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B・カンバーバッチ主演「エリック(Eric)」についてのメモ

Netflixで配信中のベネディクト・カンバーバッチ主演のリミテッド・シリーズ「エリック(Eric)」についてメモしておきたいと思います。

80年代のNY。人形使いのクリエイターとしてテレビで子供向けの人形劇の番組に出演するヴィンセントは強いストレスを抱えていました。
富豪の家庭出身で父親を憎む彼は理解ある妻を得たものの、最近では夫婦仲がうまく行っていません。その日の朝も夫婦喧嘩をしていると、9歳の息子エドガーは一人で家を出ていきました。
ところが、小学校へ向かったはずのエドガーの姿は忽然と消えてしまい……!?

そんなストーリーであれば当然、誘拐された子供を必死で捜すことになるクライム・サスペンスだと思うかもしれません。
でも、このドラマのタイトルは「エリック」。
父親ヴィンセントでも息子エドガーでもありません。
そして、エリックこそがこのドラマの裏主人公なのです。

エリックは父親譲りの豊かな想像力でエドガーが創り出したキャラクター。
大きな毛むくじゃらの体に低い声、地下に潜んでいる孤独なモンスターです。
エドガーにとってはイマジナリー・フレンドなのかもしれないこのモンスターは、息子を必死に捜すヴィンセント(と視聴者)の眼の前にも現れ、いつしか彼はエリックのキャラクターをテレビ番組に登場させれば息子は帰ってくると考えるようになります。

そんなストーリーであれば、これまた当然、父親が息子を失ったショックで精神を病んで妄想を見るサイコスリラーだと思うかもしれません。
でも、このドラマは80年代のNY社会の空気、社会問題を再現しながらも、ある種の寓話として描かれていきます。

私がこのドラマを観て思いを馳せたのは『ピーター・パン』の物語です。
ピーター・パンの戯曲の英題は『Peter Pan; or, the Boy Who Wouldn't Grow Up』。
ご存知の通りピーター・パンは“大人にならない少年”の象徴です。

芸術家としての自分を理解してくれない貪欲なビジネスマンの父親を憎みつつ愛を求めてきたヴィンセントは、結婚して子供ができても“大人にならない少年”のまま。夫らしい、父親らしい役割を果たせません。

そして、父親に似て感受性の強いエドガーは彼だけの“ネバーランド”へ逃げてしまい、”迷子になった少年(lost boy)”となります。

そんな2人が恐れつつも仲良くしたいと願っているモンスター、エリックは、彼らが共有する寂しさ、孤独、葛藤を象徴する存在で、最後に父子はエリックを通して互いの心に近づき理解し合うことができるようになるのです。

80年代のマイノリティ差別、子供への虐待に端を発する事件をサスペンスタッチで描き現実の悲劇を見せる一方で、“愛”と“希望”を示すポジティブなラスト。
これまでにない独特の作風とカンバーバッチの巧演はぜひ見る価値あり、とオススメしたいです。


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