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最低賃金の上昇は非正規社員に有利なのか?|最低賃金1,500円の影響

たとえば法務の仕事において、標準的な大学生のアルバイトと10年の実務経験のある弁護士とだと、どれくらいの実力差があるでしょうか。

具体的に数値化することはできないにせよ、2倍や3倍ではすまない差があることは想像に難くないでしょう。

財務の業務についても同じです。標準的な社員と、元ゴールドマン・サックスのバンカーでは、やはり2倍や3倍ではすまない差がついているのです。

今回は、このような「スキル格差」という視点から、最低賃金について簡単な考察をしてみたいと思います。

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サマリ

1. スキルの格差

2. 雇用主からみた最低賃金

3. 最低賃金があがるとはどういうことか

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1. スキルの格差

冒頭で述べたように、ビジネスパーソンの間のスキル格差は2倍や3倍で収まるものではありません。

法務や財務ではイメージしづらい場合は総務でイメージしてみるとよいでしょう。

日常的な業務管理を行うにあたって、派遣社員が10人で仕事をするのと、天才的なエンジニアが2人で作業を自動化していくのとで、どれくらい生産性が変わるでしょうか。

すべての作業が自動化できるわけではないでしょうけれど、作業量が10分の1になったとしても驚きはしないでしょう。

仮に5分の1の人数で作業を10分の1にできるとすれば、1人あたりの生産性は50倍にも及ぶのです。

生産性に50倍もの差があれば、優秀なエンジニアと派遣社員とで10倍くらい年収に差がついても不自然ではないでしょう。

実際、優秀なエンジニアの年収は2,000万円を超えることもありますから、年収には5倍や10倍の差がついています。

◆非エンジニア職の格差

財務の仕事では、コーポレートファイナンスやアカウンティングの知識が必要になることも珍しくありません。

こういった部分をいちいち調べながら(しかもときに間違いながら)取り組む場合と、プロフェッショナルとして取り組む場合とでは、やはり10倍や20倍の差はついてしまいます。

生産性に20倍の差がついたからと言って給与に20倍の差がつくわけではありませんが、5倍程度の給与差はやむを得ないでしょう。

2. 雇用主から見た最低賃金

最低賃金にまつわる議論においては、雇用主は以下のような選択をすることになります。

A. (1)最低賃金で、(2)スキルの乏しい社員を、(3)たくさん雇う
B. (1)高額な報酬で、(2)プロフェッショナルを、(3)少数雇う

もちろん、実際の労働市場においてはAとBの中間的な選択肢もあります。

◆プロフェッショナルを雇うメリットとデメリット

プロフェッショナルは転職できる実力を持っていますから、もし会社に不満があったらすぐにやめてしまいます。

この点で、Bを選び続けるというのはリスクが高い選択となります。退職してしまうと代わりを探すのもひと苦労です。

プロフェッショナルが不満を感じないために、余計な配慮が必要になることもあります。

しかし、こういったデメリットがある分だけ、賃金の割にはきわめて生産性が高いというメリットもあるのです。

◆最低賃金付近で雇うメリットとデメリット

最低賃金付近で従業員を雇うのは「生産性の割には賃金が高い」というデメリットがあります。

しかし、最低賃金付近の労働者は交渉力が低いので、そう簡単には転職できませんし、引継ぎ者の採用もプロフェッショナルよりは簡単です。

このように、最低賃金付近で雇うことは非常にローリスクな雇用となっています。

戦略的に雇用する企業であれば、このような視点で採用を行うことになります。

私がかつて働いていた外資系投資銀行においても「優秀だけど他社に奪われそう」と「若干優秀さで劣るが確実に入社してくれそう」という2人の候補者がいた場合は、どちらを採用すべきか必ず議論になりました。

ハイリスク・ハイリターンとローリスク・ローリターンは、一概にどちらが良いかはわからないものなのです。

結果として、大きめの企業はプロフェッショナルを少数雇ったうえで、プロフェッショナルでない従業員も大量に雇用することになります。

3. 最低賃金が上がるとはどういうことか?

最低賃金付近で働く従業員にとって、最低賃金の上昇は一見良いものかもしれません。

しかし、先述のとおり、最低賃金付近の労働者というのはすでに「割高」です。

一方で、プロフェッショナルの報酬は最低賃金にほとんど左右されませんから、もし最低賃金が上がったとしたら、割安になったプロフェッショナルへと雇用がシフトする可能性があります。

副次的には、プロフェッショナルの高い生産性によって、派遣社員がやらねばならない仕事が減り、派遣社員の採用数が減少していくでしょう。

もしくは、プロフェッショナルがやりたがらない仕事ばかりが派遣社員のところに集まり、派遣社員の働きがいはどんどん減少してしまうでしょう。

まとめ

最低賃金というものを雇用する側の観点から考察してみました。

実際の世の中には、あまり考えずに採用をしている企業も珍しくありませんが、多かれ少なかれ上のような比較構造になっているというのは事実です。

もし「苦労している非正規の社員のために」と思って最低賃金の上昇を主張しているのであれば、もう少し冷静になったほうが良いと思います。

個人的には、非正規社員を守る最大の施策は「正規社員の解雇規制を緩和する」というものだと考えています。

正規社員を簡単に解雇できるようになれば、優秀な非正規社員が正規社員の代わりをつとめやすくなります。

もちろん、この考え方に対しては「優秀でない正規社員」という世の中のボリュームゾーンからの反対が多くあるでしょうけれど。

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