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マツカサウオを料理してみた

マツカサウオという魚をご存知だろうか?
体表が鱗というにはあまりに強靭な、まるでエビやカニのような外骨格を持っているような魚だ。

25年くらい前、和歌山県の京都大学白浜水族館を訪れた時、客が全然いなくて暇だからなのか、学芸員の方が館内を案内してくださったことがある。
細かな内容は忘れてしまったが、印象的だったのは魚を説明する際に味の寸評が入ることだ。
生態について説明した後「これは毒があるので残念ながら食べられません」「これは身が水っぽくて食べてもおいしくないです」と述べるのだ。
マツカサウオについては「漁師は丸のまま火にくべて、鱗が真っ黒になるまで焼いたらそれを剥がして食べます。食べるところは少ないですがおいしいです」と言われたはずだ。

僕は「ここは水族館の体を成していますが、実はあなたの個人的な生簀なのでは?」と冗談で訊いてみた。
「いえいえ、病気とか色んな事情で展示できなくなる魚がいるので、それを成仏させるんですよ」といたずらっぽく笑って答えてくれたのを覚えている。

その後、マツカサウオなんかに出会うことなんて一度もなかった。
そりゃそうだよな、あれは水族館の魚だと思っていたら、ヤマスイで売られているではないか!

マジかよ、こんな魚、買う人いるのか?と思い、顔馴染の主任さんに訊いてみると「3パック並べたのに1パック売れてますね!」と言うではないか。
さすがに三枚おろしをお願いするのは申し訳ないので、内臓だけでも出せるかな?と言うと、やってみましょう!と引き受けてくれた。
「内臓はキレイですよ。肝もキレイだからつけときますね!」と内臓を出したものを渡してくれた。

2匹あったので、1匹は京都大学白浜水族館の学芸員が言われたように、丸のまま焼いてみようと思う。
1匹は刺身にしてみようと考えた。
まずは頭を落とさなければならないが、出刃包丁なんて使ったら刃が欠けること間違いなし。
イメージとしては伊勢海老の殻をさらに強くした感じなのだ。

マツカサウオの刺身

SK11万能バサミを使って頭を切り落とし、背鰭に沿って切り込みを入れる。
感覚的には殻が異様に頑丈なエビのようだ。
身は水分が多そうで、柔らかい。
なんとか周囲に切れ込みを入れて、次に中骨に沿って包丁を入れる。

マツカサウオの2枚おろし

内臓を包んでいた腹の部分には身がほとんどない。
腹膜と鱗の間には厚さ1mmほどの身があるかな?という程度で、それを取り出すすべがないので諦めた。
刺身にすると可食部はわずかだ。

硬い殻に張り付いた身を少しずつ剥がす

鱗というか、殻から包丁の刃先を使って、少しずつ剥がすようにして分離させる。
何とか身を取り出すことができた。
血抜きした肝を茹でて添え、何とか少量の刺身が完成した。

マツカサウオの刺身と肝を茹でたもの

食べてみると水分が多く、ブドウの粒のようなぷちゅっとした食感がある。
刺身として見た目の美しさや食感の素晴らしさはないが、旨味が濃くて嫌味が全然ない!
え?なにこれ?旨いじゃん!
と驚いた。

脂がのっているようなまったりとした旨味があるけれど、脂ではなくゼラチンの旨さだと思う。
ハタ科のようなあっさりしたゼラチン質ではなく、まったりして濃厚なのに後口がすっきりしている。
ちょっと深海魚っぽい身質だが、マツカサウオは100m未満の浅瀬に住む魚なので深海魚とは違う。
鎧のような鱗に守られているからこその身質なのだろう。

ちなみに肝は可もなく不可もなく。
肝醤油で食べるほどでもないし、でもクセがなくて旨味もあるので捨てるのは勿体ないかな?という感じ。

骨は柔らかく、血合い骨が上手に抜けなくて身がボロボロになりそうだったので、そのままスライスしたが食べた時には気にならなかった。

マツカサウオの丸焼き

続いて丸焼きだ。
魚の場合、塩焼きと呼びたいが、鎧の上から塩を振っても身には全く浸透しないので塩を振らずに焼いた。
だから丸焼きなのだ。

マツカサウオの丸焼き

身を蒸し焼きにするのでやや弱めの火でじっくり焼いた。
鰭は焦げてしまうが仕方がない。
鎧(鱗)が乾いて、叩くと乾いた音がするくらいまで焼くほうが良いと感じた。
頭をもぎ取り、鱗と身の間に指を入れて、少しずつ鱗を剥がす。
そうすればやっと身が出てくる。

加熱されたマツカサウオの身

生では柔らかい身だったが、焼くと固く締まり、ゼラチンがヌルヌル滑って、中骨から身を外すのは手を使わなければ不可能。
身の硬さは焼いた鶏肉が近いだろう。
ぷりぷりしてゼラチン感がある身を醤油につけて口に運ぶ。

うまっ!と思わず声が出た。
なにこれ、刺身とは別種の旨さ!
加熱した身も嫌味がなく、旨味は濃厚だが後口がすっきりして旨い。

鱗を剥がした全容

上の部分に小さなカマが残っていたので、これも食べてみた。
さすがカマで一層旨かったが、ほんのわずかしか身がなかった。
わざわざ食べなくてもいいかな?と思うくらいの少量だった。

いやー、それにしてもマツカサウオがこんなに旨い魚だったとは驚き!
大変面倒くさい上、可食部が少ない魚だが、味は上々。
刺身にするなら僕が使ったようなハサミが必須。
キッチンバサミだと鱗が切れなくて身がボロボロになってしまうだろう。
簡単なのは丸焼きで、しっかり焼けば鱗を手で剥がすことができる。

追試する人がどれだけいるかわからないし、何よりもこんな魚を売る鮮魚店は滅多にないと思うが、トライする価値はあると思った。

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シャオヘイ
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