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ASEAN周辺諸国でのパラアスリート強化と普及活動

はじめに

2024年12月9から13日までの3日間(11日は祝日)、株式会社Xiborgは現地マヒドン大学義肢装具学科と協働し、スポーツ庁スポーツフォートゥモローアクションプラスの事業の一環で日ASEANスポーツ協力における優先協力分野の取組の推進事業を開催した。

ショートPV

事前資料


スケジュール

参加アスリート


為末大(オリンピアン、400mハードル日本記録保持者)
佐藤圭太 (トヨタ自動車、T64) ロンドン、リオパラリンピック日本代表 4x100m リレー銅メダル(リオ)
池田樹生(DY OneDAC、T64) 2017年世界パラ日本代表 4x100m リレー銅メダル(リオ)
山本篤(新日本住設、T62) 北京、ロンドン、リオ、東京パラリンピック日本代表 メダル多数
タイパラリンピック委員会
Tawarit Chantapan(コーチ)
Phalathip Khamta (T63) パリパラリンピックタイ代表
Denpoom Kotcharang(T64) アジアパラ2018, 2023タイ代表
ラオスパラリンピック委員会
Hiroyuki Hane(コーチ)
LOZA Hauangsakda (T64) 2nd Nakhon Ratchasima Int. Para Athleticsラオス代表
カンボジアパラリンピック委員会
Yi Sopheaktra(コーチ)
Meng Sorphea(T64) 2nd Nakhon Ratchasima Int. Para Athleticsカンボジア代表
Leng Chantrea(T62) 2nd Nakhon Ratchasima Int. Para Athleticsカンボジア代表
イランパラリンピック委員会
Roya Beikpourtanha(T64)2024年世界パラグランプリイラン代表

3日間の現地でのワークショップでは、ソケットをゼロから完成させるまでの工程を全て行うのは難しいため、事前にオンラインレクチャーを実施し、必要な知識を学んだ上で現地で実践する形式を採用した。現地では被験者2名のソケット採型(型取り)と、その後の修正(型取りしたモデルの形の修正)までを重点的に行うこととした。

事前レクチャー

事前のオンラインでスポーツ義足の作り方についてのレクチャーが行われた。講師の沖野氏と高橋氏がスライドを用いて、マヒドン大学義肢装具学科の義肢装具士たちに自身たちが普段から行っているスポーツ義足の作り方を指導した。

12月9日

初日のオープニングセレモニーでは、マヒドン大学義肢装具学科のディレクターであるジュタマット・ピニットルートサクン氏の挨拶に続き、Xiborg代表の遠藤氏の挨拶と講師陣の紹介が行われ、3日間のワークショップが正式にスタートした。
午前中には、日本から参加した佐藤圭太選手と山本篤選手をモデルに、義肢装具士の沖野敦郎氏と高橋素彦氏による下腿義足と大腿義足の採型デモンストレーションが行われた。現地の義肢装具士たちは、普段行っている日常用義足の採型技術とは異なる、スポーツ義足に特化した採型方法を学んだ。これは、アスリート特有の発達した筋肉への対応、激しい動きに適応するためのコンプレッションの調整、運動に必要な可動域の考慮、より強い地面反力に耐える強度設計など、通常の技術とは異なる高度な知識を含む内容だった。この新たな知識に触れ、現地の義肢装具士たちの間では活発な議論が交わされた。
その後、佐藤圭太選手と山本篤選手が実際に使用しているスポーツ義足を用い、走行用義足の長さやアライメント(ソケットと義足などの固定角度)調整についての説明が行われた。このセッションでも現地の義肢装具士たちから多くの質問が寄せられ、熱心な学びの場となった。
次に、採型後の石膏モデルの修正作業が行われた。コンプレッションレート(周囲長をどれだけ小さくするか)の数値を参考にしながら、石膏を盛ったり削ったりして調整を進める工程を紹介。高橋・沖野両義肢装具士は、日常用義足に用いているものとは異なる走る義足のための数値を紹介した。これらのプロセスは、義肢装具士の教科書に持っているものではなく、経験から得たものである。参加した現地の義肢装具士たちは沖野氏と高橋氏の実践で得た知識を目の当たりにし、多くの議論が飛び交った。
午後はマヒドン大学の競技場に移動し、タイ周辺諸国のアスリートたちを対象とした強化練習会が実施された。日本からは佐藤圭太、山本篤、そして為末大がコーチとして参加し、タイ、カンボジア、ラオス、イランから合計6名の選手と3名のコーチが参加した。
練習会は、まず為末大による体幹周りの強化トレーニングの指導から始まった。その後、佐藤圭太と山本篤が基本的なドリルやマーク走を通して、走るための基本的な動作を確認しながら、速く走るための練習方法を指導した。参加した選手たちやコーチは、普段の練習にはない基本的な動きのトレーニングを行いながら、ブレードや体の使い方を学んだ。


