
「歩」が「と」に大へんしん!
ひさしぶりにフィクションの読み物を手掛けました。
この本は、将棋をテーマとする幼年童話です。物語は、主人公の歩(あゆむ)が、同級生にいじめられるシーンから始まります。周囲との関係に悩む中、歩(あゆむ)は将棋と出会います。ある日の給食の時間、普段いじめられている相手を、ひょんなことから歩(あゆむ)は泣かしてしまいます。その姿を見た同級生に掛けられた言葉をきっかけに、歩(あゆむ)の心に変化が起こる、というところでこの話は終わります。
今から四〇年前、この本の作者・川北亮司先生は、『へんしん! スグナクマン』(草炎社)という作品を、同じく作画を務められた藤本四郎先生と一緒に手掛けられました。同書は「第三〇回全国青少年読書感想文コンクール」の課題図書となり、二〇万部の売り上げを記録。当時、小学校二年生だった私は、同コンクールで入選を果たしたのですが、このことが本職に就くきっかっけになったと言っても過言ではありません。自身がいじめをのり越える原動力となった、同書のような作品を、いまの子どもたちにも読んで貰いたいと思い、いじめをテーマとする作品の制作を依頼しました。
『「歩」が「と」に大へんしん!』は、小学校低学年が読むことを想定した、いわゆる「幼年童話」と呼ばれる作品ですが、近年、活字離れも叫ばれており、絵本の出版点数が増えている一方で、幼年童話の発刊がほとんど果たされて無い状態です。そういった状況を危惧する気持ちも、本作を依頼する後押しとなりました。
四〇年前とは、時代も大きく異なり、いじめの性質や、子どもと大人との関わり方に変化が見られています。川北先生と藤本先生は、ご近所の小学校などに取材に赴きながら、本作の制作に挑まれたと言います。川北先生は、あとがきにこんなコメントをのこしています。
「だれかを いじめるのは、おもしろいかも しれません。たのしいかも しれません。
でも、あいての 人が どうおもっているか、どうかんじているか、
ちょっとだけで いいので かんがえてほしいのです。」
どんなにいじめが複雑化しても、ここに原点があると思います。
この本が、いじめの無い世の中をつくる、一助になればと思います。
『「歩」が「と」に大へんしん!』
作 川北亮司
絵 藤本四郎・
装丁 中垣デザイン事務所
2024年8月29日発売
小学校低学年から。



