舞台照明デザインのこと その5 角度についての具体例
まず、このnoteについての前提条件を説明していなかったので、今更ながら、追記したいと思う。
このnoteのマガジンについて
このnoteのマガジンはすでにお気づきの方もいると思うけれども、舞台照明のデザインがこれを読むと出来る。というような「できるシリーズ」ではなく、僕がデザインの型や様式としている概念や実際を文字化しているものである。しかも、舞台照明(演劇、ダンス)をデザインするときの僕が思う最初に考えるべきことを列挙しているに過ぎない。
別に、断り書きをしなくてもいいと思ったのだが、できるシリーズと勘違いする人もいるかもしれない。と、ふと、思ったので追記。
前回までのおさらい
このシルバーのレディに登場いただいた。
まず、僕が舞台照明のデザインで重要だと考えているのは、
必要なことが見え、そこに観客が集中できること。
この一点である。
そう考えたときに、最小限での構成で最も美しいものの一つだと考えている。僕の美の観点はそこにあるのだが、それはここで置いておく。
舞台照明において、重要なことは見たいところが見えるようにしなくてはならず、その重要な場面で、演者の顔や身体が見える必要がある。
明るさだとか色だとか、他の要素が含まれてこその舞台照明デザインなのだが、ここでは僕が一番重要だと思う。「角度」に絞る。
角度の事例を見よう
このnoteで使う用語で、「前」というのは、そこに観客がいる場所。「正面」にあたる部分だと考えてもらいたい。
前からの明かり
真上から見たところ
斜め前から見たところ
後ろからの明かり
真上からの見たところ
斜め前から見たところ
向かって左(下手)からの明かり
真上から見たところ
斜め前から見たところ
向かって右(上手)からの明かり
真上から見たところ
斜め前から見たところ
まずは、理解がしやすいこの、前、後ろ、左、右の四種類の角度だと思う。
この四種類の明かりを見て、どう感じたとか、どう思った。
そういうことはここでは論じない。これは、25種類ある構成要素のうちの1つずつであって、その中でも舞台照明においてよく使われる4つの構成要素のうちの一つずつである。ということを覚えておいて欲しい。
四つの構成要素を組み合わせて、分解する
これが先ほど、上げた四つの要素を組み合わせたものである。
見ての通り、シルバーレディにはまんべんなく明かりが当たっている。
なんとなく、ちゃんと明かりが当たっているというようにも見える。
正面からだけの明かりに比べ、その身体の造形もわかりやすくなっている。
まったく同じモデルに明かりを当てているが、大きく違うものに見えもする。
これは、各方向からの照明がお互いを補完しあった結果である。
正面からの明かりも顔も身体も見えているけれども、長い時間見ていると考えると4方向から明かりが当たっている方が見やすいはずだ。
では、この4つの照明による構成を要素に分解しなおそう。
4つの要素による構成
真上から見るとこのような感じである。
さきほどの各方向からの個別の照明を組み合わせただけなので、当然先ほどの4つの要素によって構成されている。
シルバーレディは、90度ごとに1つの照明に照らされていて、前、横、後ろがまんべんなく明るくなっている。とても見えやすい。
(頭頂部が暗く見えるのは、ここに照明が置いてあるからである)
さて、要素に分解しながら説明をしていこう。まずは後ろからの照明だ。
この状態だけ見ても少しわかりにくいかもしれないし、ひどい言い方をすると無くてもいいんではないだろうか。と、見えるかもしれない。
しかし、これこそがとても重要な要素の一つである、シルバーレディの身体のエッジ、つまり身体と空間の境界線を明確にすることによって、彼女を空間上に立体感を持たせるものになっている。
次に両サイドからの照明を見よう。
この二つの画を見てもらうとわかるけれど、光は直線にしか進まないという構造がよくわかると思う。わきの下や胸の下、足の間の空間にはどちらも影が強く出ている。
どちらか一方だけが当たっているのを見ると全体を把握しづらい。
というわけで、
両サイドからの照明をつけてみた。これでかなり体の造形が分かりやすくなったと思う。特に、身体の前面についての凹凸の様子などがはっきりしてきたと言える。
最後に、正面からの明かりを見直してみよう。
先ほどの3つの要素では弱かった身体の前面の明るさが確保されている。これで顔や身体が見やすくなる。よく英語ではフェイス(Face)ライトとか言われることがある。一個しか照明がなくて、顔が見えないと駄目だ。と、なったら、これ以外の選択肢がなくなるくらいには、重要なものだ。
これがスタンダードだ
これら4つの要素を組み合わせて作るのが、僕の舞台照明デザインのスタンダードだ。
まず、この4つの照明の角度もしくは方向についてが、原点となってデザインを構成していく要素となる。
要素であって、これはまだデザインではない。
4方向から明かりを当てることは、デザイン以前の段階の話でありふれたものでしかない。ただ、まずはこの角度について理解をしてもらうことがとても大事だと考えた。
ちなみに残り21の方向について、同様のことをすることはない。
次回は、この4つを使って、デザインが出来るかどうかにチャレンジしてみようと思う。
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