感じがするし、逆にビシビシと伝わるお店は大好きです。

よく、家は3回建てないと理想の家ができないという話があります。実際に3回も建てられる人がどれだけいるかは知りませんが、インテリアデザインの作業はこれまで店をつくるたびに何度もしてきた作業なものの、いまだにできてから反省することも多くて… 図面という紙の上だけの世界から、いかに空間を想像し、顧客体験を考えオペレーションを設計するか…何回やっても非常に難しい作業です。

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デザイナーから学ぶこともありました。自分はデッドスペース(まったく使われない空間)が嫌いで、できるだけなくしたいといつも考えます。初回作品である広尾のシカダでは徹底的にそれをなくそうとして、上の写真にあるアートの飾り棚や、奥のブース席の壁際にある30㎝ぐらいの奥行き空間をつぶして客席を広くしてほしいと頼みました。でもデザイナーは必要だと押し切りました。出来上がってみると、この30㎝が無駄な空間どころか座った時の空間的余裕感をつくっていて、デザイナーが正しかったと思いました。

2.デザイナーとの付き合い方

自分にはつくりたい世界がありますが図面を描けるわけでもなく、その世界を実現するためにインテリアデザイナーは必要不可欠なパートナーです。自分の言ったとおりにやってもらいたいとも思わないし、彼らの作品にするつもりもないし、あくまで共同作品であるという意識を持っています。

そのために一番重要だと思うのが、「感覚をすり合わせる」こと。ちゃんとすり合わせず、デザイナーが最初のプレゼンで出してきたデザイン案が「思ったのと全然違った」と考えても、もう手遅れです。修正しようと思っても、デザイナーはそのデザイン案をベースに修正しがち。だったら、その前にちゃんとインプットしてそもそも違わなくすることが必要です。

自分がよくやるのは、一緒に海外を回ったりするなど時間と感覚を共有すること。シカダのストーリーでも書きましたが、大きなプロジェクトがあるたびにデザイナーと海外を回り、この感じいいよね的な積み重ねをします。自分自身にとってもその後の空間デザインの引き出しを増やす良い機会です。

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2012年、原宿のSMOKEHOUSEとTHE ROASTERYを開ける前、デービッドや他のスタッフとともに、ポートランド~サンフランシスコを回ってBBQを食べコーヒーを飲みつづけました。その時の写真。

最近はSNSのおかげで、出張しなくても世界中どこの店でもすぐ知れるし、すぐ見えるようになりました。でも、写真に撮って美しい空間であることは今の時代に必要不可欠とはいえ、実際に行ってみるとあれ?ということが多いのも事実。顧客にリピートしてもらうことを重視する自分としては、実際に行ってみて感じられる空気感をより大切にするし、海外視察に行くのもそれが理由です。

3.インテリアデザイナーの選び方

さて、ではどうやってデザイナーを選ぶのでしょうか?

大きなポイントは、飲食店のインテリアデザインは特殊な部分も多いため、できれば経験のある人に頼んだ方がよいと思います。また感性は人それぞれなので、それまでの作品を見て自分の感性に合うかどうかを見極めること。タイソンズでは主に二人のデザイナーに依頼しています。

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KROW 長﨑健一さん ー T.Y.HARBOR、IVY PLACE、雷庵などを担当してもらっています。色々なデザインができますが、シンプルで爽やか、大人で上品な空間が自分は好きです。IVYとかまさにそうですよね! スリランカでジェフリー・バワの建築を訪問時、空間の素晴らしさをしみじみ感じているかと思ってよく見ると、スマホをいじってます。こら、ちゃんと空間を見なさい!

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bazik 滝澤雄樹さん ー CICADA、SMOKEHOUSE、THE ROASTERY、EL CAMIONなどのプロジェクトを担当してもらいました。造形美が美しくてセンス抜群だし、夜の色気あるシーンが上手な人だと思います。THE ROASTERY開業前、サンフランシスコのSightglass Coffeeで撮った写真。遠い視線はキャットストリートの将来を見据えていた…のかも…

2人と話していると、「IVY PLACEみたいなお店をつくってほしい」とか「CICADAみたいなお店を」といったリクエストが結構来て困るとか。ただそういう依頼をする方に知っておいてほしいこと。二人に頼めば同じ店ができるわけでは決してありません。そもそも彼らはデザイナーとして別の施主のために似たものはつくらないし、上で説明したとおりタイソンズの店は彼らと自分の共同作品であって、施主のインプットがないかぎり絶対に同じものができないからです。

いい店をつくろうとしたら、店の設計に自分の考えをインプットし、開業後の店に命を吹き込みつづけるのはオーナーの大切な役割です。誰が設計するか、だけがポイントではありません。

4.費用と回収

そして最後は費用です。

最初に書いたとおり、インテリアはお金さえあれば無尽蔵にコストをかけられます。アジアで見かけることも多いですが、安定した本業を持つ企業や富裕層がオーナーで、「えっ?これいくらかかったの?」的なすごいお店を見ることもあるものの、飲食業しかしていないタイソンズはしっかりと投資回収を考えねばなりません。

実はオリンピック関連の工事が本格化したころから職人不足が言われるようになり、工事価格が跳ね上がってお店を開業するにはそれまでの2倍以上のコストがかかるようになってしまいました。その頃に商業施設なども多くできましたが、友人からは上がり続ける費用の話も聞いていたし、そのためタイソンズではこの数年まったく出店をしてきませんでした。

それも少し落ち着き、タイソンズでは今後も客単価レベルなりにしっかりコストをかけて店をつくっていきたいのですが、もちろんお金をかければいいという世界ではないし、かけてないけど格好よくていいお店というのも多くあります。ここ数年はビールケースを積み重ねたテーブルに丸椅子みたいなお店も流行ってきましたし、人によってはデザインは店選びで重要な要素でない場合もあり、何が正解かは正直わかりません。

ただ確実に言えるのは、空間や機能の設計で利用する顧客層も変わるし、入ってくるスタッフやその定着率も変わったりします。そこで問われるのは結局、オーナーがどんな店を目指すかということ。ただ単なるお化粧ではないインテリアデザインの世界、確かな考え方を持って挑みましょう!

次号予告:
【ケーススタディ #4】 breadworks
T.Y.HARBOR横の倉庫が空いたとき、そこでベーカリーを開けようと思った理由とは。その決断はタイソンズの成長に大きく影響していきました。(10月上旬予定)

次々号予告:
【長く愛される飲食店のつくり方 #4】照明 見過ごされがちだけど実は非常に重要な店の照明。その理由と気をつけるポイントを解説します。(10月下旬予定)

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