12月10日

初日の練習で話が盛り上がり、タイの祝日にもかかわらず、朝早くから練習を行いたいという意向が高まり、6時からスタジアムを開けてもらい、第二回目の強化練習会が開催された。初日参加したすべてのアスリートも参加した。
1.5日目もドリルから始まり、初日の動きを再確認しながら練習を進め、最後には250mの距離をスピードを出して走った。選手たちにはレベル差があったが、世界で戦ってきた選手たちの走りや練習への取り組む姿勢を見て、参加選手たちは刺激を受けた。

12月11日

2日目は午前と午後に、事前に採型されていた下腿切断および膝離断の患者用義足のラミネーション(樹脂のを型に流し込む作業)が行われた。1回目のラミネーションでは、モデルにカーボンのシートで包んだ状態で樹脂を流し込み、2回目のラミネーションでは義足を取り付けるための金属製のコネクタを組み込んだ状態で樹脂を流し込んだ。現地で使用される樹脂の種類は異なるが、日本と同様の手法で進められた。走行用ブレードを取り付けるコネクタの位置や取り付け方法は彼らにとって初めての知識で、多くのPOたちが実際に手を動かしながら学んだ。
午前中、アスリートたちはホテルのジムでトレーニングを行った。最初に体幹周りのトレーニングをフロアで行い、その後、ダンベルを使って股関節伸展の強化など、帰国後にも続けられるトレーニング方法をみんなで学んだ。午後には義足づくりのワークショップに合流し、施設見学も開催された。

12月12日

最終日には、これまで製作してきたソケットを使用して、患者へのスポーツ義足のフィッティングが行われた。池田選手と山本選手による日常用義足とスポーツ用義足のアライメント調整と歩行デモンストレーションを通じて、荷重線がどこに位置するかを確認しながら、その違いを学んだ。また、スポーツ義足の組み立て方、長さ調整、膝の位置設定方法についても学ぶことができた。
ワークショップでは、下腿および大腿義足使用者2名のソケットを製作し、最終日には新たに2名の大腿義足ユーザーと1名の下腿義足ユーザーを招待して、Xiborg Joyのフィッティングも行われた。クリニック内では、義足組み立て後に簡単な歩行練習を行い、池田選手が下腿ユーザー、山本選手が大腿ユーザーを担当して指導を行った。
午後はスタジアムに移動し、各国のパラアスリートたちも交えて、簡単なドリルからブレードの使い方を学んだ。ストレッチで体をほぐし、壁を使ってブレードへの荷重の姿勢を確認した。
その後、下腿と大腿義足使用者はそれぞれ特有の練習を行った。下腿ユーザーは腿上げやバウンディングを通じて、ブレードで跳ねる感覚を身につけ、 大腿ユーザーは義足側の足を大きく振ってブレードをコントロールし、膝折れしない安定した歩行運動を学んだ。
最後に、下腿義足ユーザーは400m、大腿義足ユーザーは100mを一緒に走り、クリニックは終了した。参加者たちは走ることの達成感を感じ、厳しいトレーニングの中でも終始笑顔が見られた。



総括

実質3日間という短い期間ではあったが、参加した義肢装具士、アスリート、コーチたちは、義足作りから走るための練習、さらに陸上競技のパフォーマンス向上までの一連の流れを密度濃く学ぶことができた。Xiborgはこれまで、パラ陸上競技の発展には選手、コーチ、義肢装具士がチームとして議論を深めることが重要であると考えており、今回のワークショップではこれまでアジア諸国で個別に進められていたプロセスを統合し、三者間で議論を行う場を提供することができた。しかし、まだお互いの専門分野への関心が十分に深まっていない印象も残った。

一方で、日本の選手や義肢装具士が一方的に教えるのではなく、タイをはじめとするアジア諸国の現状を学び、アジア全体のパラスポーツの底上げに必要な課題を共有する貴重な機会となった。

またASEAN周辺諸国からアスリートたちを招待したため、日本語を話す日本からの義肢装具士の言葉をタイ語・ラオ語・ペルシャ語・クメール語に翻訳する必要があった。我々は即席の字幕システムを準備していったものの、専門用語が飛び交い、相互のコミュニケーションが発生する現場では十分には機能しなかった。より理解を深めるためにはシームレスなコミュニケーションシステムが必要となり、今後の課題である。

アジアは地域別の人口規模では世界最大であるにもかかわらず、スポーツへの参加率や世界大会への出場者数は欧米諸国と比べて依然として低い。特に義足製作技術、トレーニング方法、スポーツの普及に向けた取り組みは重要な課題となっている。今回のようなアクションを通じて、この分野の技術と知識が広まり、アジアのスポーツの普及、育成、強化につながることを目指している。その先には、誰もがスポーツを楽しめる社会の実現が期待される。Xiborgだけの枠のとどまらず、今回参加してくれたアスリートや義肢装具士たちと協力し、義足制作・アライメントから歩行・走行の練習、そして強化トレーニングまでの情報を多言語で集約したブレードランニング白書(仮)を制作することにした。乞うご期待。

Xiborgはアジア諸国にとどまらず、世界で義足ランナーの普及・強化な活動に協力してくださるスポンサー・パートナー企業を募集中です。ご興味ある方はinfo@xiborg.jpまで連絡ください。お待ちしております。


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