舞台照明デザインのこと その8 真上(トップ)とは、またデザインの入り口
はじめに
前回予告した通り、真上からの明かり(通称トップ)についての話をする。
それと、文字数に余裕があれば、前回までの説明をしていた角度の話を更に突き詰めていきたいと思う。この角度の話はとても長い。
では、今回もよろしくお願い。
サスって、言葉がややこしいんだよな
唐突に愚痴からスタートしましたが、よく舞台の仕事で「サス」って言葉を聞くと思う。なんなら照明さんも「サス明かり」とか言ったりする。
まず、このサスとは何を指すのか。
サスペンションの略です。
また、同様に照明を吊るためのバトンのことをサスバトンとか言います。
サスペンションは、辞書的な意味で言うと 「つるすこと」
ちなみに、サスバトンも劇場のすのこなり、天井なりから吊られているので、サスペンションされた灯具(スポットライト)をサスペンションするためのバトン。みたいなややこしいことになっています。ちなみに英語だとLighting Barという書き方をよく見ます。こちらの方がわかりやすい。
と、いうわけで、吊ってあるものは全部サスだ。
そして、なぜか舞台上の真上にあるものを指して、サス明かりとかサス中(なか)みたいな言い方をする。
これはサスバトンに吊ってあるものを指して、サスという言葉を使っている。なんだか、幕中(まくなか)じゃダメなんかな。と、思ったりもする。
さ、そんな苦悶は置いといても、現場ではなんとなくサスと言えば舞台の上にあって、だいたい真下向きに何かの真上から当てる明かりのことを指すことが多い。で、それをサスと呼んだりする。そうじゃない人もいるし、厳密にはトップという言い方をすることが多い。
前置き長い。失礼。
トップの不便さとトップに囚われること
トップというのは、こんな感じ。
表情も顔もよくわからないし、身体もなんとなくしか見えないし暗い。
そういう目的があって、わざわざ空間を絞りたいという時に使う。
これを技術無く常用されると、観る方はとてもしんどい。観るべきものが観えないから目が疲れてしまう。しかし、それにしても暗い。
前から明かりを足そう。見えやすくなった。前からの明かりしかついてない時よりも身体のエッジがはっきりしている。なに?覚えてない?
こんな感じだ。周りの見え方に多少差があって、そのせいに見えるかもしれないけど、真正面からの明かりだけの時は平面的に見えるが、上からの明かりが足されると、立体感が生まれる。舞台上に居る人を見せる時に、立体感が重要。なぜかと言うと、立体であるということは=存在感に繋がるからだ。
ま、もう一度トップだけにしてみよう。
もう一つ気が付くことがある。天井の高さがないと、狭い範囲しか当てることが出来ない。
また、観客に対して明るくなっているな。と感じさせることが出来る場所が狭い。
でも、舞台照明っぽい。という理由だったり、なんとなく、このトップを多用してしまう場面をよく見かけるけれども、正直見えづらい。
ちょっとだけ実践的にトップを使ってみる
少し、明るさを調節して、通常で僕が使うトップと前からの明かりのバランスに整えたのがこれだ。
エリアを絞っているように見せつつ、しっかり顔や身体が見えるようにして、立体感を作っていく。お芝居ではこのくらいのバランスが自分は多い。
でも、これを使える場面は限られるし、演者のシルバーレディがここに来てもらわないと明るくならない。他に動いたら、もうアウトだ。
演劇にしても、ダンスにしても、基本的には動的なものである。
それを一時的に静止ないしは、停止するような場面があり、何か狭い範囲から出ないような条件が整った時に、こういう状態を求められる時が来る。
舞台において、静止や停止は特別な状態
例えば、これが連続して1時間半続くのは、ちょっと耐えられない。
というか、わざわざ同じ空間に居て、人の営みの一部を見るというのに、こんなに視界を狭める必要があるのか。
演劇やダンスに限らず舞台表現は、同じ時間に同じ場所に人が集まり、何かを行い、それに対しての観客の応答があって、初めて成立する芸術である。
つまり、観客が味わえる(ないしは味わうべき)ものは、演者だけでなく、時間や空間も含まれている。
照明はその観客の視界をある程度コントロールできるし、していかなくてはならない。これこそが最低限、舞台照明が技術的に解決しなくてはならないことだ。
観劇体験を彩ることが目的ではなく、観劇体験そのものを調整するという大きな役目がある。
そのために、どういう角度から照明を当て、その人物や空間を整えていくのかということは、デザイン以前の技術的な問題となってくる。それらを解決した後にしか、デザインは存在しない。
まずは見えることが大事
見せないのは簡単だ。ブラックボックスと呼ばれる暗転できる劇場においては、照明を消せばいい。
でも、明るくするにも基礎を押さえて置かないと、先に書いたように立体的な画面構成をすることが出来なくなってしまう。
まずは、4つの組み合わせ二つ。
これが基本の基本の角度である。まずは、これらを頭の中で使いこなせるようにトレーニングをしなくてはならない。
が、ただ4つの方向から当てる。っていうことだけでは、デザインとは呼べない。技術的な解決をしただけになってしまう。
これを応用して、照明をデザインしていかなくてはならない。
今日はここまで
さて、やっと本題にたどり着いたところで、文字数の限界が来てしまった。
次回こそ、照明の角度を「ライン」という概念に置き換える僕なりのデザインの考え方の話をしようと思う。
進める進める詐欺みたいになっているが、次回は必ずやる。
今回もお付き合いありがとう。
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