見出し画像

舞台照明デザインのこと その9 舞台表現ということ。からの方向性(ディレクション)とデザインのこと

時空間芸術である舞台表現

僕の考え方としては、

まず、前提として、演劇やダンスといった舞台表現は時空間芸術である。

時間と空間を共にしたものにしか味わうことが出来ない芸術。
じゃ、映像で撮ったものは違うのか。
僕の答えは違います。
だ。
どういうことかと言うと、映像(2次元=2D)は、時間と空間をあらかじめ切り取ったものだと言うこと。どんなに精緻な作品であっても、時空間芸術とは呼べない。
映像で切り取った時間や空間は、誰かの眼であって、観客の眼ではないということ。

急に小難しい話をし始めたぞ、おいおい。と思うかもしれない。
でも、この視点がないと舞台照明のデザインとは呼べない。
映像表現と舞台表現が、照明という観点において最も大きな違いは、観客が観たいところを観られるかどうか。また、視点や観客の角度は、観客自身のものであるということ。
そして、舞台照明のデザインは、その観客の視点を誘導することだ。

人間の眼は優秀で、狙ったところの明るさを測って瞳孔を開けて明るくしようとするし、明るい時には瞳孔を絞って補正する。
観たいと思ったところに集中して、より細かく観ようとも出来る。
まさに、視点やピントは自由自在なのだ。しかも、人によって違う。
観客は舞台を観ることで体験をその場で作り、観客の身体が応答する。
それにまた演者は影響される。
これが始まってから終わりまで続くのが舞台表現の特徴でもある。

舞台照明のデザインと方向性のこと

前回までに、8方向+1(真上)の話をしてきた。
いよいよ、今回から方向性の話にうつる。
前回は各方向から当てるとどうなる。とか、どういうように感じる。みたいな抽象的な話だったけど、今回からはもう少し論理的になる。

まずは、基本の4方向。

画像2

そして、応用の4方向。

画像1

これら、全部で8方向を使って、デザインについて考えていきたい。
が、その前に「伊藤馨にとっての舞台照明デザイン」の話を、また少しだけする。

伊藤馨にとっての舞台照明デザイン

舞台照明をデザインするとは、自分の眼で見たものの中で、重要だと考えられるものを選択し、それをどのように見せるのか。また、何を見せようとするのか。(また同時に何を見せないようにするのか。も含まれる。)
と言うことに尽きる。

画像3

それを果たすために最も重要なことは、方向性(ディレクション)である。

方向性こそが僕の舞台照明デザインの基礎

どの角度から当てて、何を強調し、あるいは何を隠そうとするのかを考えなくてはならない。見え方の違いや方向性が持つ癖を理解しなくてはならない。そして、それらを組み合わせることで照明をデザインしていく。

画像10

まず、基本の4方向。

画像10

と、応用の4方向(斜め)。
対象物の前から当てると前面が明るくなる。
前側の三方向は、同様の効果がある。

FR前

画像6

対象物の後ろから当てると体のエッジが強調される。

BAK前

画像8

真横からの明かりは、身体のエッジだけでなく、側面全体で明るさを確保できる。舞台面に居る演者や空間的な明るさを確保するときに使われる。

画像9

ここまでが、舞台照明で使える角度としての手段の最大公約数であり、この概念の中から、何がふさわしいかを選んでいくことになる。

僕の舞台照明のデザインは減算方式

フラットにどこを見ても問題なく明るい照明の当て方をイメージして、その中から不必要だとされるものを削っていく。そうすることで、見せるべきもの見せたいものをはっきりとさせていく必要がある。

でも、そのためには考えるヒントが必要だ。
先ほどの基本と応用の4方向から、最低限全体に光が回っていると感じられるためには、3つの照明があればいい。

画像11

つまり、こういうこと。

画像12

前と斜め後ろの二つの照明。
もしくは、逆でもいい。

画像13

前の斜めと後ろの照明。

画像14

4つの照明の場合は、各々の間の角度は90度。
後ろが斜めの方は、後ろ斜めが90度で、前の照明までの角度が135度。
後ろが真後ろの場合は、その逆。となる。

同じような理屈で、変形してみよう。
舞台下手側(画面で左側)をメインにして、上手前で前面を上手奥で身体のエッジが見えるようにしている。

画像15

画像16

こうすると、少しフラットが崩れてきた。正面から見たときに下手側の腕と身体の内側に陰が見える。フラットに全体が明るくなっているよりも立体的に見える。

では、照明を更に削っていく。
2つだけにする。

画像17

画像18

劇的になってきた。
劇的になってきた。というのは極端になってきた。ということ。
つまり、照明だけでこのシルバーレディに意味合いが読み取れるようになってきてしまっている。照明としては面白いかもしれないけれども、場面を選ぶ。
演者の下手側の顔に陰が見えていて、ここまでする必要があるかどうかを考えなくてはならない。
ちなみに、このように片方だけからしか照明がついていない状態を「片明かり」という言い方をする。使いどころが良ければ効果が出やすい。

更に3つ照明の応用をしてみよう。

画像19

画像20

これは少しだけ、下手側が強調されているように見える。
正面からの照明がついているので、多少平面的に見えるが、方向性は出ている。

8方向に分けた場合は3つの照明があれば、対象物になるものの全体が見えやすくなると言うことがわかる。

まずは、こういうフラットをいくつ作ることが出来るか、考えることが出来るのか。そして、必要に応じて削り、また必要なときは足す。
最大限8方向+1方向を足した状態がいい場合もある。

どの角度から、どのように当てるのか。これだけである意味では無限に近い可能性があり、その中から最も強い強度を持ったデザインを探すことになる。
強度とは、その舞台で演者や観客に働きかけることが出来るかどうか。
ということではあるが、また同時に観客に意識されないことを目指す必要がある。
観客は照明を観に来ていない。
時空間を体感しに来ている。
これは、忘れてはいけない。

舞台照明は、必然としてそこにあるようにあるというのがデザインの強度に繋がる。

つづく

これで、僕の舞台照明のデザインで使われる角度の話は終わりになる。
次回以降は、舞台照明で操作できることとは何か。の話をしていこう。

今回も長くなってしまったが、山場を越えた感がある。
ここから先は概念の話が続くことになるかもしれない。

では、また、次回。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?