virgin
コンコン。
ドアをノックする音がして、私は立ち上がった。ドアチェーンを外し、そっとドアを開ける。
「初めまして。」
立っていたのは、瞳も肌も、鼻の形も、全てが美しい男の人だった。
「は、初めまして。」
私は一歩下がって、彼を部屋に招き入れた。彼がコートをハンガーにかける間、私はベッドに座って、コーヒーを一口飲んだ。
「あなただったんだね。」
彼は笑顔で言った。そう、ずっとダイレクトメールでのやり取りしかしていなかったので、会うのは初めてなのだ。
「うん。かなめくん、やっと会えたね。」
私はドキドキする気持ちを必死に抑えながら答えた。自分の顔が紅葉しているのがわかる。室内が薄暗くて良かった。
「綺麗な顔してるね。」
彼は私の隣に座り私の頬を右手で覆った。
男の人から触れられるのは何年ぶりだろう。手から伝わる熱で、おかしくなりそうだった。
「へ…?そうかな?それを言うなら、かなめくんの方が綺麗…」
そう言おうとするのを、彼の唇が制した。
「え…、待って」
私は力無く彼の胸を押した。
「どうして?」
彼が私を見つめている。眼差しで身体中が痺れるようだった。
「今日はさ、そういうの、無しでいいから。ただ会って話がしたかったの。今までのお礼が言いたかったっていうか…」
言いかけたけど、また彼の唇がそれを遮った。
「手、回して?」
そう言って私の両手を彼の首に回させると、彼は私の腰に手を回した。キスをするたびに、そこから溶けてしまうんじゃないかと思った。
「やっぱり、今日は…」
「今日だけは、流されてみてよ。」
そう言うと彼はそのまま、私の体をベッドに沈めた。
深く深く、潜っていくように、繊細な感覚が研ぎ澄まされていく。
あぁ、やっぱり自分も女だったんだな、そう思った。初めて会った人を、こんなに簡単に受け入れられるものなのか?そんな考えが頭をよぎったけど、もう遅い。
深く深く溺れてしまって、うまく息ができなかった。
「ありがとう。」
そう言って、その日の代金を渡す。その切り取られた一瞬が、やけにリアルだった。
「こちらこそ、ありがとう。またね。」
彼はそう言って部屋を出た。もう会う事はないのに…。私の目の前は滲み、頬には生暖かいものが伝った。
帰り道、やけに空気が澄んでいて、下腹部の違和感が心地よかった。自分という存在を正当化してもらったような気がして、よく分からない誇らしさが私を満たしていた。