木のまな板は使い始める前にやるべきことがある
まな板が好きだ。
包丁も好きなので、セットで好きと言ってもいい。
正しく手入れしたよく切れる包丁を、清潔なまな板の上で使うのは気分が良くて楽しい。
そもそも台所仕事が好きというのもあるが、良い道具は仕事を楽しくする。
というわけで、新しいまな板を買った。
これまでは当面の繋ぎとして近所のホームセンターで購入した、薄いヒノキの集成材を使っていた。
しかし、これは荒仕事をする際のまな板になってもらい、これまで寝かせていたスギのまな板をメインにする。
道の駅で安く売られていて、スギというまな板材としての物珍しさで買ってしまったが(マツもあったがさすがにパス)、機械カンナのかけっぱなしで表面が荒れてるし(拡大すれば機械カンナ独特の文様がみえる)、木口は切りっぱなしでザラザラ、角も丸めてなかった。
ホームセンターで買ったヒノキの集成材もそうだったが、とてもじゃないがそのままでは使えない。
表面がザラザラだと汚れが吸着しやすいので、耐水ペーパーで磨いてツルツルにし、木口や角も磨いて滑らかにした。
手で触ってザラつきがあるような安い製品は、必ず最初に磨かなければならないのだ。
そして、まな板に油脂を含ませる。
木のまな板は木が本来持っている油脂分が水を弾くのだが、それは最初の間だけなので、使う前に表面に油脂のコーティングをしてやるのだ。
これをやると断然傷みにくくなる。
そのやり方を今回、新しく買ったまな板で解説しよう。
今回、購入したのは一枚板のヒノキ。
しかも機械ではなく、よく切れるカンナの手削りで仕上げたものだ。
表面が鏡のように美しく、ヒノキの素晴らしい香りがする。
つい、そのまま使いたくなるが、それはNG。
まな板はプレメンテナンスしてやると汚れにくく、内部に水が染みにくくなり、長持ちする。
プレメンテナンスには色んなやり方があるけれど、僕のやり方を解説する。
まず、木口(コバ)の部分に蜜蝋を塗る。
ここは木の道管が露出している部分なので、水が浸潤しやすい。
まな板の内部に水が入ると黒カビが発生し、腐食の原因になる。
このまな板は木口の部分もカンナで鏡面レベルに仕上げてくださっているし、ヒノキは道管が細いので劣化しにくいが、処理はしておいたほうがいい。
ヤナギなどは軽くて柔らかいので玄人に好まれるが、道管が太いので必須の処理だ。
↓杉本木工々房のウエブサイトに掲載されているヤナギのまな板の腐食
http://www.sugimotomokkou.jp/images/yanagi2.jpg
蜜蝋を薄く塗ったら、ドライヤーで加熱して蜜蝋を溶かし、内部に浸透させる。
表面に浮いている蜜蝋が、熱していると徐々に消え、木肌がサラリとしてくる。
そうなればOKだ。
そのまましばらく置き、何度かこの作業をやっておく。
ちょっと色が濃くなるが、カビが生えるよりはいい。
しっかり蜜蝋が浸透すると、こんな感じになる。
これはヒノキではなく、スギまな板の木口だ。
蜜蝋がこれ以上内部に浸透できないため、少し浮いてしまっているが、ここまでやれば効果は高い。
蜜蝋を使う理由は、常温で固まり撥水性が高く、水がかかっても溶けて流れにくいため。
さらに食べてしまっても安全。
食品用のニスもあるので、そちらのほうが強靭かもしれないが、僕は防水・撥水効果が弱くなればまた塗り直せばいいと考え、ナチュラルな蜜蝋を使っている。
木口部分にしっかり蜜蝋が染み込んだら、その他の広い面をプレメンテナンスする。
こちらには食用の乾性油を使う。
アマニ油、エゴマ油、ヒマワリ油、クルミ油などがあるけれど、手に入りやすいのはアマニ油とヒマワリ油だろう。
なんなら香りが好みのものを使えばいい。
僕は香りが良いヘンプ油を持っているのでそれを使っているが、乾いてしまえば香りは消えるのであまり気にしなくていい。
なお、どこの台所にもあるオリーブ油、ゴマ油などの不乾性油はNG。
時間が経っても表面のベタベタ感が消えないので不快だし、食材に油が付着してしまう。
必ず乾性油を使うこと。
全面、蜜蝋を塗ってはどうか?と思われるかもだが、蜜蝋には独特の蝋臭さがあるし、包丁が当たる面はさらりとしているほうが使いやすい。
蜜蝋はまな板のウイークポイントである小口のみが良いと思う。
逆に乾性油だけを全面に塗るのはありだ。
蜜蝋より耐久性は落ちるが、何もしないより遥かにマシだ。
塗り拡げる際は指を使ったほうがいい。
素早く薄く塗ることができる。
塗り拡げることができたら、すぐに表面の余分な油をペーパータオルで拭き取る。
厚塗りすると木肌の質感が損なわれるからだ。
乾性油を塗ると、少し色が濃くなり、木目が美しく浮かび上がる。
油を塗った直後はテラテラと光っているが、乾けばサラリとした手触りになる。
まだ塗っていない裏面と比べると一目瞭然だ。
一晩ほど置き、片面の油がしっかり乾いたら反対側も塗る。
もちろん、側面も忘れないように。
全体がしっかりコーティングされたら使い始める。
食器洗い乾燥機に放り込むなど、ムチャな使い方をしたらどうなるかわからないけれど、普通の使い方なら1-2年は問題ないはず。
木口が黒っぽくなってきたら、耐水ペーパーで削って落とし、再び蜜蝋を塗り込む。
使用面にも2年に1度くらい乾性油を塗ってやると良いだろう。
切り傷が増え、表面が欠落するようになったら自らカンナで削るか、プロの削り直しに出せばいい。
厚みがある一枚板であれば、削り直しさえすれば新品に近いほどキレイになる。
その時は新品同様、ここに書いたメンテナンスを行ってほしい。
こういうのが面倒な人は樹脂のまな板がお勧め。
僕のように木のまな板の手触り、包丁が当たる触感、トントンという音などが好きな人はぜひ手入れをしながら木のまな板と料理を楽しんでもらいたい。
【追記】
とても貴重な国産バッコヤナギのまな板も持っているが、大きすぎて今の狭い台所では出番がない。
プレメンテナンスは完了しているが、使う日は来るのか?💦