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ブータン史上初のスポーツ用義足ランナー誕生

ブータン、いわゆるよくあるパラスポーツ後進国。近年関係者の尽力により2017年に国際パラリンピック委員会に加盟し、2021年東京で初めてのパラリンピックに4名の選手が出場した。

実はXiborgは以前からブータンパラリンピックコミッティと連絡を取り合っており、スポーツ用義足のサポートを依頼されていた。新型コロナウィルスの感染拡大やその他の事業の影響でなかなか行くことができなかったが、2023年8月初めてブータンに行くことが実現した。

いつもと違う文化や環境でのスポーツ用義足づくりは、まず現地で使用されている材料やパーツ、装置などをあらかじめヒアリングし、ある程度の準備はするものの、行ってみないとわからないことも多いため、実際に行ってみないと何ができるのかはわからないことが多い。今回のブータン訪問も出発前はまさにその状態だった。出発前に分かったことは

  • ポリプロピレンテクノロジーが使われている (ソケットの強度が弱い)

  • 標準パーツであるピラミッドコネクタも使われている時がある 

  • 下腿義足のトップアスリートが使うようなソケットの後ろに取り付けるタイプの義足は作ったことがない

これらの条件の中で、大腿義足ユーザ1名、下腿義足ユーザ2名が走れるようになるということが今回のブータン訪問の目標だった。

ブータンの首都ティンプーにあるギダゴム病院には日本で見たことあるような機材や装置が一通りあり、材料さえあれば日本で作っているようなソケットも作れる環境が備わっていた。切断患者がこの病院に行けば、国の補助により無償で義足を作れることができるが、その金額は少なく、いまだに国際赤十字がよく途上国など使用するポリプロピレンの義足が作られていた。

大腿義足ユーザのTsheringくん(15歳)は既に国際標準のピラミッドコネクタがソケットの下端についていたため、膝継手とブレードに付け替えるだけで作業は終了した。次の日には為末大が講師として開催されたランニングクリニックに参加し、その様子は現地メディアのBhutan Todayに掲載された。

1人の下腿義足ユーザは断端に傷ができてしまっていたため、今回の作業を中止した。残りの1人は両足下腿義足ユーザで片足は端部が広がる難しい形状の断端を持っていたが、この足に現地で使われているポリプロピレンを使ったスポーツ用義足の作成を現地の義肢装具士を行うことになった。

ポリプロピレンはプラスチックの一種で、カーボン製のソケット比べると強度が弱い。そのため、このソケットの後ろ側にトップアスリートが使用するようなJ字タイプの義足を取り付けるには工夫が必要である。そこで、ソケットの内側に埋め込む金属パーツを日本で作成し、現場でそのパーツを特殊なプロセスでソケットに埋め込む作業を一緒に行った。これは以前我々が2019年にラオスの義肢装具クリニックCOPEで行った作業とほぼ同じものだ。その結果、対象者は走るところまではいかないものの歩行器を使ってゆっくり歩くことができるところまで確認できた。

2016年のリオパラリンピック、2021年の東京パラリンピックにおいて、100m、200mに出場した義足アスリートの中で、OECDの定義でいうLeast Developed Countries(最貧国)からの出場者は0人だ。このことから、用具を必要とするようなパラスポーツには、国の経済状況に深く依存するといえる。ブータンもラオスもこの最貧国に位置付けられている。パラリンピックには色々な意義があるが、その一つには、障害に関係なく誰もがスポーツを楽しめる社会づくりであるはずだ。我々も活動もこの一助になればと思う。

今回のブータン訪問はAthlete Societyの青木氏、Xiborgのメンバーでもある為末大氏、ブータンオリンピックコミッティ、ブータンパラリンピックコミッティのサポートによって実現した。ここに感謝の意を表する。

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